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絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第九章 ミスリル事変

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第五十七話

 王国にミスリル鉱石を献上して二日後。旧フェルダー伯爵邸の執務室で、領地から持ってきた報告書類を読んでいたときのことだった。


 ノックの音と共に、既に老齢に差し掛かっている執事が顔を出した。領地から連れてきた、使用人の一人だ。


 二年前に冬真がこの屋敷を引き継いだ時には、使用人は全て解雇されていた。

 無人のままにしておくと、盗難と略奪の対象となる可能性があるというので、公爵家の紹介で二人だけ常駐の管理人を雇っている。邸を使用する必要があるときだけ、最低限の使用人を領地から連れてくるのだ。


「旦那様、お手紙が参りました」

「またか」


 先ほどドアベルが鳴ったのには気づいていた。郵便などはこの国では発達していない。基本的に手紙は手渡しだ。


 ミスリル鉱石を献上してからというもの、日を追うごとに届く手紙の数が増えている。もちろん、差出人は全て貴族だ。領地への仕官願いもあれば、パーティーへの招待状などもある。


 一応読みはするが、基本的にはそのまま処分だ。地球に帰る前提なので、異世界の社会に必要以上の足場を築く必要を感じない。余計なしがらみが増えるだけだ。


 冬真は執事が盆に載せて差し出す封筒を手に取った。裏返して、眉を寄せる。封蝋には、王国の紋章が押されていた。ペーパーナイフで開封して、中の手紙に目を通す。


 冬真は嘆息した。執事を見上げる。


「悪いけど、手紙の代筆をお願いできるかな」


 名前以外の文章は、未だに不得手だ。


 手紙には、『本当に資源調査や確保が不可能なのか、必要とされる戦力について、アイザー伯の詳細な意見をお聞きしたい。明日午前中に軍務省にお越し願えないか?』という、軍務大臣からの、至極真っ当で丁寧な要請が記されていた。


* * * *


 翌朝、冬真は王宮に伺候した。この短い間に、都合三回目の訪問だ。案内の侍従に従っていくと、冬真が今まで立ち入ったことのない一角に通される。廊下の行き止まりで、侍従が扉を叩いた。


「アイザー伯がお越しです」

「入ってくれ」


 侍従が開けてくれた扉を入り、冬真は一瞬身体を強張らせた。


「やあ、よく来てくれた」


 能面のような顔と敵対的な視線の数々に迎えられるとばかり思っていたのだが、執務机の向こうで、冬真を見るなり立ち上がった顔は、満面の笑顔だった。声にも親しみがにじみ出ている。


 がっしりした体躯に、日焼けした顔。黒髪をオールバックにして背中に流した、壮年の男だ。この国の軍務大臣、ディルナク伯爵である。


 一昨日、昨日と、連続で顔を合わせている相手だ。確か、先の王妃家門の次男で、伯爵家に入り婿をしたと聞いている。


「本日はお時間を取っていただき……」

「ああ、いい、いい。呼び出したのはこちらだ。楽にして座ってくれ」


 そう言って、ディルナクは応接セットの椅子を示してくる。


 冬真が座ると、軍務大臣は執務机の上から二枚の羊皮紙を取って、冬真の向かいに座った。テーブルの上に、羊皮紙を広げる。そこには、冬真の領地が拡大して描かれている。


 部屋の隅にひっそりと控えていた文官が、そっとインクと羽ペンをテーブルに置いた。


「ではまず、鉱脈の位置からだ。その後、詳細な地形と、生息魔物の分布を教えてほしい」

「綿密な調査をしたわけではありませんから、魔物の分布の正確性は保証できません。目撃情報ということならご協力します」


 ディルナク伯爵は苦笑する。


「伯は本当に慎重な性質なのだな。無論承知の上だとも」


 そこから二人で頭を寄せ合って、様々な情報提供の時間である。冬真が情報を口にするたびに、書記官が羊皮紙に新たな情報を書き込んでいく。


「正直、ブラッドフェアリーなど、おとぎ話にしか存在しない魔物だと思っていたのだがな……」


 一しきり話し終えたところで、ディルナク伯爵が難しい顔で呟く。


「そもそも、一体どのような攻撃をしてくる?伯はどうやって倒したのだ?」

「弓で注意を引いて、寄ってきたところにショックバレットを当てて、あとは肉弾戦です」


 正確にはショックウェーブだが、そんなものを使えることがバレたら面倒だ。


 衝撃波系は、飛行系に特攻だ。当てることさえできれば、一瞬の硬直で落下する。落下したところを狙えば比較的楽に倒せる。


「あれは呪いを使ってくるし、敵を認めた瞬間にエレメンタル召喚をします。ある程度の魔力と身体能力がなければ、瞬殺されるでしょう」

「エレメンタルだと?」

「はい。精霊ですね。物理攻撃無効です。見たことが?」

「そうしたら、今頃私はここにいないだろうな……。呪いというのは?」

「身体強化魔法の逆バージョンです」


 ディルナク伯爵は耳を疑う顔になる。


「そのようなものがあるのか?」

「ええ。奥地の魔物は使ってきますよ。魔力が低ければ、そうですね。剣を振るうことが負担になる兵士も出るかもしれませんね」

「伯はそのようなものを倒せると?」

「単体相手で、先制攻撃を取れるなら、ですね」


 ディルナク伯爵の眉が寄った。渋面に近い、難しい顔だ。しばらく考え込んだ後、やがて、椅子の背もたれに寄りかかって、天を仰ぐ。深い溜息が漏れた。


「実は、だな。王国から調査隊を派遣するという話が持ち上がっている」


 冬真は驚かなかった。当然出てくる話だろうと思っていたからだ。


 ミスリル鉱脈があると報告を受けて、調査もしないなどと弱腰の姿勢では、王国の求心力が低下してしまう。まして、実際に確認したのが上級貴族であるのだから、報告を軽く取り扱うわけにもいかない。


「私は止めたのだ。もしも伯の言う通りの魔物が生息しているのなら、危険度が高すぎる。王国領が地図上でここまでしかないのは、強力な魔物が生息していて開拓が進まないからだ。それが歴史的な事実であることは動かしようがない」


 そこでディルナクが言葉を切って、深く息を吐く。


「しかし、伯がミスリル鉱脈を占有したいがために、虚偽の証言をしていると主張する者もおってな」

「理解できます」


 冬真は頷く。自分が逆の立場でも、間違いなく信ぴょう性を疑う。


「しかし、領主としては、はっきりさせねばならないことがあります」


 冬真が言うと、ディルナク伯爵が表情を改める。


「調査隊に何かあったときの責任の所在です」


 ディルナクが嘆息する。


「貴公としてはそう言わざるをえないであろうな……」

「調査隊が壊滅した際に、私が救援しなかったことについて責任を求められては困ります。また、調査隊が万が一魔物を引き付けて我が領内に逃げ込んだ場合……」


 ディルナクの顔が引きつった。


「それを領に対する敵対行動として取り扱います。それらについて、了承を。書面の形で同意文書をいただきたい。そうでなくば、調査隊に協力は致しかねる」

ここまでお付き合い、ありがとうございます。


実は、推敲していたら書いておいた下書きと展開が乖離してしまいました。そちらで進行することにしましたので、以後、投稿後の改変などが増えるかもしれません。よろしくお願いいたします。

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