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絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第十章 火種

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第七十一話

 冬真は、ぼんやりと天幕の皺を見上げた。どうしてこんなところに寝ているのだっけ。


 のろのろと、身体を起こす。途端に走った頭の鈍い痛みに、思わずうめき声がこぼれた。右手で頭を押さえる。


 天幕の入り口がそっと持ち上がって、不安そうな顔の領兵が顔を出した。冬真が起きているのを見て目を輝かせる。


「ベルダーン様をお呼びして参ります!」


 そう叫んで、顔が引っ込んでいく。

 それを見送って、冬真は息を吐いた。段々思い出してきた。


 調査隊を護衛して戻ってきて、森から出たらなぜか領兵たちが戦闘中で。魔物を片づけたあとは、森に王女たちを待たせていることを思い出したので、そちらを優先せざるをえなかったのだ。


 疲労のせいか頭痛もひどく、表情を取り繕う余裕がなかったせいだろうか。魔物の返り血に塗れて戻ってきた冬真を、調査隊の兵士たちは緊張した顔で迎えた。


 据わった目で、「領内にご案内いたします」とだけ告げた冬真に、王女とフェルティスは余計な反論もなく後をついてきた。


 森の外では、アイザー伯爵領の領兵たちと、宿営地に残っていた調査隊の従僕たちが、協力し合って宿営地の再設営を開始していた。


 そのうちの一つ、真っ先に設営されたひときわ大きな天幕に王女とカティアを案内して、冬真は一礼した。


「それでは私はこれで失礼いたします」

「トーマス殿、伺いたいことが」


 もの言いたげな顔の王女に代わって言い出したのはカティアである。


 冬真はじろりとカティアを睨みつけた。カティアが肩を揺らして口をつぐむ。


 冬真は息を吐いて、目をつむって眉間をもみこんだ。


「ああ、失礼しました。……正直なところを申し上げても?」

「あ、ああ。なんだ?」

「これ以上のお話は、明朝にさせていただきたい。私も情報を完全に把握できているわけではないのです」


 何より、眠い。


 話し合わなければならないことがたくさんあるのは分かっている。しかし、今は、何もかもが煩わしい。戦闘で分泌された脳内麻薬も切れて、寝不足のせいか、頭がガンガン痛むし、何も考えたくない。とにかく寝たい。


 表情筋を動かすのすら面倒くさい。じっとりと王女を見つめると、慌てた顔で頷く。


「無論だ。ではそのように。……ここまで、ご苦労だった。ゆっくり休んでほしい」

「殿下のご厚情に感謝いたします」


 一礼して天幕を出たところまでははっきり覚えている。


 それからはベルダーンの天幕に直行して……、椅子に座ったら、もう駄目だった。いくつか言葉を交わしたような気がするが、定かではない。おそらく、話している間に眠り込んでしまったのではないか。


 魔獣の返り血で汚れていた服と鎧は脱がされ、真新しい服に着替えさせられている。鎧がないので少しだけ心許ない。


 記憶をたどっていると、ばさりと音を立てて天幕の入り口が開いた。駆け込んできたのはベルダーンである。切羽詰まった表情だ。


「お加減はいかがですか!」

「あー……、うん。大分いいよ。ごめん。会話の途中で寝ちゃったんだよね?」

「はい」


 ベルダーンは心配そうだ。


「疲れてたからなぁ。俺はどれくらい寝てた?」


 先ほど天幕の入り口から見えた空は青かった。


「半日ほどでしょうか。現在は昼前です」

「げ、そんなに?」


 冬真は溜息を吐いて立ち上がった。伸びをする。


「調査隊はどうしてる?」


 すっとベルダーンの表情が消えた。


「何度か、主君に会いたいと使いが来ましたが」


 声に温度がない。


「追い返しました」

「お、追い返した?」


 冬真は動揺して尋ね返す。

 ベルダーンが顔を歪めて吐き捨てる。


「当然です。主君がこのようになるまで、相当の無理を強いられたのでしょう。公爵家を通じて抗議なさるべきでは?」


 冬真は首を振った。


「い、いや、いいよ。やむを得ない事態だったんだ」


 ベルダーンが溜息を吐く。納得はしていない顔だ。


「……それでは、報告を開始させていただいても?」

「うん、頼むよ」


* * * *


 宿営地の王女用の天幕には、王女とフェルティスが待っていた。


 既に外は薄暗く、天幕の中はランプの心許ない灯りが照らしているだけだ。


「王女殿下には何度か使いをいただいたとか。体調が優れなかったため、出向くことが叶いませんでした。非礼をお許しください」


 冬真は丁寧に一礼した。


 既に髪の染粉は落として、伯爵としておかしくない礼服である。


 調査隊のメンバーは、アイザー伯として訪れた冬真を見ても、ほとんど驚かなかった。むしろ親しみのこもった笑顔で、王女の元へと案内されたものである。


「やめてくれ。そなたには随分と無理をさせた。王女として詫びる」

「私からもお詫びいたします。閣下の実力と好意にすっかり甘えてしまっておりました」


 二人そろって、立て続けの謝罪だ。冬真は顔を上げて、眉尻を下げた。


「もしや、うちの家宰が何か無礼を申し上げましたか」


 途端に、王女の視線が泳いだ。


「主君を思う家臣ならば当然の抗議であろう。無礼などとは思っておらぬから、詫びはいらぬ」


 ベルダーンは一体何を言ったのだろう。聞いてみたい気もするが、聞くのが怖い気もする。


「しかし、私が寝込んでいたために、出発が遅れてしまったのではありませんか?」


 冬真の問いには、フェルティスが首を振った。


「いえ。こちらも、色々と立て込んでおりましたので。明朝出発としたいと王女殿下とは話していたところです。それに、閣下に倒れられては、グルドハイム公爵閣下にも申し訳が立ちません」

「ひとまず、座ってくれ。簡単に済むような話でもないだろう?」


 王女に促されて、簡易な円卓の横に据えられた椅子に座る。


 三人が席についてから、おもむろに王女が切り出した。


「まずは、そなたには謝罪せねばならぬ」


 青い瞳が、まっすぐに冬真を見つめている。


「領外からの魔物の誘引で、そなたの領地に……領兵に被害が出たと聞いた」

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