第14話 初めての“ファン”
双頭狼が倒れる。
地響き。
赤黒い地面に、
巨体が沈んだ。
静寂。
そして。
【奈落双頭狼 討伐成功】
通知が響いた瞬間。
コメント欄が爆発した。
『うおおおおおおおお!!』
『新人やりやがった!!』
『第二層中ボス撃破!?』
『神回確定!!』
【神界同時接続数:28,941柱】
「増えすぎぃ!!」
アルトは叫びながら膝をつく。
肩が痛い。
全身痛い。
もう限界だった。
ミナが慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫に見える!?」
『見えない』
『瀕死』
『でも顔は良い』
「顔評価やめろ!!」
ミナが思わず吹き出した。
「ふ、ふふっ……」
アルトは少し止まる。
この子、
笑うと年相応なんだな。
今までずっと、
怯えてばかりだったから。
その時。
通知が大量に流れ始めた。
【フォロー数急増中】
【神界ランキング変動】
《圏外 → 58位》
「58位ぃ!?」
『うおおお!!』
『帰還圏内見えてきた!!』
『新人バケモンか!?』
アルトは息を切らしながら笑う。
「いや……
マジで上がるんだな」
少しだけ。
本当に少しだけ。
帰れるかもしれない、
と思ってしまった。
その瞬間だった。
【女神ルナ=ミリスがギフトを贈りました】
【100,000神貨】
「桁ぁ!?」
『ルナ様ぁぁぁ!!』
『重課金すぎる』
『完全に脳焼かれてる』
『違います!!』
「もう様式美なんだよそれ!」
だが次の瞬間。
アルトの身体を、
銀色の光が包む。
【《上級治癒》】
【《疲労回復》】
肩の痛みが引いていく。
ミナが目を丸くした。
「す、すご……」
アルトは空を見上げる。
「……ありがとな」
一瞬。
コメント欄が止まった。
『え』
『今』
『ありがとう言った!?』
数秒遅れて。
ルナのコメントが流れる。
『……どういたしまして』
短い。
でも。
明らかに嬉しそうだった。
『ルナ様かわいい』
『神界トレンド1位確定』
『やめてください!!』
「忙しいなこの女神!?」
その時だった。
突然。
別の通知が流れる。
【個人メッセージ申請】
「は?」
『お』
『ファンレターだ』
『初DM』
「DM文化あんの!?」
恐る恐る開く。
そこには。
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《新人さんへ》
《今日の配信、
本当に勇気もらいました》
《私も、
誰にも見られないのが怖かったので》
《生き残ってください》
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アルトは少し黙る。
「…………」
『古参一号だ』
『初ファンおめ』
『新人、もう推され始めてる』
アルトは頭を掻いた。
「……なんか変な感じだな」
ミナが小さく笑う。
「でも……
嬉しそうです」
「そんなこと――」
言いかけて。
止まる。
嬉しい。
少しだけ。
本当に少しだけ。
誰かが見てくれているのが。
その感情に気づいた瞬間。
黒いコメントが流れた。
【――“観測”を、
心地良いと感じ始めましたか?】
オルフェウス。
空気が冷える。
アルトの顔から笑みが消えた。
「……違う」
即答だった。
「これはお前の言う“物語”じゃねぇ」
オルフェウスは静かだった。
アルトは拳を握る。
「俺は……
見世物になりたいわけじゃない」
コメント欄が静まる。
アルトは続けた。
「でも」
DMを見つめる。
「誰かが、
“見てて良かった”って思うなら」
少しだけ笑った。
「それは……
悪くないのかもな」
静寂。
コメント欄が、
ゆっくり流れ始める。
『あ』
『これ』
『新人、変わり始めてる』
その中で。
ルナだけは、
何もコメントしなかった。




