甘い香り
時計の国を見て回って思った事があった。
「ねえ……ルイス」
私は隣を歩くルイスに声をかけた。すると、屋台に目を向けていた彼の視線が私に向いた。
「どうした?」
「この国って……思ったよりも獣人が住んでるよね?」
その言葉を聞いた彼は周りを見渡した。そして、頷き返して来た。
「そうだな。俺たちのいた国よりも多くいる。それに……笑ってる」
「そうだね」
私が知っている獣人はルイスと船にいる人達だけだ。だけど、ルイスが知っている獣人達はもしかしたら、笑っていなかったのかもしれない。言葉には出さないが、彼の目は眩しいものを見るような瞳だったからだ。
そんな時だった。鼻に甘い香りが漂ってきた。
何の匂いだろう? 首を傾げていると、ルイスも同様に変な顔になっていた。
「どうしたの?」
そんな私達の様子に気づいたサキが話しかけて来た。その手にはお肉がついた串を三本持っていた。
「あっ! ニーナちゃん達もどうぞ」
渡された串に私達の目は釘付けになった。目の前のお肉の匂いによって、甘い匂いはかき消された。
「サキさん。ありがとう!」
私達は先程の甘い匂いは忘れて、お肉にかぶりついた。だけど、お肉に夢中で気付く事ができなかったのだ。その甘い匂いを嗅いだ獣人が一人、路地の裏に吸い込まれるように入っていく姿に。
「街の探索はこれくらいにして、今日は帰るか?」
ヴィルグの言葉に私達は頷いた。
「ニーナ、ルイス。楽しかった?」
シルルの言葉に私達は顔を見合わせてから、笑顔で頷いた。その様子を見た彼女は優しく目を柔らげた。
そして、船へと戻って来た時だった。サキが船に向かって急に短剣を刺したのだ。
気でも触れたのだろうか? 私は驚きすぎて口を開けたままになってしまった。
しかし、驚いたのは私とルイスだけで、ヴィルグ達は至って普通だった。いや、少し警戒しているようだった。その証拠にシルルが私とルイスを後ろに隠したのだ。
「サキ」
ヴィルグが彼に声をかけた。
「ごめん。リーダー。逃げた」
逃げた? その言葉に首を傾げた。
「姿はなかったが……」
ヴィルグはジッと短剣が刺されたところを見ていた。私も姿を捉えることはできなかった。
「……そうなんですよね〜。姿は見えないけど、気配だけは感じる。厄介ですよー」
サキはため息を吐きながら、短剣を船から抜いた。
「どう言う意味?」
私はシルルに問いかけた。すると、彼女は目線を合わせて教えてくれた。
「姿を変えられる人の仕業ね」
「姿を変える? 魔法?」
魔法を使っているのかと思ったが、彼女は首を横に振った。
「魔法の形跡がないから……魔道具の類かしら?」
彼女は私から離れて、短剣が刺さっていた場所まで行き、確認していた。その間、私はサキに話しかけた。
「ねえ、サキさん」
「ん? どうしたの?」
「どうして、そこにいるのがわかったの? 何も見えないよね?」
その問いに彼はにっこりと笑って、私の前にしゃがみ込んで視線を合わせた。
「ん〜。そうだな……視線かな? ずっと、こちらを見るような視線を感じたんだ」
「しっ、視線……」
「そうだよ〜。ジッとこちらを見る視線」
「そっ、そうなんだね……」
それだけで……。私は改めて、サキという人物が実はすごい強い人なのでは? と思ったのだった。
その日はそれで終わったのだが、事が起こったのは次の日の朝だった。
「…………えっ⁈ むっ、虫?」
私は目の前にいる生き物に驚愕していたのだった。




