表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第十三章 反転

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/93

第九十二話

 なごやかな空気は完全に吹き飛んだ。王女もカティアも、凍り付いたように冬真を見ている。


「……そなた、自分が何を言っているのか、分かっているのか」


 ようやく、王女が喘ぐように言った。


「もちろんです」

「仮に国王陛下のお耳に入れば、反逆罪として即時処刑は免れぬぞ」

「承知しております」


 簡単に処刑されるつもりはないが、わざわざ相手の権威を下げる必要もない。


「望みがあるなら相談するように仰ってくださったのは王女殿下ですので、お言葉に甘えました」

「無茶にもほどがあろう」

「無茶だからこそ相談するのでは?」


 ルシュラが沈痛な面持ちで眉間を揉みこんだ。


「侯が規格外の存在であることを忘れていた私が悪いのか……。大体、そなた、グルドハイム公爵令嬢と婚約中ではないか。私に公爵家を敵に回せと言っているのか? できることとできぬことがあるのだぞ!」


「王女殿下、お声がおおきゅうございます」


 横のカティアが、心配そうな顔で窘める。


「グルドハイム公爵家には、既に婚約解消の話を通してございます」


 ひゅっと、ルシュラとカティア二人の喉から音がもれた。まるで恐ろしい生き物を見るかのような目で、冬真を見ている。


「そなたが一人で主張しているだけではなくてか?」


 冬真は頷く。


「王女殿下が私をどうご覧になっているかがよくわかるご感想ですね。公爵閣下には、婚約解消の承諾をいただいております。疑われるならば、ブラーフェル殿をお呼びしてもよいのですが、それでは王太子殿下に動きが筒抜けになってしまう可能性がございますので」


 ルシュラが、複雑な表情になる。


「そなた、怖い物知らずであるな。私の前で、私が王太子殿下と対立状況にあることをそのまま口に出すとは」

「婉曲表現では、話が進みませんが……そのような物言いをご希望ですか?」

「いや、よい。もう今さらであろう」


 王女が首を振る。


「そなたの話は分かった。だが到底納得できぬ。公爵家がそのような暴挙を飲む理由がないではないか。脅したのか? それとも取引か? 一体何を差し出した。それ次第では、私はそなたを反逆罪として告発せねばならなくなる」


 顔色を悪くしながらも、ルシュラが冬真を睨みつけてくる。冬真は笑った。


「公爵閣下には、私の父上になってほしいとお願いしております」


 王女の顔から、表情が抜け落ちた。


「ご存じのように、私はこの国に一切の係累がおりません。ですので、私の係累としての権利の一切を、グルドハイム公爵家には差し出しました」


 フューリアとの婚約の時に、冬真を既存貴族の養子としたいという打診はあった。しかし、冬真にとっては、明らかに拘束が増えるだけとしか思えなかったから、断固拒否していたのだ。婚約を望んでいたのは公爵家側であって、冬真側ではない。


「馬鹿な……どうして、そこまで……」


 ベルダーンもフェルティスも、冬真がこの案を提示したときには息を呑んでいた。ベルダーンは、「主君にそのようなことをしていただくわけには」と必死に反対していたが、冬真が押し切った。


 フェルティスは、ベルダーンに配慮してか控えめではあったが、賛同していた。いずれ冬真がこの国を去るというのなら、アイザー侯爵家を安定させるためにも、グルドハイム公爵家との関係を盤石なものにしておいたほうがいい、というのがその理由だ。


 養子縁組によって、アイザー侯爵家はグルドハイム公爵家の親族として固定される。実質上は、冬真が王配になった場合の外戚としての権利をアイザー侯爵家からグルドハイム公爵家に移譲して、その代わりにグルドハイム公爵家から庇護を受けるという操作である。


 グルドハイム公爵家は、婚約解消をされた家ではなく、冬真を取り込んだ上に、外戚としての立場を手に入れた家として面目を立てることができる。歴史も規模も足りないアイザー侯爵家では、外戚としての立場など有効活用できっこないので、これは公爵家とのWin-Winな取引だ。


「私は地位がほしいのです。誰を好きに回復しても、誰にも文句を言わせない地位が。それを私にいただきたい」


 王女もカティアも、沈痛な顔になる。


「家宰殿か……」

「ベルダーンは奇跡を拒みました。私と領地が危険になるという理由からです。ならば私は、臣下の心に応えるために、地位を得るしかない」


 王女が、溜息を吐いた。


「私には、どうやら選択肢がないではないか。そなた、私が拒んだら、反逆も辞さないつもりでおるだろ」

「そもそも、王女殿下が国王陛下のお耳にこの話を入れれば私は身の破滅ですから」

「破滅してくれる可愛げがあるのか?」

「さて、それは王国軍の質次第でしょう」

「王女殿下」


 そっとカティアが声をかけて、首を振る。王女が頷いた。


「これは、私の一存で判断できることではない。ベルシュフォールとディルナクにも共有させてもらう」

「もちろんです。それと、私はこれからしばらく、王女殿下の元に通うつもりでおりますが……」

「何だ? 口説いてくれるつもりなのか?」


 瞬間的に、反応が遅れた。


「……お望みならば」

「そなたは装うのが苦手であるな。フェルティスに指南してもらったほうがよいぞ」


 指南って、女性の口説き方をか。無理。絶対無理。


「……私が面会を希望しても、以後は、私の面会順番は優先なさらなくて結構。諸侯の反感を買えば、王女殿下のお立場が悪くなりましょう。王太子殿下に察知されても困りますし」

「ふむ。それもそうか。しかし、それならなぜ、面会希望を出すのだ?」

「それはもちろん、今の私が、家宰の回復のために王女殿下に慈悲を強請るしかない、哀れな一領主だからです」


 腑に落ちない表情の王女とカティアに、冬真が言う。


「私の家宰は、最初から右手を狙って落とされたのです」


* * * *


 王宮の回廊をフェルティスを従えて歩いていると、脇に見知った人物が立っていた。


「アイザー侯! 王宮にいらしていると聞いて、お待ちしていたのです」


 王太子殿下の側近の一人だ。王国子爵嫡男の一人。


 冬真は俄かに緊張した。何に緊張するって、背後から感じるフェルティスの視線にである。いつもは王太子の談話室で話しているから、言葉遣いは適当でもいいのだが、帰ってから壮絶なダメ出しをくらうのはいやだ。


「やあ、久しぶりだね」


 敬語はNG。敬語はNG。


「領地では、大変なことがあったと伺いました。お見舞いのお言葉を王太子殿下より預かっております」

「なんとありがたい。王太子殿下にはよろしくお伝えしてほしい」

「王太子殿下も、ひどくご心配されておられました。落ち着いたら、是非顔を出してほしいと」


 冬真は頷く。


「必ずや」


 側近は一礼して去っていく。冬真はそれを見送って、ちらりとフェルティスの表情を伺った。


「臣下の顔色をうかがうのはおやめください」


 すかさず、指摘が飛んでくる。冬真は首を竦めた。


* * * *


「おお、閣下! 復帰を待ちわびましたぞ」


 執務再開の挨拶に訪れた冬真を、ディルナクが笑顔で迎えた。


 軍務大臣の執務室も、一カ月ぶりである。王都には一週間ほど前に戻ってきたが、事後処理を口実に、伺候を休んで邸に引きこもっていたのだ。もちろん、冬真の様子を見たくてたまらないであろう犯人を焦らすためである。


 しかし、口実さえあれば、無限に仕事を休んで給料だけもらえそうだ。それをフェルティスに言ったら、冬真の給料のほとんどは、常に居場所を明示して、連絡経路を確立する手間に対して支払われているようなものだと言われた。


 それならなおさら、王宮に伺候する必要などないのでは……、と引きこもり魂がうずいたが、現在の冬真の立場ではそんなことは許されない。


「長期間の不在で、ディルナク殿にはご迷惑をおかけしました」

「おやめください。領地で大変なことがあったこと、聞き及んでおりますぞ。今回の暴挙は、私も領主の一人として、許しがたく思っております」


 そこでディルナクが、含みのある視線を向ける。


「私個人としても、協力は惜しみませんぞ。軍務大臣として、侯を頼みにできること、実に心強く思っているのです」

「ありがたいお申し出です。非才の身ですが、私がお役に立てるなら嬉しいですね」

「閣下は相変わらず謙虚でいらっしゃる」


 頷くディルナクは、満足そうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ