第15話 炎上配信者ガルム
第二層は静かだった。
さっきまでの戦闘が嘘みたいに。
アルトは岩に背中を預けながら、
荒い息を吐く。
「……疲れた」
『お疲れ』
『神回だった』
『切り抜き量産されてるぞ』
「怖ぇんだよその文化……」
ミナは少し離れた場所で、
小さな焚き火を作っていた。
回復術師なのに、
火起こしだけ妙に上手い。
『ミナちゃん生活力高い』
『嫁適性』
『ルナ様が曇るぞ』
『曇りません!!』
「もう常駐してんのかよ!」
アルトが思わず叫ぶ。
ミナがびくっと肩を震わせた。
「ひゃっ!?」
「あ、ごめん!」
『新人、女の子慣れしてなさすぎ』
『陰キャ感ある』
「放っとけ!!」
その時だった。
視界の端に通知が流れる。
【神界速報】
《中堅配信者《疾風のガルム》、
本日の配信を中止》
アルトが止まる。
「……ガルム?」
コメント欄が少しざわつく。
『あー』
『炎上してる』
『さっきの件切り抜かれた』
「え?」
次の瞬間。
関連クリップが勝手に表示された。
【《誰にも見られなくなる》発言まとめ】
再生数:482,000
コメント:
《見ててキツい》
《昔は好きだった》
《壊れてるじゃん……》
アルトは少し黙る。
ミナも不安そうに画面を見る。
「……これ」
『配信者は落ち始めると早い』
『スポンサー神も離れる』
『今かなり危ない状態』
アルトは頭を掻いた。
「いや……
でもあいつ、そんな悪い奴って感じでも……」
『追い詰められてた』
『数字依存』
『割とよくある』
空気が少し重くなる。
その時。
突然、
新しい通知が来た。
【個人メッセージ】
アルトは眉をひそめる。
「またDM?」
開く。
そこには。
《……お前、ムカつく》
《でも》
《お前の言ってたこと、
少しだけ分かった気がする》
《――ガルム》
アルトは固まった。
『お?』
『送ってきた』
『意外』
『ガルム、生きてたか』
アルトは少し笑う。
「なんだよそれ……」
ミナが小さく首を傾げた。
「……嫌いじゃないんですか?」
「いやまあ……
感じ悪いけど」
アルトは苦笑する。
「でも、
ああいう必死な奴は嫌いじゃねぇよ」
コメント欄が少し静かになる。
『新人』
『そういうとこだぞ』
『だから伸びるんだよな』
「なんだよその言い方」
その時だった。
空気が変わる。
第二層の奥。
暗闇。
そこから、
低い音が響いた。
ゴォォォォ……。
ミナの顔が青ざめる。
「……え?」
地面が揺れる。
アルトはゆっくり立ち上がった。
『あ』
『来た』
『第二層の主』
「待て待て待て」
暗闇の奥。
巨大な赤い光が灯る。
目だった。
一つ。
いや。
二つ。
三つ。
増える。
それが、
ゆっくり近づいてくる。
『新人』
『休憩時間終了です』
「ブラック運営すぎるだろこの世界ぃぃぃ!!」
その瞬間。
巨大な咆哮が、
第二層全体を揺らした。




