第4話 帰還条件、ランキング100位以内
死ぬ。
アルトはそう思った。
狂化した奈落蜘蛛が、
迷宮を砕きながら突っ込んでくる。
速い。
重い。
そして何より――殺意がヤバい。
「なんで急に強化イベント入ったんだよぉぉぉ!!」
『観測神案件』
『ご愁傷様』
『新人に狂化種は草』
「笑い事じゃねぇ!!」
アルトは崩れた通路を全力疾走していた。
背後では蜘蛛の脚が石壁を砕き、
轟音が響き続ける。
【現在視聴中:821柱】
「増えるな!!」
『神回の匂いするし』
『観測神出たからな』
『今、神界トレンド1位だぞ』
「最悪だよ!!」
その瞬間。
前方の床が崩れた。
「うわっ!?」
アルトは咄嗟に跳ぶ。
足場が奈落へ落下していく。
着地。
だが勢いが止まらない。
滑る。
その先には崖。
「ちょ、待っ――」
落ちた。
『あ』
『いつもの』
『落下助かる』
「助からねぇぇぇぇぇ!!」
落下。
風圧。
胃が浮く。
だが。
【《空中姿勢制御》発動】
身体が勝手に回転する。
空中で体勢が整う。
「これほんと落下に強ぇな!?」
『SSRスキル』
『地味に神』
『落下専用だけど』
「専用すぎるだろ!!」
その時。
下に光が見えた。
巨大な空洞。
地下湖だった。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
着水。
轟音。
冷水が全身を叩く。
アルトは水面から顔を出した。
「ぶはっ!!」
息が痛い。
肺が焼ける。
だが。
上から蜘蛛が落ちてこない。
『助かった?』
『いやまだ』
『新人、後ろ』
「その言い方もう嫌なんだよ!」
振り返る。
巨大な影。
水の中。
何かいる。
「……は?」
次の瞬間。
水面が爆発した。
「うわぁぁっ!?」
巨大な魚の顎が、
アルトを噛み砕こうと迫る。
『奈落魚だ』
『連戦で草』
『新人過酷すぎる』
「休憩させろぉ!!」
アルトは必死に泳ぐ。
だが。
突然、
コメント欄の流れが変わった。
『お』
『来た』
『ギルド広告だ』
『新人、運いいな』
「……広告?」
視界の端に、
突然ウィンドウが開く。
【奈落迷宮公認配信者ギルド】
《ヘルメス・ネットワーク》
【新人冒険者へのお知らせ】
『神界ランキング100位以内到達者には、
異世界帰還権が与えられます』
アルトが止まった。
「……は?」
魚が迫る。
だが、
アルトの頭はそれどころじゃなかった。
「帰れるのか……?」
『一応な』
『都市伝説だけど』
『実際帰った奴いない』
『でも制度はある』
アルトの顔が変わる。
初めて。
配信でも、
神でもなく。
本気の感情が浮かんだ。
「……帰れるなら」
呟く。
「帰れるなら、俺……」
その瞬間。
巨大魚が突っ込んできた。
『危なっ』
『新人!!』
アルトは反射で横へ泳ぐ。
顎が水を裂く。
ギリギリ。
死ぬところだった。
だが。
今のアルトは、
少しだけ違った。
帰れる。
その可能性がある。
たったそれだけで、
身体に力が戻る。
「……上等だ」
アルトは息を吐く。
そして。
巨大魚を睨んだ。
「そのランキングってやつ、入ればいいんだろ」
『お?』
『言った』
『新人、覚悟決まった?』
アルトは笑った。
疲れ切って、
ボロボロで。
それでも。
「やってやるよ」
その瞬間。
【女神ルナ=ミリスがクリップを保存しました】
『ルナ様!?』
『今の顔好きなんだろ』
『完全に推してる』
コメント欄が盛り上がる。
だがその中で。
一つだけ。
黒いコメントが流れた。
【帰還を望みますか】
観測神。
アルトの背筋が冷える。
【ならば、“物語”になりなさい】
その文字だけが、
ゆっくり表示された。
まるで。
試すように。




