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絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第十一章 代償

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第七十六話

 思うに、社交に最も必要なものは、分厚い面の皮である

 冬真は、慰労パーティーの会場に足を踏み入れた途端に、周りを取り囲まれた。


「アイザー伯! 見事な活躍ぶりであられたとか!」

「まこと忠臣の鑑であられますな」


 冬真は作り笑いで、次々にかけられる挨拶と言葉に応えていった。


「婿殿は大変な人気ぶりだな」


 そこにやってきたのは、グルドハイム公爵ムルファスだ。ちらりと、冬真に意味ありげな一瞥を寄越してみせる。

 当然今はまだ、公爵令嬢の婚約者として振る舞うべき局面だ。


「まことに。アイザー伯はますます名を上げられた。このような婿を迎えられること、まことに公爵閣下が羨ましいものですな」


 横で頷いているのは、今まで挨拶をしたことのない高位貴族だ。マントの長さから、伯爵でも公爵でもない。侯爵だ。


「アイザー伯にはお初にお目にかかる」

「ベルシュフォール侯爵殿だ」


 横からムルファスが紹介する。冬真は頭を下げた。どこかで聞いた名前だ。


「今回の調査隊では、娘がお世話になったとか。伯の活躍ぶりは帰還した娘よりうるさいほどに聞かされておりますぞ」


 冬真は瞬いた。ベルシュフォール。娘。……カティアの姓が確かそんな名前だったような気がする。


「今回は、なんと王女殿下が女神より奇跡を賜ったとか? 近衛兵団長が失った両腕を回復したと、もっぱらの評判ですぞ。にわかには信じがたきことなれど、これも女神の恩寵深い伯が同行していればこそかもしれませんな」


 侯爵のコメントを聞きつけたのか、周囲の貴族が少しだけ身じろぎをする。


 誰も彼も、奇跡について半信半疑なのだろう。冬真から話を直接聞いたグルドハイム公爵でさえそういう反応だったのだから、当然である。


 冬真は微笑んで首を振った。


「近衛兵団長がその両腕を回復されましたのは、まことに驚くべき、喜ばしきことでした。私もこの目で見ていなければ信じられなかったかもしれません。私がこれまでに賜った女神の恩寵など微々たるもの。王女殿下が起こされた奇跡の足元にも及びませぬ。これも王女殿下へ向けられた女神の寵愛の深さゆえかと」


 侯爵が目を細める。


「伯の此度の献身は聞き及んでおりますぞ。ミスリル鉱石の献上といい、並々ならぬ忠誠だ。王国を支える臣として、アイザー伯のような忠義の士がいること、心強い限りです」

「恐縮です」


 冬真に友好的に――目に見えて媚びるような言動の貴族が多い一方で、中には硬い表情で、近寄ってこない貴族もいる。


 少し離れた場所に立っている、見覚えのある貴族もその一人だ。


 冬真の隣接領の領主、バルフラウ伯爵である。話している相手も見覚えがある。今回の調査部隊で話した次男だ。実にタイミングよく、冬真をブラッドベア生息地方向から引き離した男である。


 冬真から挨拶に赴くべきだろうか。なんといっても、隣接の先輩領主だ。次男の振る舞いが怪しいとはいえ、礼を欠けば問題になるかもしれない。


 しかし、話しかけてくる貴族――特に、奇跡が本当に起きたのか、冬真の口からどう語られるのかを確認したがった――が多く、容易に近づけない。そうしているうちに、王族が入場して、身動きができなくなってしまった。


 王族に続いては、盆の上に広げられた高級そうな光沢のある赤い布の上に、仰々しく載せられたミスリル鉱石が運び込まれて、誇示するように、玉座の横に置かれる。


 入場した王族は、国王夫妻、王太子に、第一王女ルシュラである。王女はドレスではなく、軍服姿である。


 まずは、国王による調査隊の成果報告と、功績を讃えるスピーチから始まった。次に、戦死した貴族の名と、その家門への恩賞を侍従が淡々と読み上げて、遺族が国王から特別の言葉を賜る。死者は、子爵や男爵などの下位貴族の次男や三男坊ばかりだ。


 危険地域の任務であるから、カティアやバルフラウ伯爵次男のような上位貴族の子女が参加していたのは例外中の例外ということだろうか。もしかすると、武闘会で冬真が手を抜いたばっかりに、部門優勝したカティアが無理に引っ張り出されたのかもしれない。申し訳ない限りだ。


 それらが済んで、続けては褒賞の時間である。まず呼ばれたのは近衛兵団長、フェルティスの名だ。


 歩み出たフェルティスは軍服にいくつもの勲章を下げた礼装だった。跪いたフェルティスを前に、侍従が功績を読み上げる。国王の簡単な労いの言葉に、フェルティスが硬い声で応えた。


「畏れ多きお言葉です。しかし、王国の誉れ高き調査隊にこれほどの被害を出した身で、恩賞を受けるわけには参りません。なにとぞ、我が分も今回帰還の叶わなかった者たちの係累を篤く遇してくださるよう」


 ざわりと、会場が揺れた。


「この上は、近衛兵団長の職を辞することで、損失の責任を取りたく思います。全ては我が身の至らなさゆえ。他の者の責を問うことのないよう、切にお願い申し上げます」


 既に根回し済みであるのか、国王が静かに頷く。


「よかろう。そなたの願いは聞き届けた」

「ご恩情に感謝いたします」


 フェルティスが一層深く頭を垂れて、御前を下がる。退場するフェルティスの表情は、どこかすっきりとしていた。


 冬真は苦い顔でそれを見送った。

 王都に入る前の、別れのやり取りを思い出す。


 フェルティスは、冬真に護衛の感謝を告げて、恩人である冬真には決して責任を波及させたりはしないと請け負っていた。冬真は恩人である以前にミスリル鉱脈の情報を王国に持ち込んだ事の元凶であるのだが、恨み言の一つも言わなかった。


 後味が悪い。悪すぎる。


 そうして、続けて、参加して生還したメンバーの名前と、功績、恩賞が読み上げられていく。カティアの名前も当然あった。


「最後に、王女殿下の個人護衛として随行された、アイザー伯爵トーマ殿!」


 高らかに自分の名前を呼ばれた時には、冬真は表情を強張らせないでいるのが精いっぱいだった。


「伯には国王陛下が特別のお言葉を賜られる。前へ」


 当然、予想はしていた。パレードに紋章旗まで用意されているのだ。慰労パーティーで名を呼ばれないわけがない。


 冬真は礼儀作法で習ったことを思い出しながら、国王の御前に進み出た。周囲からの視線が突き刺さるのを感じる。跪くと、国王が話し出す。


「アイザー伯爵の働きは特に見事なものであったと各所から報告を受けている。ブラッドベアを5体、ブラッドフェアリーを3体撃破。他、中級魔物に至っては数え切れぬほどだとな。ミスリル鉱石を掘りだすことは、伯がいなければ困難を極めたであろう」


 本来侍従が読み上げるはずの功績を、国王が直々に声をかける。


「は。恐れ入ります。私の功績など、王女殿下のなされた奇跡に比べれば、微々たるものかと」


 冬真が答えると、ふ、と頭の上で笑う気配がした。


「伯が一護衛士として示した王家への忠誠と戦いは、余人に並ぶものがないほど見事なものである。王国は伯を侯爵に昇爵とし、その功績に報いる! また、そなたの魔獣に対する知見は得難きものであるとディルナクより聞いている。宮廷の特別軍事顧問として遇する。受けてくれるな?」


 もちろん、受けたくない。しかしこの場でそんな返答をしたら反逆罪まっしぐらだ。冬真にだってそれくらいは分かる。


「謹んで、お受けいたします。過分なるご厚情とご裁定に、深く感謝申し上げます」


 三年前に丸暗記したきりの口上がすんなりと出てきたのは、もしかしたら必要になるかもしれないと、昨夜大急ぎで復習していたからだ。


 パレードでの扱いと、王女の言ったことを考えれば、王家から冬真に対して、何らかの囲い込みが発生するだろうことは簡単に予想できる。それでも、できれば外れていてほしかったのだが。


 三年前と同じように、侯爵用のマントを侍従が付け替えてくれる。手回しのいいことである。


 そして、冬真は、新たな自らの立ち場所に誘導されて立った。侯爵たちの並ぶ末席である。下位にはバルフラウ伯爵の顔が見えたし、グルドハイム公爵の位置も、そう遠くはなかった。

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