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絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第七章 王都ヒャルタ

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第四十一話

 サバイバルクラフトRPGを遊んでいると思っていたら、いつのまにかノベルゲームになっていた。今の冬真の気持ちを要約すると、概ねそのようになる。


 おまけにこのゲーム、ステータス画面は筋力・体力・敏捷・器用・魔力だなんていう自分の能力値とスキルしか出てこない。キャラクター一覧はどうした。好感度一覧は? 詳細ボタンはどこにあるんだ? 思わずそうぼやきたくなるくらいのポンコツUIである。もはや乾いた笑いしか出てこない。


「お初にお目にかかる、アイザー伯。この度はお祝い申し上げる」


 なんたら伯爵とかいう男性が、冬真に向かってグラスを掲げた。たしか、王都よりもアールバル寄りの領地を持っている貴族だ。笑顔は浮かべているが、瞳に浮かぶ光は抜け目ない。


「ありがとうございます。礼儀を知らぬ粗忽者ゆえ、無礼がありましたらお許しください」


 自分はしっかり笑えているだろうか? もう何時間も、ずっと笑顔を貼り付けているせいか、頬の筋肉が痙攣してきた気がする。苦痛だ。こんなことをしていても、レベルは一切上がらない。時間の無駄だ。


 会場は数日前の武闘会と同じ、王宮の大広間だ。しかし、武闘会出場者に対する褒賞と労いだった前回と違って、今回は貴族しかいない。


 真っ先に冬真に挨拶をしてきたのは、グルドハイム麾下の家門、そしてヴィルキア周辺に領地を持っている家門である。ここまではまだよかった。基本的に好意的だったからだ。


 しかし、そのあとは、どいつもこいつも、奥歯にものがはさまったような物言いばかり。フレアネットをわざわざ話題にして冬真の実力を揶揄するような者もいれば、フューリアの話題をことさらに出す者もいる。


 横にブラーフェル夫妻が立って、時に合いの手を入れてはくれるものの、王国伯爵に叙爵された以上、基本は独りで社交をこなさなければならない。数カ月前までただの傭兵として生きていた人間に、無茶を言うにもほどがある。クソゲーだ。知っていたけど。せめてマニュアルを寄越せマニュアルを。


 事前に最低限の礼儀作法を学ぶことにした自分を褒めたい。いや、学んでいなければ、武闘会後のパーティーなどで早々に大失敗をして、こんな展開はもしかして避けられたのではないか? ……反逆者になるのとセットだったかもしれないが。


 益体もないことを考えながら、目の前にやってきた相手と、適当に挨拶をかわす。向こうから人の一団が近づいてくるのが見えた。先頭を歩いているのは微笑を浮かべた王太子である。途中途中にいる貴族と二、三の挨拶を交わしながら、こちらに近づいてくる。


「やあ、グルドハイム侯爵。君たちの奮戦は王都まで聞こえてきていた。健勝で何よりだ」


 王太子は、まずブラーフェルに声をかける。貴族家の嫡子は、家門の持つ最も高い爵位から一段階落とした爵位で呼ばれるのが慣例だ。ブラーフェルが卒なく礼を取る。


「王国の恩寵をもちまして」

「アイザー伯も、三日前振りだな。フェルティス近衛兵団長は、そなたのことを大変な褒めようだったぞ。近衛兵団へ迎え入れたいとな」


 ざわりと周囲が色めき立つ。

 冬真は頭を下げた。


「恐れながら、私のような粗忽者には過ぎたる場所と存じます」


 王太子は喉の奥で笑った。


「武闘会の結果を見れば誰もそのようなことは思うまい。伯は謙虚であるな」


 それだけ言って、歩き去っていく。冬真は肩の力を抜いた。――もう疲れた。そろそろ、何もかもを忘れて眠ってもいいんじゃないかな?

 視界の端から、また新しい貴族が近づいてくるのが見えた。


* * * *


 馬車の車輪が石畳の上を転がる振動が、尻の下から伝わる。窓の外には、夜闇に沈んだ庭園と、その背後にそびえる巨大な建物が流れていた。


「君は、私たちを責めないのだな」


 冬真は、向かいの席に座ったブラーフェル夫妻に視線を移した。肩を竦める。


「無駄なことは嫌いなんだ」


 グルドハイム公爵家が今日の叙爵について知っていたかどうかは、重要ではない。


 冬真とグルドハイム公爵家の当座の目的は完全に同一ではないが、非常に近い。冬真は砦に留まって狩りがしたいし、公爵家は冬真に砦に留まってほしい。公爵家は狩りもしてほしいかもしれないが、それは付加価値であって、最優先目標は、ブラッドベアを撃退可能な冬真を砦に留めることだ。


 公爵家が冬真が王国伯爵として叙爵されると知っていたとしたら、止める必要がなかったか、止めることができなかったのかのどちらかだ。そして、おそらく後者だったのだろうと思っている。


 公爵家には、冬真の王国伯爵位叙爵を止める名分がない。そして冬真に下手にそれを告げて、冬真が隠遁でもしたら公爵家は面目が丸つぶれだ。公爵が、得体のしれない外部の人間より、守るべき家門を優先するのは当然のことである。


 こうなってしまった以上、王権に対して無駄な反感を持てばストレスが増えるだけだ。王国は冬真を評価して伯爵位をくれた。それでいい。そう思わないとやってられない。


「だけど、正直に言えば、困ったことになったと思ってる」

「そうだろうな」

「俺が聞きたいのは、過去の情報じゃなくて、公爵家がこれから先どういうつもりでいるかだ」


 冬真は、じっとブラーフェルの瞳を見つめる。


「公爵家は、まだ俺と協力するつもりがあるのか?」


 ブラーフェルが驚いたような顔になる。


「当然だ」

「俺は形としては王権の紐付きになったわけだろう。砦に常駐もできないんじゃないのか」


 国王の言葉を要約すると、伝説は一貴族ではなく、王権が所有すべきということだ。冬真としては、誰にも所有されるつもりなどないのだが。


「我が領の子爵でもある。離れた場所に領地を与えれば、王家は前線の民から英雄を取り上げたと言う風評が飛びかねない。間違いなく隣接領を与えられることになるはずだ。グルドハイムからは、その領に近接した地域を領地として与える形になる」


 冬真は溜息を吐いた。


「俺は領地運営なんて、興味がないんだけどな。家臣なんてものもないし」


 柄にもなく愚痴めいたことが口をついて出たのは、あまりに疲れていたせいだろうか。


「そこまで悲観するものでもない。前例から言って、王宮から官僚を派遣するという話になるだろう。我が領から人を出したら、結局君はグルドハイムの英雄ということになってしまうからな。中央としても、領主として未知数の君はお飾りの領主として中央に役職を与え、実質は国王直轄領のような扱いにしたいと考えているのではないか?」


 冬真は眉を寄せた。中央の役職だと?

 王都で時間を拘束されて、やりたいことも自由にできないサラリーマンのような生活を送る自分の姿が頭の中に浮かんだ。冗談じゃない。


「それって、魔物は狩れないよね」

「……君の言うような数は無理だろうな」


 ブラーフェルが、数拍置いて頷く。冬真だって魔物の殺戮が趣味と言うわけではないので、異常者を見る目をしないでほしい。

 冬真は、顎に手を当てた。


「領地の調整が発生するってことは、俺がどこの領を与えられるか、公爵家は知ってるんじゃないか?」

「いくつか候補は聞いている」


 最終決定はまだらしい。


「公爵家から要望を出すことはできる?」

「不可能ではないが、確約はできないぞ。父上が承諾なさるかもわからない」


 冬真は頷く。


「すこしでも確率が上がるならそれでいいよ。戻ったら、公爵に面会したい」


 冬真に与えられる領地が確定する前に、迅速に動かなければならない。


「父上は震え上がるだろうな」


 ブラーフェルが肩を竦めて言う。冬真は眉を上げた。


「このタイミングなら、君が抗議しに来たと思うだろう」


 冬真は唇を持ち上げた。


「抗議されるようなことをした自覚があるなら、遠慮はいらないな」


 砦を冬真に守ってほしいならば、せいぜい動いてもらおうか。

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