囚われの獣人
耳にカチカチと時計の針のような音が響く。アカツキはゆっくりと目を覚ました。
「……朝から……うるさいねん」
だが、背中が痛い上に、見た事がない天井。それに、嗅いだ事のない匂いで飛び起きた。
「はっ⁈」
そして、すぐに周りを見渡した。
「なっ、何? 何が起きたん?」
しかし、ガシャんと音がした。そこで自分の首に首輪がはめられ、鎖で繋がれている事に気がついた。
「…………っ⁈」
アカツキは状況を即座に理解しようとした。自分が入れられているのは身体の大きさに合わせられた柵で、首には鎖がついた首輪。そして、獣化した姿のままである事。
「僕達は船に乗っていた筈や……だけど、ここはどう見ても……」
もう一度、周りを見渡すと、そこには沢山の檻に入れられた獣人達だった。隣の柵にはジンがいた。そして、逆側にはネズミの双子。まだ、目を覚ましていないようだ。
「…………スウ」
アカツキは寝息が聞こえた方を見た。彼の同じ柵にはナマケモノがいた。
「シオン! 起きろや!」
シオンと呼ばれたナマケモノはゆっくりと目を開けた。
「……………………アカツキか?」
たっぷりと間を使ってゆっくりとした言葉が返ってきた。そして、すぐにその瞳を閉じた。
「あかん! 何がどうなってんのかわからへん。ただ一つわかるのは……この場所はあかん」
すると、アカツキ達がいる部屋の扉が開いた。この部屋は薄暗く、扉が開いた瞬間に僅かだが光が漏れた。そして、そこに立っているのが敵か味方がわからない。そのため、アカツキは即座に口を閉じた。
こちらに向かって歩いてくる音が聞こえた。しかし、アカツキ達がいる柵の前でその足音は消えた。
「…………」
アカツキは目の前の小さな少女に目を見開いて驚いた。垂れた瞳に緑の癖がある髪。そして、エメルによく似た顔。
「ごはんを……もってきたよ」
エメルに良く似た少女は柵の前にお盆を置いた。その上にはスープが入った器が二つ。
「食べないの?」
少女は首を横に傾げた。
「食べないの? って……」
だが、アカツキが全て言い終える前に言葉が被さった。
「ユメル。柵越しだから食べられないのよ」
女性の声だった。自分たち以外に他の誰かがいる事に気がついた。そして、声が聞こえた方に視線を向けると、そこにはピッタリと身体のサイズにあった木でできたタライの中に入ったアザラシだった。そして、彼はそれと目があった。
「何? 何か言いたい事があるのかしら?」
つぶらな瞳は真っ直ぐにアカツキを捉えていた。
「別に……僕はただ……」
ガチャン。またしても彼の言葉が遮られた。しかし、それよりも柵の鍵が開いた事に意識が向かった。
「ええ⁈ 柵の扉を開けて良かったん⁈」
「開けないと、食べられないよ?」
ユメルと呼ばれた少女は首を傾げて、不思議そうにしていた。
「確かに……確かにそうなんやけど……」
「早く食べてね」
そう言うと、少女は立ち上がり、部屋から出て行った。その後ろ姿をジッと見つめながら、アカツキは考えた。彼女はどう見てもエメルの妹だ。アザラシの彼女だって、少女の事をユメルと呼んだ。
「スープに毒は入ってないはずよ」
「はっ?」
「ユメルが毒を入れる筈がないもの」
「何でわかるん? こんな鎖に繋がれて、僕は何も信じられへんけど?」
鎖を彼女に見せた。だが、よく見れば、アザラシの身体にもしっかりと鎖で巻かれている事に気がついた。
「あの子は……いい子よ。私が保証するわ」
「保証するって……君は誰なん? それと、ここはどこ?」
すると、少しだけ考える素振りを見せた彼女だったが、すぐにタイルの中で佇まいを直した。
「私は……この国、シュートバルグ国が王女、ゼノア・シュートバルグよ」
王女と自身で名乗った彼女は真っ直ぐに射抜くような瞳でアカツキを見たのだった。




