エメル
カメレオンのお兄さんの名前はエメル。彼の妹の名前はユメルと言う。エメル同様の緑色の髪が特徴らしい。両親はおらず、二人で暮らしているという。
「ご両親は?」
その言葉に彼は首を横に振った。
「……両親は父親はユメルが産まれる前に事故で、母親はユメルを産んですぐに……」
「一人で育てていたのか?」
ヴィルグの言葉に彼は首を横に振った。
「初めは母の叔父と名乗る人の元で暮らしていたんだが……ある日、俺達を奴隷商に売ろうとしたから逃げたんだ。そして、丁度船が出航する時に無理やり妹と乗り込んだ。そのおかげで何とか奴隷商から逃げ切って着いた国がここだった。そこから俺たち兄妹は二人だけで暮らしていた。ここは……獣人も暮らせる国だったから……」
確かに、彼の言葉通り、ここは獣人も笑って暮らしている。
「だけど……最近、可笑しな事が起きているんだ」
「可笑しな事? それは、何だ?」
エメルは唾を飲み込んだ。そして、苦しそうな声で呟いた。
「獣人がいなくなっているんだ……」
「どう事だ?」
その言葉を聞いたヴィルグの声は低くなった。
「ある日、忽然と姿を消すんだ。一緒に歩いていた筈なのに、少し目を離した瞬間にはいなくなっている。だけど、誰かに連れ去られた形跡はない」
「それは事件にはならなかったのか?」
「…………いなくなっているのは獣人ばかり。しかも、誰も気づいていない。証拠も何も出ない。だから、警備隊はお手上げ状態。それに、無駄な困惑を招かないように事件を公にしていないんだ。…………時計の国として、観光客を増やすために」
最後の言葉を聞いたヴィルグは何かを思い出したようだった。
「この国の王が代替わりしたな」
「…………ああ。それによって、国が少し変わった」
変わったと話すエメルは眉間に眉を寄せて、手に力を入れた。
「…………どのように変わったんだ?」
「前は……技術者の国だった。時計塔がいい例だ。だけど、新しい王は……魔法使いを集め始めたんだ。技術と魔法の融合だとさ。それに伴って、技術者達の解雇。その多くは獣人だ。人間しか雇わないようになった」
その言葉に私は目を見開いた。新しい王にいい感情は湧かない。
「そして……王の代替わりした辺りから獣人の姿が時徐々に消えはじめた」
「それは…………」
王様が一番、怪しい。ヴィルグもそう思ったのだろう。
「ねえ……エメルくん。妹さんが消えたのは、いつなの?」
今まで静かに話を聞いていたサキがエメルに問いかけた。
「五日前だ」
「……なら、早く助け出さないとね」
サキは彼に向かって、笑った。そして、その言葉を聞いたエメルは目を見開いて驚いていた。彼はサキは一番、自分の妹を助けてくれないと思っていたからだ。
「助けて……くれるのか?」
エメルは信じられないのか、問いかけた。その言葉にサキは「リーダー」と呼んだ。
「チッ。仕方がないが……話を聞いてしまったら、無視する事はできない」
「あっ、ありがとう! ありがとう!」
彼の瞳から滝のように涙が溢れてきた。今まで、ずっと気が張っていたのだろう。唯一の家族がいなくなって、心配で心配で、だけど、どうする事もできなくて、歯痒い気持ちだった筈だ。
「さて……リーダー。どうするの?」
「……そうだな……皆を集めて話す必要がある」
「了解。皆んなを集合させますね」
「任せた」
そして、サキは部屋を出ていった。残された私達はエメルと共にこの国の街の地図を確認した。街に出かけた際にヴィルグが買った物だった。
「妹がいなくなった場所はどの辺りだ?」
「そうだな……。この辺りだ」
エメルが指差したのは屋台が多く並んでいる場所だった。
「人目が多い場所だな」
「ああ。人目が多い分、人攫いはやりにくいはずなんだが……」
「……逆だな。人が多い分、目に行きにくい。逸れたら見失うだろう。それに、屋台に目が行きやすいのもあるだろう」
ヴィルグの言葉に私は納得した。そして、一つ思い出したことがあったのだ。この事件に関係しているのかわからないが、一応、彼に伝えておく事にした。
「ヴィルグさん」
「どうした?」
「街を見にいった日……屋台のあたりで……甘い香りがしたの」
そう、あの日、屋台の美味しい香りに混じって、甘い香りがした。ルイスも変な顔をしていたので覚えている。
「甘い香り?」
私の言葉にエメルが引っかかっていた。
「俺の妹がいなくなった時にも甘い香りがした気がする」
「えっ?」
「俺は、その香りに気づかなかった」
ヴィルグはその話に顔を顰めた。
彼がその香りに気づかなかったと言う事は、考えられる事は一つだ。
「これは、憶測だが……その香りは獣人にしか匂わない可能性があるな」
そして、それを嗅いだ獣人は意図せずにその香りに惹かれてしまったという事だろう。




