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進まない準備

「ねえ、ルイス」


 部屋には彼と二人だけだ。私はベッドに腰掛けながら、近くで本を読んでいるルイスに話しかけた。すると、彼は軽く私を横目で見ると、すぐに視線を本に戻した。


「何を読んでいるの?」


 彼が何を読んでいるのか、気になり問いかけた。皆が作戦の準備に取り掛かっているため、邪魔にならないように部屋に二人で閉じこもっている。だが、私は正直にいうと、暇を持て余していた。私も本を読んだりすれば良いのだが、薬草図鑑は読み切ってしまった。その本の内容を全て覚えている訳ではないが、今はやる気がなかった。自分が作戦に参加する事ができない歯痒さが心の中を占めていたからだ。


「…………」


 そんな私の気持ちに気づいたのか、ルイスは椅子から立ち上がり、私の隣へと座った。


「俺が読んでいるのは、この本だ」


 そう言って、彼は本の背表紙を見せてきた。


「『とけいのとうのおひめさま』絵本?」


 時計の横にお姫様の絵が描かれている古い本のようだ。


「この本、どうしたの?」


 きっと、この国の絵本である。それをどうして、ルイスが持っているのだろうか?


「アイミーがくれた」


 どうやら、この本はアイミーが街に出た時に買ったようだった。それをたまたま彼女の横をルイスが通りかけた時に話しかけられて無理やり渡されたらしい。


「子供は絵本が好きよね? って……無理やり渡された物だ」


「へえ……。よかったね!」


「…………まあ、そうだな」


 一瞬だけ間があったが、ルイスも頷いた。そして、本を開いた。


「一緒に読むか?」


「いいの?」


「当たり前だろ。これは、俺達にくれた本だ。ニーナも読む権利はあるだろ?」


「ありがとう」


「……別に」


「ルイスは内容が最初からになるけど、いい?」


「別に良い」


 そして、私達はベッドに腰掛けたまま、二人で一冊の本を読み始めたのだった。


 一方、シルル達の方はアカツキの叫び声が響き渡っていた。


「嘘だあああああ」


 アカツキがジンの腕の中で暴れまくっていた。だが、所詮は身体が小さなカワウソだ。ジンの力には敵わなかった。


「離せ! 離せって言うとるやろうが!!」


 アカツキが何を言っても、ジンは無視して微笑んでいるだけだ。その様子を見たサキは大笑いしていた。だが、シルルは冷めた目でその様子を見ていた。


「アカツキ。良い加減にしろ」


 だが、見かねたヴィルグが声をかけた。


「リッ、リーダー! せやけど、僕には無理や!」


 涙目になりながら、ヴィルグを見つめるアカツキ。


「あはははははは! アカツキ。これは、作戦なんだから、良い加減に諦めなよ」


「うぐっ! うるさいわ! イケメン腹黒野郎!!」


 アカツキとサキが言い合いを始めてしまった。


「はあ〜」


 二人の様子にヴィルグは深いため息が出た。だが、それは彼だけではなかった。


「はあ……良い加減にしてくれないかしら」


 その声は酷く冷たく、その場の空気を凍らせた。二人は言い合いをやめて、即座に彼女を見ると、固まった。声だけではない、その瞳も冷ややかだった。


「……ニーナ達が部屋で待っているの。それに、作戦でしょう。……貴方も大人なんだから、良い加減にして。面倒くさい」


 その言葉にアカツキは顔を真っ青に染めて静かになった。それは、サキもだった。苦笑しながら、ゆっくりとシルルから離れた。


 そんな場の空気が凍った状態の部屋のドアがノックされた。だが、返事を返す前にその扉が開いた。


「サキ。部屋に入るよ」


 そして、現れたのはミクリだった。


「あれ? 皆んな、お揃いなのか?」


 そう、ここはサキの部屋でヴィルグ、シルル、ジン、アカツキが揃っていた。エメルは席を外している。


「そうだよ。作戦の準備中。俺の部屋なら、色々あるからね」


 そう言って、笑ったサキに興味なさげなミクリは手を出した。


「じゃあ、早く退散するから、アレ出して」


「アレ?」


「懐中時計。街の女に貰ったやつ」


 懐中時計というのは、サキが街で引ったくりを捕まえた後にお礼で貰った物だ。その話をミクリにした後に、興味を示した彼女に見せる予定だった。


「ああ、良いよ」


 そして、ポケットから取り出したそれをミクリに渡した。受け取った彼女はそれを手にして、興味深そうに見ていた。


「じゃあ、借りるな」


「わかった。返すのはゆっくりで良いよ」


「やりー。ありがとう! じゃあ、私は出ていくから」


 そして、ミクリは部屋を出て行こうとしたが、そんな彼女にヴィルグは声をかけた。


「ミクリ。酒は飲むなよ」


 その言葉にビクッと身体を震わせた彼女はゆっくりと振り返ると「わっ、わかっています」とだけ小さな声でつぶやいた。だが、未だにお酒を禁止されている筈の彼女はヴィルグに内緒で街でお酒を飲んでしまっていた。その事をバレたくない彼女は素早く部屋を出たのだった。


「リーダー。ミクリは飲んでるね」


 サキの言葉にヴィルグは深いため息を吐いた。進まない作戦準備に、言う事を聞かない仲間。ヴィルグは頭が痛くなった。


「さっさと、準備の続きに取り掛かるぞ」


 その言葉にアカツキ以外は頷いた。アカツキはジンの腕の中で項垂れていた。

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