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カメレオン

 私の目の前には目を瞑っているカメレオンがいる。

 何故? 何故、こんなところに⁈ そう思っていると、カメレオンの目が見開いた。


「っ⁈」


 私は驚いて、大きく飛び跳ねた。周りには私だけしか居ない。そのため、一人でどうにかしないと駄目なのだ。シルルとルイスはミクリの所へと行っている。


「どうしよう……」


 本物のカメレオン。しかも、大きなサイズは初めて見た。


「誰か……」


 誰かを呼ぼうと思ったが、その間にカメレオンがいなくなったらどうしよう? 後から出てきた時に嫌だな……。そう思っていると、声をかけられた。


「お嬢さん、お嬢さん」


 その声はどこから聞こえるのか? 私は周りを見渡した。


「お嬢さん、下。下を見て」


 下……。私は視線を下へと向けた。だが、そこにいるのはカメレオンだけだ。


「…………まさか……ね?」


「お嬢さん、お嬢さん」


「…………っ⁈ ヒッ!」


 私はカメレオンの口が動いて、喋った事実に顔が引き攣った。そして、大きな声で叫びそうになったが、それはできなかった。何故なら、カメレオンが人の形になり、私の口を押さえたからだ。


「お嬢さん。叫ぶのはやめて。あの、恐怖の魔王みたいな男がやってくるだろう」


 私はコクコクと何度も首を縦に振ると、男は私から離れた。目の前にはカメレオンではない。肩ぐらいの長さの緑色の髪をした青年が立っていた。声を聞かなければ美少女と言ってもいいほど可愛い顔をしていた。


「可愛い……」


「俺は男だ。お嬢さん」


「そうなんだ……。というか、船に勝手に入るのは駄目だよ。不審者?」


「断じて違う! そもそも、俺は声をかけようとしていた!」


 彼の話によると、昨日、話しかけるタイミングを見つけるために私達をジッと見つめていたらしい。だが、それがサキに見つかり、顔の横スレスレに短剣を刺されたらしい。


「あの、真顔……今、思い出しても震える」


 私はその話を聞いて首を横に傾げた。


「でも、姿は見えなかったよ?」


 そうなのだ。姿はどこにもなかった。こんな美少女のような顔を見逃すはずがない。その上、カメレオンの姿でも見逃す事はないだろう。


「あれ? と言う事は……貴方は獣人?」


「そうだ。それに、俺はカメレオンなんだ。さらに、俺が凄いのは……お嬢さん、見てろよ」


 そう言った彼は即座にカメレオンの姿に戻ると、その場に溶け込んだ。そのため、その場にはカメレオンがいないように見える。だが、彼が舌を伸ばすと、何もない筈の場所から舌が伸びていた。


「わあ…………」


 私はその姿に若干引いた。


「どう? お嬢さん。俺、凄くない?」


 カメレオンが姿を現した。その表情は何処か得意げだ。


「すっ、すごーい」


 私は両手を叩いて拍手した。それに、気分を良くした彼はさらに風景に溶け込む姿を何度も私に見せた。


「もう、大丈夫だよ」


「そう? もっと、見せたい所だが……」


「どうしたの?」


「お嬢さんに頼みたい事があるんだ」


「私には無理だと思う」


「決断が早い。しかしだな、お嬢さんにしか頼めないんだ」


 私は首を横に傾げた。そもそもの話、彼は何をしたいのだろうか? 昨日から話しかけるタイミングを見計らっていたらしい。


「何を頼みたいの?」


「俺の妹を見つけて欲しい」


「えっ?」


 彼は人型になると、私に頭を下げた。


「君から、彼らに頼んではくれないだろうか?」


 彼ら……それはつまり、シルルやサキ、それにヴィルグの事だろう。


「俺が直接頼んでもきっと、警戒される」


 確かにそうだ。正直、私も怪しいと思ってしまっている。


「妹さんって?」


「……君よりも少しだけ年上かな? 俺と同じカメレオンの獣人なんだけど……五日前に姿を消した。それに……俺の妹だけじゃない。この国にいる他の獣人も姿が見えなくなった」


「…………えっ?」


 彼の妹以外の獣人の姿が消えた? どう見ても事件の匂いしかしない。


「お願いだ。俺、一人の力だけではどうする事もできないんだ」


 彼はもう一度、私に頭を下げた。


「……わかった。一緒にお願いしに行ってあげる。私も妹さんが心配だから」


「ありがとう……」


 そして、私は部屋から出て行こうとしたが、彼によって止められた。


「俺も連れて行ってくれ」


 彼はカメレオンの姿に戻った。私は一瞬だけ考えてしまった。どうやって、彼を連れて行こうかと……。


「わっ、私が抱っこするの?」


「えっ? いや、君の後について歩いて行く」


「あっ……そっ、そうだよね? あはっ、あはははは……」


 私は苦笑いしながら、部屋を出た。そして、その後を彼は風景に溶け込みながらついて来たのだった。

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