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第11話 回復術師ミナと、最悪の視聴率

 赤い空だった。


 空気が重い。


 地面は黒く、

 脈打つように微かに震えている。


 アルトはゆっくり周囲を見渡した。


「……嫌なステージすぎるだろ」


『奈落第二層へようこそ』

『新人、地獄編です』

『背景からもう帰りたくない』


「俺は帰りたいんだよ!!」


 目の前には、

 黒い墓標が並んでいた。


【歴代挑戦者】


 その文字。


 墓標の数。


 アルトは乾いた笑みを浮かべる。


「いや多くない?」


『察しろ』

『生存率8%』

『ここで折れた奴多い』


「開幕から心折りに来るなぁ……」


 その時だった。


 視界の端に通知が出る。


【神界アンケート】


《新人は生還できると思いますか?》


YES 12%

NO 88%


「信用なさすぎだろ!!」


『草』

『現実は非情』

『でも逆張り神もいる』


「投票機能まであんの!?」


 アルトが叫んだ瞬間。


 背後で光が弾けた。


「うおっ!?」


 振り返る。


 転移陣。


 そこから、

 一人の少女が転がり落ちてきた。


「きゃっ!?」


「うわっ!?」


 二人まとめて地面を転がる。


 アルトは数秒遅れて固まった。


「……は?」


 栗色の髪。


 小柄な回復術師。


 見覚えがある。


『あ』

『ミナちゃん!?』

『なんで!?』


 少女――ミナも混乱していた。


「え、え!?

 ここどこですか!?」


「俺が聞きたいわ!!」


 コメント欄が爆速になる。


『観測神ぃぃぃ!!』

『また勝手に追加キャストしてる』

『最低だなあの神』


 その瞬間。


【追加特別ルール】


《同行者の生存率も評価対象になります》


 アルトの顔から、

 スッと表情が消えた。


「…………」


『うわ』

『最悪』

『観測神やりやがった』


 ミナが青ざめる。


「え……

 わ、私のせいで……」


 アルトは頭を抱えた。


「いや違う。

 お前は悪くない」


 本当に悪いのは、

 絶対あの仮面野郎だ。


 コメント欄に、

 黒い文字が流れる。


【単独では、“面白くない”でしょう?】


「性格終わってんなお前!?」


『新人、ついに言った』

『観測神に暴言w』

『でもみんな思ってる』


 ミナが震えながら周囲を見る。


「こ、ここ……

 第二層って……」


「知ってんのか?」


 ミナの顔が引きつる。


「高ランク冒険者でも、

 パーティで挑む場所です……」


『その通り』

『新人、本来なら即死』

『でも今一番視聴率高い』


【現在視聴中:8,421柱】


「増えんな!!」


 アルトは叫びながら頭を抱える。


「なんで危険になるほど増えるんだよ!」


『人は危険が好きだから』

『神も同じ』

『悲しいね』


 アルトは少し黙る。


 その言葉。


 妙に嫌だった。


 その時。


 遠くで、

 何かが吠えた。


 グルルルルル……。


 低い。


 獣の声。


 ミナがビクッと肩を震わせる。


「ひっ……」


『来た』

『第二層の犬』

『新人、戦闘開始です』


「テンポ早ぇよ!!」


 黒い影が現れる。


 四足。


 三メートル級。


 牙だらけ。


 赤い目。


【奈落魔狼】


 アルトはミナを背中側へ押した。


「下がってろ」


「で、でも……!」


「回復役は後ろ!

 ゲームの基本だろ!」


『その知識あるの草』

『元ゲーマー』

『配信者適性高いな』


「だから配信者じゃねぇって――」


 魔狼が跳んだ。


 速い。


 だが。


【《危機察知》発動】


 アルトは反射で踏み込む。


 酔拳の揺れる動き。


 紙一重。


 牙を避ける。


『うお』

『避けた』

『新人マジで適応してきてる』


 アルトは叫ぶ。


「適応したくてしてねぇよ!!」


 だが次の瞬間。


 第二の影。


「……え?」


 もう一匹。


 さらに。


 奥から赤い目。


 三匹。


 四匹。


『あ』

『群れだ』

『終わったか?』


「毎回それ言うなぁぁぁ!!」


 ミナが青ざめる。


「む、無理です……!」


 アルトは息を吐いた。


 怖い。


 本当に。


 だが。


 今は一人じゃない。


 それが逆に、

 逃げる選択肢を消していた。


 アルトは拳を握る。


「……ミナ」


「は、はいっ!?」


「回復できるか?」


 ミナは震えながら頷く。


「す、少しだけなら……!」


「よし」


 アルトは苦笑した。


「じゃあ死なない程度に頑張る」


『うおおお!!』

『主人公してる』

『新人、顔つき変わったな』


 その中で。


 黒いコメントだけが、

 静かに流れた。


【“誰かのため”は、

 良い感情です】


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