第108話 誰も座っていない席
朝、真ん中の席には誰も座っていなかった。
当たり前のことだった。
まだ店は開いていない。
朝の仕込みも始まっていない。
戸口の鈴も静かで、外の通りにも人の気配は少ない。
誰も座っていない席。
ただの席。
そう見えるはずなのに、アルトはそこを見て、少しだけ足を止めた。
昨日と同じ場所に、椅子がある。
昨日と同じ高さに、机がある。
けれど、昨日と違って見えた。
何かが置かれているわけではない。
水もない。
皿もない。
芋もない。
言葉もない。
それなのに、そこだけ少し空いているように見える。
空席。
ただの空席ではない。
誰かを待っているように見える空席。
アルトは眉を寄せた。
「気に入らないな」
自分で言って、少し驚いた。
昨日も、似たことを思った。
皿はある。
言葉もある。
でも、相手が見えていない。
見えていない相手に皿を押しつけない。
それが昨日の結論だった。
なら、席も同じだ。
誰が座るか分からない席を、勝手に誰かの席にしてはいけない。
マルタが厨房から出てきた。
手には布巾。
まだ濡れていない。
「朝から席と喧嘩かい」
「してない」
「してる顔だよ」
マルタは真ん中の席を見る。
「空いてるね」
「ああ」
「空いてるだけだよ」
「そう見えない」
「じゃあ、使うよ」
マルタはそう言って、椅子を引いた。
ぎい。
そのまま座る。
アルトは少し目を見開いた。
「座るのか」
「席だからね」
「そこは」
「そこは、席だよ」
マルタは布巾を机に置く。
「誰かのために空けておくのと、誰かを勝手に座らせるのは違う」
「分かってる」
「分かってる顔じゃなかったよ」
アルトは黙った。
マルタは机を軽く叩いた。
とん。
「席は、空けすぎると偉くなる」
「皿みたいだな」
「そう。皿も席も、偉くなると面倒だよ」
ミアが階段から顔を出した。
「偉い席?」
「今なりかけてた」
マルタが答える。
ミアは真剣な顔になる。
「だめ?」
「だめではないけど、座りにくい」
「じゃあ座る」
「そう」
ミアは階段を駆け下りてきた。
マルタの隣に立ち、椅子の背を触らずに見る。
「マルタ席」
「違う」
「今だけ?」
「今だけ」
「じゃあ、食べてる間はマルタ席?」
「私は今食べてないよ」
ミアは考え込んだ。
「布巾してる間?」
「そうだね。布巾してる間はマルタ席」
アルトは少し笑った。
席が、少し軽くなった。
ただの席に近づいた。
誰かが座れば、その人の席になる。
誰も座らなければ、席になる。
その単純なことを、朝からまた確認した。
◇
浅い皿は、芋の近くに置かれていた。
昨日と同じではない。
少しだけずらしてある。
ミアの深皿も、ルナの普通の皿も、ブルーノの灰色の皿も、ガルドの木の皿も、白い皿ではなく、昨日選ばれた皿たちがそれぞれ少し離れて置かれている。
一列ではない。
円でもない。
きれいな配置ではない。
だが、近くにある。
アルトはそれを見て、少し安心した。
きれいすぎると、また偉くなる。
ブルーノはその配置を見ながら、紙を持っていた。
「記録しないのか」
アルトが聞く。
「記録すると、配置図になります」
「だめか」
「だめではありませんが、今は地図にしない方がよい気がします」
マルタが台を拭きながら頷く。
「地図にすると、そこに置かなきゃいけなくなるからね」
ミアが深皿を少し動かす。
「今日はここ」
「理由は?」
ブルーノが聞く。
「昨日と違う」
「それだけですか」
「それだけ」
ブルーノは少し考えた。
「十分ですね」
ミアは満足した。
ルナが降りてきた。
手には水の入ったコップ。
今日も、自分で入れてきたらしい。
彼女は皿を見た。
少しだけ息を止める。
だが、昨日のように泣きそうにはならない。
ゆっくり息を吐く。
「皿が、少し動いています」
「固まらないように」
ミアが答える。
「はい」
ルナは頷く。
「私の皿も、動かしていいですか」
ミアが少し驚いた。
「ルナが?」
「はい」
「自分で?」
「はい」
ルナは普通の皿へ手を伸ばした。
持ち上げる。
少し迷う。
芋の籠の近くから、半歩ほど離す。
でも、遠くには置かない。
水差しが届く位置。
芋の匂いも届く位置。
真ん中ではない。
遠くでもない。
こと。
皿が置かれた。
端末は震えない。
それでよかった。
何でも端末に拾われる必要はない。
ルナは皿から手を離して言った。
「置けました」
ミアが頷く。
「えらい」
ルナは少しだけ笑った。
「ありがとうございます」
ブルーノが紙を持ちかけた。
やめた。
ミアがそれを見て言った。
「ブルーノもえらい」
「今日は私もですか」
「うん」
ブルーノは、少しだけ困った顔で頷いた。
◇
朝食は、芋入り粥だった。
焼き芋は出なかった。
ミアは少し不満そうにしたが、昨日の「焼き芋は逃げない」を思い出したのか、文句は少なかった。
「今日は焼かない?」
「昼に考える」
マルタが言う。
「任意?」
「任意」
「腹の都合?」
「そう」
ミアは頷いた。
「じゃあ、今は粥」
アルトは粥を食べる。
温かい。
強くない。
朝にはちょうどいい。
ルナも食べる。
水も飲む。
食べる速度はゆっくりだが、止まってはいない。
ブルーノが端末を見た。
朝食の途中で見るのは珍しい。
アルトが視線を向けると、ブルーノは小さく頷いた。
「通知ではありません。表示が変化しています」
「何だ」
端末には、薄く文字が出ていた。
【提供待機:非強制】
【提供相手:未照合】
【提供可否:保留】
【席状態:未指定】
アルトは最後の行を見る。
「席状態」
ブルーノは頷く。
「未指定です」
「誰の席でもないってことか」
「はい。少なくとも、向こう側はまだ誰かに指定していません」
ミアが粥を食べながら言う。
「いいこと?」
アルトは少し考える。
「たぶん」
マルタが椀を置く。
「少なくとも、悪くないね」
ルナは端末を見る。
「指定されていないなら、こちらが勝手に指定してはいけません」
「ああ」
「でも、空けておくことはできます」
アルトは真ん中の席を見る。
さっきマルタが座った席。
今は誰も座っていない。
けれど、朝よりは軽い。
空けておく。
指定しない。
似ているようで違う。
ブルーノが紙に薄く書いた。
【席:未指定】
少し間を空けて。
【空けておく/指定しない】
マルタが覗いた。
「それくらいなら、紙も怒らない」
ミアが言う。
「紙、怒る?」
「濃く書くとね」
ブルーノはペンを寝かせた。
「薄く書いています」
「紙、まあまあ」
「まあまあですか」
朝食の空気が、少しだけ緩む。
その緩みが必要だった。
未指定。
それは、まだ誰かを押しつけていないということ。
赤猫亭が、ひとつ踏みとどまれているということだった。
◇
昼前、普通の客が三人来た。
そのうち一人が、真ん中の席に座ろうとした。
ミアが少しだけ動いた。
止まる。
何も言わない。
客は普通に椅子を引いた。
ぎい。
座る。
「ここ、いい?」
座ってから聞いた。
マルタが笑った。
「座ってから聞くんじゃないよ」
「悪い悪い」
「いいよ」
客は水を飲む。
普通に。
何も起きない。
端末も震えない。
鈴も鳴らない。
席は、食べている間、その客の席になった。
ミアはそれを見ていた。
アルトが聞く。
「言わないのか」
「何を?」
「そこは、とか」
ミアは少し考えた。
「今日は言わない」
「なぜ」
「客、もう座った」
「そうだな」
「食べてる間は、その人の席」
「そうだな」
「あと、皿、まだ出さない」
アルトは少しだけ驚いた。
ミアの中ではつながっている。
席を指定しないこと。
皿を出さないこと。
誰かを勝手に座らせないこと。
全部が、同じところにある。
「いい判断だ」
アルトが言うと、ミアは少しだけ得意げになった。
「練習した」
「また布団でか」
「今日は朝」
「いつ」
「起きる前」
「それは寝てるんじゃないか」
「考えてた」
マルタが笑った。
「寝な」
ミアは少し不満そうにしたが、芋の籠の方へ戻った。
普通の客は、何も知らずに芋のスープを食べている。
それでよかった。
普通の席が普通に使われることが、今日は一番の確認だった。
◇
昼過ぎ、端末が震えた。
神々からではない。
レオンだった。
《今日は、普通より少し眠いです》
アルトは画面を見る。
普通より少し眠い。
悪くない。
《寝ろ》
打って、少し考える。
命令に近い。
消す。
《眠れるなら、寝てもいい》
送る。
既読。
間。
《寝ます》
アルトは少し笑った。
《飯は》
《食べました》
《水は》
《飲みました》
《芋は》
少し間。
《思い出しました》
アルトは頷いた。
芋はまだ逃げていない。
レオンの中にも残っている。
さらに一文が来た。
《次を決めていないことが、今日は少し楽です》
アルトは画面を見た。
次を決めていないこと。
それが不安ではなく、今日は少し楽。
未設定が、重さだけではなくなっている。
《それはいい》
送る。
少し考え、もう一文。
《席は逃げない》
既読。
返事は少し遅れた。
《それも、安心です》
アルトは真ん中の席を見る。
今は客が座っている。
それでも、席は逃げない。
誰かが座っても、また空く。
空いたからといって、誰かを強制しない。
レオンの返事は、今日の赤猫亭と同じだった。
◇
午後、皿の提供手順を試すことになった。
ただし、今日も相手はいない。
出さない皿。
まだ出さない皿。
ミナが水を置く。
こと。
マルタが小鍋を鳴らす。
かん。
ガルムが芋の匂いを確認する。
「少し弱い」
マルタが鍋の蓋をずらす。
湯気が上がる。
ガルムが頷く。
「いい」
ミアが芋を一切れ、浅い皿に置く。
ふー。
アルトは第一文を言わなかった。
昨日は言った。
今日は言わない。
ミアが不思議そうに見る。
「言わない?」
「今日は、席を見る」
「席?」
「ああ」
アルトは真ん中の席を見る。
今は空いている。
昼の客は帰った。
椅子も元に戻された。
誰も座っていない。
そこに、皿を持っていくか。
持っていかないか。
アルトは皿を持たなかった。
「席が先か」
ブルーノが言う。
アルトは頷く。
「皿を出す前に、置く席を決めないといけない」
「ですが、席は未指定です」
「だから、決めない」
「では、どうしますか」
アルトは少し考える。
「席を空ける。ただし、誰の席かは言わない」
ルナが水を持ったまま頷く。
「空けておく/指定しない」
「ああ」
マルタが真ん中の席の椅子を少しだけ引いた。
誰かが座れるくらい。
でも、招きすぎないくらい。
ぎい。
椅子の音。
ミアが見る。
「半分引いた」
「そうだね」
「座れって言ってない」
「でも、座れる」
アルトは頷いた。
「それでいい」
端末が震える。
【席状態:未指定】
【受入状態:可】
【強制着席:なし】
ブルーノが息を吐く。
「強制着席なし」
「嫌な言葉だな」
アルトが言う。
「はい」
マルタが椅子を見る。
「でも、出たってことは大事なんだろ」
「はい」
ルナは椅子を見る。
「座らせない。でも、座れるようにする」
彼女は小さく言った。
「皿も、同じですね」
アルトは頷く。
皿を押しつけない。
でも、皿はある。
席も押しつけない。
でも、座れる。
それが、今日の形だった。
◇
夕方、鈴が揺れた。
鳴らない。
ただ、一度だけ。
ちりん、にはならない。
アルトは入口を見る。
ガルムも顔を上げる。
「来訪ではない」
「呼んでいるか」
「違う」
「迷っているか」
「違う」
「何だ」
ガルムは少し黙った。
「席を見ている」
店の中が静かになった。
誰が。
何が。
そう聞きそうになって、アルトは止めた。
見ている。
それが危険な言葉に近づくことを、もう知っている。
ブルーノが端末を見る。
【席状態:未指定】
【受入状態:可】
【外部照合:未成立】
【視線反応:微弱】
視線反応。
ミアが不安そうに皿を抱える。
「見てる?」
マルタが言う。
「見に来てるんじゃない。気づいたくらいだよ」
「気づいた」
「そう」
アルトは端末を見る。
視線反応。
微弱。
外部照合は未成立。
つまり、まだ誰かと結びついていない。
だが、席が空いていることに、何かが反応した。
鈴は鳴らない。
揺れただけ。
ルナが水を持って立ち上がる。
入口へは行かない。
真ん中の席の横へ行く。
椅子には触れない。
皿も持たない。
ただ、水を持って立つ。
「返すものではありません」
まず、そう言った。
「見送るものでもありません」
少し間。
「急がないものです」
さらに。
「でも、置いておくものでも、少し違います」
アルトは黙って聞く。
ルナは椅子を見る。
「空けておくものです」
その言葉が出た瞬間、端末が震えた。
【席状態:未指定】
【受入状態:可】
【分類補足:空けておくもの】
ミアが小さく言う。
「また増えた」
アルトも少し笑いそうになった。
「増えたな」
ルナは少し困った顔をした。
「すみません」
「謝るな」
マルタが言う。
「席には席の言葉がいるんだよ」
ルナは頷いた。
「はい」
空けておくもの。
それは、皿とは少し違う。
皿は置いておく。
席は空けておく。
どちらも押しつけない。
どちらも消さない。
アルトは真ん中の席を見た。
誰も座っていない。
でも、座れる。
それでよかった。
◇
夜、端末の表示は増えていた。
【提供形式:仮成立】
【提供相手:未照合】
【提供可否:保留】
【保留状態:有効】
【席状態:未指定】
【受入状態:可】
【強制着席:なし】
【分類補足:空けておくもの】
【外部照合:未成立】
ブルーノはそれを見て、少し考えている。
「外部照合は未成立です」
「ああ」
「ですが、受入状態は可になっています」
「つまり」
「席は、用意されたと認識されています。ただし、相手はまだ決まっていない」
アルトは頷く。
「皿と同じか」
「はい。皿はありますが、相手は未照合。席は空けられていますが、相手は未指定」
ミアが言う。
「皿と席、似てる」
「そうだな」
「でも違う」
「どう違う」
「皿は食べる。席は座る」
マルタが笑った。
「その通り」
ブルーノは真面目に頷いた。
「分類上も正しいです」
「分類しなくていい」
アルトが言う。
ミアは少し得意げだった。
ルナは水を飲む。
今日は、水を置く合図は使わなかった。
何度か迷った顔はした。
だが、持ったまま飲んだ。
自分で入れた水を。
「今日は、皿を出しませんでした」
ルナが言う。
「ああ」
「席も、指定しませんでした」
「ああ」
「でも、空けておきました」
「ああ」
「それは、少し怖かったです」
アルトは彼女を見る。
「なぜ」
「空けておくと、来なかった時に空いたままになります」
店の中が少し静かになる。
その怖さは、分かる。
用意することは、来ない可能性も一緒に置くことだ。
皿を用意する。
席を空ける。
誰も来なければ、皿は皿のまま。
席は空席のまま。
それは、少し寒い。
マルタが言った。
「空いたままでも、拭くよ」
ルナが顔を上げる。
「拭く、ですか」
「席だからね。誰も座らなくても、埃はたまる」
ミアが頷く。
「空いてても拭く」
「そう」
マルタは布巾を手に取る。
「来なかった席も、汚れる。だから拭く。次の日も使う」
アルトはその言葉を聞いて、少し息を吐いた。
空いている席。
来なかった席。
それを失敗として閉じるのではなく、拭く。
翌日また使う。
これも食堂のやり方だった。
ルナは真ん中の席を見る。
「来なかった席も、拭く」
「そうだよ」
「それは」
ルナは少しだけ笑った。
「優しいですね」
マルタは肩をすくめた。
「掃除だよ」
その言い方が、よかった。
優しすぎない。
偉そうでもない。
ただ、掃除。
空けておくものには、掃除がいる。
◇
店を閉める前、マルタは真ん中の席を拭いた。
今日は何人かが座った。
普通の客が座った。
水の跡がある。
少しだけスープのしみもある。
布巾で拭く。
きゅっ。
きゅっ。
音がする。
ミアが見ている。
「空いてても拭く?」
「今日は座ったからね」
「明日空いてたら?」
「拭くよ」
「誰も座ってなくても?」
「埃がたまる」
ミアは頷いた。
「席、えらい」
「席も大変だよ」
アルトはそのやり取りを聞きながら、浅い皿を見た。
皿も、出さなくても拭くのだろう。
出す準備をした皿は、出さなかった日も手入れする。
そうしないと、次に出せない。
ルナは自分の普通の皿を持っていた。
「私も、拭いていいですか」
マルタが布巾を渡す。
「いいよ」
ルナは皿を拭いた。
ゆっくり。
丁寧に。
そこに何も乗っていないのに。
いや。
何も乗せなかったからこそ。
拭いた。
「今日は、出しませんでした」
ルナが小さく言う。
「はい」
自分で答えた。
「でも、皿はあります」
布巾が皿の縁をなぞる。
「明日も、あります」
アルトは頷いた。
「ああ」
ルナは少しだけ笑った。
泣きそうではなかった。
水も置かない。
ただ、皿を拭いている。
◇
夜、最後に端末が光った。
【提供待機:非強制】
【席状態:未指定】
【受入状態:可】
【分類補足:空けておくもの】
【管理工程:清拭】
ブルーノが目を細める。
「清拭」
マルタが布巾を絞る。
「掃除って書きな」
「端末が、ですか」
「うちでは掃除」
ブルーノは紙に薄く書く。
【掃除】
その横に。
【空けておくものにも、手入れがいる】
ミアが覗く。
「席、拭く」
「そうです」
「皿も拭く」
「はい」
「言葉は?」
店の中が少し静かになる。
ミアは首を傾げた。
「言葉も、拭く?」
アルトは紙を見る。
ここに、皿がある。
責めるための皿ではありません。
出していない言葉。
まだ皿に乗せていない言葉。
でも、明日も使うかもしれない言葉。
「拭くんじゃなくて」
アルトは少し考える。
「言い直す」
ブルーノが頷く。
「手入れとしての言い直し」
「硬い」
マルタが言う。
ミアが言い換える。
「言葉も、きゅっきゅっ」
アルトは笑った。
「それでいい」
ブルーノは少し迷ったが、紙に小さく書いた。
【言葉も、きゅっきゅっ】
マルタが吹き出した。
「それ、残すのかい」
「残します」
ブルーノは真面目だった。
ミアは満足そうに頷いた。
アルトも、その紙を見て少し笑った。
言葉も、きゅっきゅっ。
悪くない。
今日の終わりには、それくらいがちょうどよかった。
赤猫亭は閉まった。
明日、また開く。
まだ出さない皿。
誰も座っていない席。
言っていない言葉。
それらを、押しつけず、冷ましすぎず、ただ埃を払うように手入れして。
芋の近くに、置いておいた。




