第13話 バズった瞬間、人は壊れる
「アルトさんっ!!」
ミナの悲鳴が響く。
双頭狼の牙が、
アルトの肩へ深く食い込んでいた。
熱い。
痛い。
腕が痺れる。
「っ、ぐ……!」
『新人!?』
『出血やばい』
『まずいまずいまずい』
コメント欄が荒れる。
【神界同時接続数:15,204柱】
「増えてる場合かよ……!」
アルトは顔を歪めながら叫ぶ。
双頭狼が牙をさらに押し込む。
骨が軋む音。
ミナの顔が真っ青になる。
「《ヒール》!!
《ヒール》!!」
必死に回復魔法を飛ばす。
だが。
追いつかない。
『回復量足りない』
『レベル差ある』
『新人これマジで死ぬぞ』
その時だった。
コメント欄の流れが変わる。
【戦神グラムが投げ銭しました】
【20,000神貨】
「うおっ!?」
右腕が熱を帯びる。
【《鬼握力》強化】
【《痛覚耐性》獲得】
『グラム様うおおお!!』
『脳筋介入』
『筋肉で解決しろってことか』
「雑すぎるだろぉ!!」
だが。
痛みが少し引く。
身体に力が戻る。
アルトは双頭狼の牙を掴んだ。
「……ぉ、おおおおっ!!」
ミシッ。
牙が軋む。
『!?』
『握ってる!?』
『新人フィジカルどうなってんだ』
アルトは叫びながら、
無理やり双頭狼を押し返した。
轟音。
巨体が後退する。
血が飛ぶ。
息が苦しい。
でも。
まだ動ける。
その瞬間。
【女神ルナ=ミリスがギフトを贈りました】
【《緊急保護障壁》付与】
銀色の光がアルトを包む。
直後。
別の魔狼が飛びかかってきた。
だが。
バギンッ!!
障壁が牙を弾く。
『ルナ様ぁぁ!!』
『ガチ保護』
『完全に推してる』
『違います!!』
即否定。
アルトは思わず叫ぶ。
「今それやってる場合か!?」
だが。
その瞬間だった。
黒いコメントが、
静かに流れる。
【美しいですね】
空気が冷えた。
オルフェウス。
アルトの顔が歪む。
「……何がだよ」
【“誰かを庇う”行為は、
観測に値します】
アルトは理解した。
こいつ。
本気で。
人の感情を、
物語として見ている。
怒りが湧いた。
「……ふざけんな」
双頭狼が再び突っ込んでくる。
だが。
今度のアルトは逃げなかった。
「ミナ!!」
「は、はいっ!?」
「回復合わせろ!!」
アルトは走る。
正面から。
『お!?』
『行くのか!?』
『新人、それ脳筋ルート』
「うるせぇぇぇ!!」
双頭狼が咆哮する。
アルトは跳んだ。
酔拳の不規則軌道。
空中姿勢制御。
全部が噛み合う。
双頭狼の頭上。
アルトは拳を振り上げる。
「うおおおおおおおっ!!」
その瞬間。
ミナの魔法が飛んだ。
【《身体強化》】
「えっ」
アルトの身体が軽くなる。
『うお!?』
『ミナちゃん覚醒!?』
『支援タイミング完璧!!』
アルトの拳が、
双頭狼の片方の頭へ直撃した。
ズドォォォォン!!
轟音。
地面が砕ける。
双頭狼の巨体が吹き飛んだ。
『うおおおおおおお!!』
『神回!!』
『今のエグい!!』
『切り抜き確定!!』
【神界同時接続数:21,883柱】
数字が爆発する。
アルトは荒い息を吐きながら、
倒れた双頭狼を見る。
まだ終わってない。
でも。
確実に押している。
その時だった。
ミナが、
震える声で呟く。
「……すごい」
アルトは苦笑した。
「いや全然すごくねぇよ……」
血まみれ。
ボロボロ。
肩も痛い。
でも。
ミナは小さく首を振った。
「私……
初めてです」
震える声。
「“見られるのが怖くない”って思ったの」
静寂。
コメント欄が、
少しだけ止まる。
アルトは目を見開いた。
その瞬間。
オルフェウスが、
静かに笑った気がした。
【――だから“物語”は美しい】




