第3話 初バズ、そして炎上の気配
逃げていた。
全力で。
「うおおおおおおおっ!?」
アルトは石造りの通路を死ぬ気で駆け抜けていた。
後ろから、
巨大蜘蛛が壁を砕きながら追ってくる。
速い。
デカい。
怖い。
『速ぇ』
『奈落蜘蛛キレてる』
『新人、ヘイト管理ミスったな』
『初見でタゲ取るの才能ある』
「そんな才能いらねぇよ!!」
蜘蛛の脚が振り下ろされる。
轟音。
石床が砕けた。
破片が背中を掠める。
「いったぁ!?」
『痛覚緩和仕事しろ』
『もっと投げるか?』
『新人の悲鳴は健康に良い』
「お前ら最低だな!?」
アルトは曲がり角へ飛び込む。
だがその瞬間。
背筋が粟立った。
【《危機察知》が発動しました】
「っ!?」
反射的にしゃがむ。
次の瞬間。
白い糸が頭上を貫いた。
壁が溶ける。
「うわっ!?」
『ナイス回避』
『今の死んでた』
『危機察知ちゃんと強いな』
アルトは転がるように立ち上がる。
荒い息。
心臓が痛い。
だが。
そこで気づいた。
「……あれ?」
視界の端。
コメント欄の横に、
別の表示が増えていた。
【急上昇クリップランキング】
1位
【奈落落下新人、酔拳で魔鳥を蹴り飛ばす】
再生数:4,812
2位
【新人、初戦で核抜き】
再生数:3,902
「増えすぎだろ!?」
『バズってる』
『伸び方えぐい』
『酒神界隈で完全にハマった』
『切り抜き職人が優秀』
「職人文化あるの!?」
アルトは叫びながら走る。
その時だった。
【現在視聴中:683柱】
「また増えてる!?」
『今トレンド入った』
『新人ランキング5位』
『一話でこれは異常』
「ランキングあるの!?」
蜘蛛が再び突っ込んでくる。
アルトは飛び込むように横転した。
轟音。
蜘蛛の牙が石壁を砕く。
その衝撃で、
天井にヒビが走った。
『あ』
『それまずい』
『崩れるぞ』
「なんでみんな実況だけで助けねぇんだよ!?」
ミシミシ、と嫌な音。
アルトの顔が引きつる。
次の瞬間。
天井が崩落した。
「うわぁぁぁぁ!?」
瓦礫。
土煙。
通路が崩れる。
巨大蜘蛛の姿が土煙に飲まれた。
静寂。
「……は?」
アルトは呆然と立ち尽くした。
助かった。
のか?
『生きてる?』
『新人ー』
『応答しろ』
『死んだ?』
「生きてるわ!!」
アルトが叫んだ瞬間。
コメント欄が一気に流れる。
『うおおおお!!』
『生存確認』
『耐久高ぇ』
『この新人面白いな』
「人をおもちゃみたいに言うな!」
その時だった。
【女神ルナ=ミリスがコメントしました】
『良かった……』
その一言だけ。
だが。
今までと違った。
ネタじゃない。
本気で安心したみたいな文字だった。
アルトは少しだけ黙る。
「…………」
『ルナ様、感情入ってんな』
『ガチで推してる?』
『重い』
『恋じゃん』
『違います!!』
コメント欄に高速で流れる。
「否定はやっ!?」
『かわいい』
『ルナ様テンパってる』
『スクショした』
『消して!!』
「お前ほんと神か!?」
アルトが思わずツッコんだ、その時。
コメント欄が、
一瞬で凍りついた。
『あ』
『来た』
『最悪』
『空気終わった』
「……え?」
次の瞬間。
黒いコメントが流れた。
【退屈ですね】
たった一言。
だが。
空気が変わった。
今まで騒がしかったコメント欄が、
一瞬で静まる。
アルトの背筋に、
嫌な汗が流れた。
「……誰だ?」
『観測神』
『やばい』
『最悪のタイミング』
『新人終わったかも』
その瞬間。
迷宮全体が震えた。
ゴゴゴゴゴ……!!
壁が揺れる。
床が軋む。
「な、なんだ!?」
暗闇の奥。
土煙の向こうで。
巨大蜘蛛が、
ゆっくり立ち上がった。
だが。
さっきと違う。
外殻が赤黒く発光していた。
『強化個体』
『嘘だろ』
『観測神ブーストか』
『新人にそれは無理』
蜘蛛の目が、
ギロリとアルトを捉える。
そして。
咆哮。
轟音が迷宮を揺らした。
「……は?」
【奈落蜘蛛・狂化種】
その文字が、
アルトの視界に浮かぶ。
『終わった』
『新人配信ここまでか?』
『いや逆に伝説になるぞ』
アルトは引きつった顔で後退した。
「……なんで俺だけ難易度おかしくない?」




