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絶望遊戯~ゲーム世界に絶望難易度アビリティをつけて転移した話~  作者: 長月透子
第七章 王都ヒャルタ

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第四十話

 いくつもの煌びやかなシャンデリアが、その下の大広間と着飾った人々を照らし出す。


 武闘会終了後の王宮パーティーでは、冬真は貴族用の礼服を身に纏い、グルドハイム公爵夫妻の横に立っていた。ムルファスと反対側の横には、嫡子であるブラーフェル夫妻が立っている。フューリアはまだ成人していないので、公式のパーティーには参加不能だ。


 映画の中でしか見たことがないような、公爵家よりもさらに豪華な内装の施された広大な会場である。付け焼刃だとしても礼儀を学んでおいてよかったと、冬真は無表情の下で胸を撫でおろす。


 王都に来ることが確定してからは、狩りはほとんど休みにして礼儀の訓練に時間を割いた。移動中も王都滞在中も、ひたすら訓練である。その甲斐あって、公爵家が紹介してくれた引退貴族だという礼儀作法の老教師からは、ギリギリの及第点をもらっている。


 まだ開会前なのだが、ひっきりなしに貴族当主夫妻が訪れては、冬真への紹介をムルファスに求めてくる。ムルファスの紹介に合わせて会釈し、二度三度言葉をかわすのがお決まりの流れだ。


 大抵は、冬真が魔法士部門で五位、近接戦闘部門でも惜敗して三位に終わったことへの労いと賛辞である。今日行われた、総合戦闘部門も三位に終わった。おおよそ狙い通りの結果である。魔法士部門で立派に負けることに自信が持てずに保険で参加した近接戦闘部門だ。


 魔法士部門で無様に負けたとしても、近接部門で立派に負けることができれば公爵家の面目をつぶすことはない。実際、フレアウォールとファイアーボールのタイミングや照準を調節して辛勝を演出するよりも、相手の呼吸に合わせて力を加減しながら剣を合わせる方がよほど簡単だ。


 それでも、最後に剣を合わせた近衛兵団長は腑に落ちない顔をしていたから、違和感くらいは感じているのかもしれない。


 侍従が国王夫妻入場の先触れの声を上げた。貴族たちが一斉に礼を取る。冬真も同様に頭を下げる。複数の衣擦れの音が通り過ぎて、奥の玉座――冬真はグルドハイム公爵と共に立っているので、玉座はほど近い――に座る。


「此度は、魔物の跳梁に怯える民の慰撫に協力してくれたことを嬉しく思う。武闘会に出場してくれた各位、特にフェルティス近衛兵団長の戦いは見事であった。その勇姿は民たちの間で長く語り継がれるであろう。今宵は宴を楽しんでほしい」


 その言葉を合図に、貴族たちが頭を上げる。冬真は、視線が突き刺さるのを感じた。視線の主は、玉座に座る国王と、王妃とは反対側の横に座る王太子のものである。穏やかな微笑を湛えているが、その瞳には、値踏みするような、冷たい光が宿っている。


 ムルファスに促されて、冬真はムルファスと共に、玉座に挨拶に向かう。国王がムルファスに二、三労いの言葉をかけて、ムルファスが頭を下げるのに合わせて冬真も頭を下げた。


――そして、その場を下がる。そうなるはずだった。


「ところで、私は、『ルキアの矛』と呼ばれる英雄に見えることを楽しみにしていたのだ」


 そのタイミングで口を開いたのは、王太子だった。国王夫妻は中年にさしかかっているが、こちらはまだ若い。地球での冬真とそう大して変わらない年齢だ。国王も王妃も、王太子を咎めない。彼らにとっては織り込み済みの展開であるようだ。

 王太子が、上体を心持ち乗り出した。


「フレアネットを直接見られるのを楽しみにしていたのだがな。使わなかった理由があるのか?」


 背後の喧騒が、一瞬で静まった気がした。……誰もが、耳をそばだてている。


 使わなかったことを認めるわけにはいかない。国王主催の武闘会を軽んじたことになってしまう。だからといって、使えないと答えて後日使えることがバレても問題になる。

 冬真は表情を変えずに頭を下げた。


「直答を許す。そなたは三日後には叙爵される身だ。楽に答えてよい」

「身に余るご温情に感謝いたします」


 そう言ってから、頭を上げる。


「恐れながら申し上げます。噂とは、誇張されるもの。しかしながら、魔物の侵攻に恐れ怯える民と兵には、伝説が必要と存じます。なにとぞご寛恕をいただけますよう」


 ブラーフェルのフレアネットに関する警告を受けて、かねてから頭の中で組み立てておいた言い訳を述べると、王太子が僅かに目を瞠った。


「なるほど、道理だ。私が無粋であったな。スタンピードの時にそなたのような者を遣わしてくれたルキア様に、感謝を捧げねばなるまい」

「ご恩情に深く感謝いたします」


 冬真はそう答えて、再度頭を下げる。ふ、と笑う気配がした。


「そなたからは、いずれもっと話を聞きたいものだな。下がってよい」


 その言葉を合図に、ムルファスと一緒にその場を下がって、公爵夫人たちが待っている場に戻る。


 冬真は深く息を吐いた。使い慣れない敬語で舌を噛みそうだし、こんな肩が凝る場所は懲り懲りだ。叙爵式が終わったら、速攻でヴィルキアに帰ろう。そしてレベル上げだ。


* * * *


 緋絨毯が敷かれた先、階段を上がった先には、荘厳な玉座が誂えられていた。

 その前に、白の正装に身を包んだ国王が立っている。胸にはいくつもの勲章が飾られ、金の縁取りのある赤いサッシュを巻いている。緋の裏打ちの豪奢なマントに、片手に王錫。後ろに撫でつけた白金の頭の上には、いくつもの宝石をちりばめた王冠が輝く。


 冬真は促されて、その階下に進み出て、跪いた。首を垂れる。


 冬真が纏っているのは、黒に銀糸で修飾を施した礼服だ。後見であるグルドハイム公爵家が用意してくれたものである。しっかりとした造りで、ずっしりと重い。こんなものを自前で用意しろと言われても、格式など分からないし、どこに注文すればいいのかもわからない。冬真は困惑するだけだっただろう。


「トーマ・アイザー。卓越した魔力によって、ヴィルキア防衛に厚く貢献せしめり。ムルファス・グルドハイム、公爵領子爵叙任のお許しを賜りたく、ここに請願申し上げる」


 階段脇に立った侍従が、ムルファスの請願文を読み上げる。


「許す」


 簡潔な国王の言葉が降ってくる。冬真は次の行動を待った。国王が冬真の肩に王錫を当てたら、冬真は忠誠の誓言を述べるのだ。


「だが、足りぬ」


 降ってきた予想外の言葉に、冬真はすんでのところで、顔を上げるのを耐えた。


「功績には、正しく報いねばならぬ。ブラッドベアは、王国民に甚大な被害をもたらす魔物である。それを食い止めた功労は甚大。英雄に、国から直接の褒賞がないでは前線の士気にも関わろう」


 冬真は、拳を握りしめた。


「ブラッドベアに怯えるはヴィルキアの民だけではない。王国民にも伝説は必要なのだ。『ルキアの矛』が王権の手に握られてこそ、民も安心しようというもの。受けてくれるな?」


 冬真は、一層深く頭を下げた。ここで異議を唱えることは、そのまま王権の否定となる。今は、こう答えるしかない。


「過分なるご厚情とご裁定に、深く感謝申し上げます」


 王錫が、肩に当てられる。冬真は、叙爵式前に丸暗記させられた誓言を、一言一句たがわず口にする。


「我、トーマ・アイザーは、王国の法と王権を尊び、その命と裁定に従うことを誓う。授けられし身分と責務を正しく果たし、王国に背くことなきよう、この名において宣誓する」


 口が曲がりそうだ。思ってもいないことを誓いたくなどない。


「汝を、王国伯爵、並びにグルドハイム公爵領子爵に叙す」


 厳かに国王が宣言するのを合図として、冬真は頭を上げて、立ち上がった。横に控えた侍従が捧げ持った剣を受け取り、マントを着せかけてもらう。重みのあるマントは、最初から伯爵位の長さだった。


「アイザー伯、そなたの忠誠と活躍に期待する」

「必ずや、お応えいたします」


 冬真は、一礼して身を翻した。緋絨毯を歩き、侍従に促されるまま、居並ぶ諸侯の末席に立つ。――本来は、そのまま退出するはずだった。お前は紛れもない上級貴族の一員だと言いたいらしい。


 その後は、今回の戦役で防衛とさまざまな負担を担った諸侯の名が戦功順に呼ばれて、それぞれの恩賞が発表されていく。


「此度も、魔物どもの侵攻を我らは食い止めることができた。とりわけ、ヴィルキアを守り切ったグルドハイムの奮戦は見事である。我が要請に応えて援軍兵力を送った諸侯もご苦労だった。民の慰撫に務め、統治に励むよう」


 国王の言葉に合わせて、諸侯らが一斉に頭を下げた。

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