表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第九章 ミスリル事変

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/79

第六十一話

 王都を発ってゲルトルに戻る途上で、冬真はヴィルキアに立ち寄った。行きは王国官僚に同行していたので寄り道はできなかったが、帰りはそういう制限もない。「婚約者がいるというのに素通りでは、不仲を疑われます」と、ベルダーンにもあらかじめ忠告されている。


「トーマ様。よくおいでくださいました」


 出迎えたフューリアは、出会った頃と比べて背も伸びて、格段に女性らしい身体つきになっている。首にはいつものように、冬真が贈ったチョーカーを付けていた。冬真も胸に、婚約時にもらったブローチを付けている。


「うん、二カ月ぶりかな?」


 婚約が成立してからは、十日に一度くらいフューリアからは手紙が届くのだが、冬真は代筆を頼まなければならない都合上、過度に私的なことを返事に書くのは抵抗があった。そもそもそんなに書くことがない。必然的に三回に一度くらいの返事しか出さないことになる。


 それを知ったベルダーンが苦々しい顔で、それならば定期的に顔を出すのが婚約者としての務めだと言うので、数カ月に一度はヴィルキアに顔を出すようにしているのである。


 あと三カ月ほどでフューリアは成人する。公爵の腹積もりとしては、成人と同時に婚姻許可を申請して、許可が降りたら結婚式の準備を始めるらしい。許可が降りる前に式の準備を始めるのは、王権の判断を軽んじる不敬行為となるそうだ。


 そのため、最低でも成人後一年ほどしてから結婚式を挙げるのが慣例だ。公爵家ならばなおさら、格式に合った準備をしなくてはならない。下手に急ぐと、許可が下りる前に準備していたとか、なにか急ぐ理由があるとか、痛くもない腹を探られるのだという。面倒なものである。


 冬真としては、結婚が遅くなるのは全く構わない。むしろ願ったりだ。


 それよりも、フューリアが成人することによって、彼女の婚約者として王都に行って社交せねばならないというのが、憂鬱で仕方がない。


 この国に季節はなく、したがって冬季が社交シーズン、という規定もないのだが、一年のうち二か月は社交シーズンと定められている。


 これまでは、復興に忙しいという理由で、冬真は社交シーズンも領地に引きこもることができていた。しかし、フューリアが成人したら、そういう訳にはいかない。社交シーズンに婚約者である公爵令嬢をほったらかしにするのは、公爵家の顔に泥を塗る行為である。


 しかも、最近は領民や領兵から、「早くお世継ぎを作っていただかねば」などという声も聞かれるようになった。勘弁してほしい。


 かつてプレッタから聞いた話によれば、この世界の子作りはコウノトリシステムで、ルキアに祈りを捧げればいいらしいが、果たして冬真が祈っても子供はできるのだろうか?不安しかない。


 そして、肉体交渉なし、神に祈るだけでできる子どもを、自分の子供と認識できるかはもっと不安である。遺伝子などは一体どういう扱いになっているのだろうか。


「王都では大変だったと伺いました」

「それほどでもないよ」


 答えながら、冬真は公爵の発言を思い出す。「ミスリル鉱石の献上はフューリアとの結婚後にしてほしかった」というあれは、どういう意味だったのだろうか?


 ミスリル鉱石の件で、いずれ王国との関係が揺らぐことが避けられないのは分かっていた。だからといって、あらかじめ王国の貴族を味方につけるように根回しをするとか、成功率も見返りも不確かな立ち回りに労力と時間を使う気にはなれない。


 それでミスリル鉱石という劇薬を放り込んで、周囲の旗色をはっきりさせてしまうことにしたのだ。しかし、そこには公爵には認識できて、冬真には認識できていない要素があるということだろうか。


 現在の冬真のレベルはようやく72だ。最近のブラッドベア狩りでそれなりに上がったが、レベル99はさらに遠い。そもそも、今のタイミングで上のレベルを目指すべきかも決めかねている。大きな懸案があるからだ。


 冬真のレベルをトリガーにして、大規模システムイベント――スタンピードが起きる疑惑がある。


 ゲーム内でスタンピードが起きたのは二回だ。どちらもストーリー進行によって起きる。一回目は主人公キャラはまだ王都手前の街にいて、国境城砦が壊滅的な被害を出したことを聞くのだ。二回目は、主人公キャラが国境城砦に到着した際に起きる。そこでの奮戦虚しく、国境城砦は陥落して放棄されるのである。


 ……この世界でも、あと一回くらいは、どこかのタイミングで起きるのではないか?


 前回スタンピードはレベル25で起きた。ゲーム内の最高レベルが99であることを考えると、50、75辺りが怪しい。50はスタンピード中に過ぎた。75がもう近い。


 スタンピードが起きてしまってから後悔するのは嫌なので、これ以上は、ゲルトルの領兵や防衛設備を増やして、防備を固めてからレベルを上げるつもりである。


 高レベルの経験値稼ぎとスタンピード対策にミスリル装備もほしい。ゲルトルの防衛を固める間に用意しようと判断して、このタイミングでのミスリル採掘だった。スタンピードが時間経過トリガーで起こる可能性もあるから、完全に準備の手を止めるわけにもいかない。


 ちなみに、オリハルコンまで採りに行くかは未定である。ミスリルでこの騒ぎなら、オリハルコンではどうなるのか。ただ、オリハルコンについては完全に未知の鉱物なので、隠ぺいはミスリルよりは容易かもしれなかった。輝きを隠す方法さえ見つかればだが。


 ミスリルを隠すことができないのも、メッキがうまくできないからだ。蒼く輝く銀なので、見る人間が見れば一発で分かってしまう。


 オリハルコン装備作成に必要な器用は100だ。とても手が出ないし、鉱脈を守るドラゴンを倒すのもそこそこ骨が折れる。


 しかし、ドラゴンは、ステータス振りなおし薬に必要な材料をドロップするので、安定して倒せるのであれば、生産用ビルドに変更して装備を作ってから最終ビルドに戻すという理想的な運用も可能になる。


 さらには、ステータス振りなおし薬が作れるのであれば、魔力を200まで上げてリザレクションを一時的に使えるようにすることができる。死んだ直後の仲間を蘇生させる魔法だ。


 これが仲間ではなく、この世界の人物に対して使えるのなら、冬真はクリティカルな事故――瞬間的に、至近距離で誰かを喪うような事故をリカバリーできる手段を得ることになる。


「そういえば、フューリアは甘いものが好きなんだって?」


 冬真が話を振ると、フューリアは少しだけ恥ずかしそうに頷く。


「は、はい。あ、でも、ないとダメというわけではありませんから」

「それなら、うちの領も少しは気に入ってもらえるかもね。蜂蜜が作れるようになったんだ」


 フューリアが驚いたように目を瞬く。


「蜂蜜を? あの、森で採れるという蜜ですか?」

「うん。公爵閣下がたくさん買い上げてくれたから、食べてみてくれると嬉しいな」

「はい! 楽しみですわ!」


 フューリアがにこにこと微笑んでいる。よかった。


 嫁いでくるのは公爵家側の事情とはいえ、ヴィルキアとゲルトルではずいぶん見劣りもするだろう。結婚までには蜂蜜の評判が広まって、領の財政が少しは上向いてくれるといいのだが。冬真は社交が苦手なので、公爵家の広報力に期待である。


* * * *


 ゲルトルの城館に戻った冬真を待っていたのは、まずは書類の山である。何しろ、王都での滞在が長引いて、往復を含めて一カ月近くも不在だったのだ。公爵領への蜂蜜販売の手配もしなければならないし、決裁も必要だ。


 二週間後には再び王都に行って、王女の個人護衛として調査隊に加わらなければならない。


 ミスリル鉱石を隠さなくて良くなったので、調査隊に参加するまでには武器と指輪を作っておきたい。前者は魔法ダメージ増加、後者はマナ回復速度増加の効果がある。


 できればブラッドベア革の帽子と胴装備も用意して王女に着せたいところだ。即死事故を防ぐためである。ミスリルの腕輪もいい。魔法ダメージ減少効果がある。


 文字通り、目の回るような――寝る間が取れないような忙しさだ。

 冬真がベルダーンに、王女の個人護衛を行うことを伝えると、ベルダーンはむっと唇を引き結んでいた。


「そこまでなさるのですか?」

「王女殿下が調査隊で亡くなったりしたら、たとえ誓約書があったとしても、完全に無関係ではいられないよ。これは必要なことなんだ。ちゃんと報酬ももらうし」

「そうは言っても、そもそも成立しますか?」

「何とかするらしい。ベルダーンの協力が必要不可欠なんだ。頼める?」

「努力は、します」


 そばかすの青年らしくない端切れの悪い返事に、この件の難易度が示されている。


「ひとまず、主君にはこれからやっていただかなくてはならないことがあります」

「何かな?」

「これから二週間、工房に閉じこもってください。絶対に外に出ないように。寝台と書類も運び込みましょう。プレッタの分もです。私が毎日工房に通いますから、必要なものはそこでやりとりを」


 願ってもない申し出だ。冬真は目を瞬かせた。


「いいの?」

「それしかないでしょう?」


 ベルダーンの目は据わっていた。


展開変更後の下書きが最後まで完走しました。

全78話予定としていましたが、100話程度に伸びる見込みです。

よろしくお願いいたします~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ