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とある魔術師の泣き言

 魔塔を追放された男の名はビスト。白い髭が特徴的な彼は後、少しで魔塔主になれる筈だったのに、リカルド・マリーニにその座を奪われた。自分よりも遥かに年下の男な上に、ビストの得意な魔法の欠陥まで見つけたのだ。『天才』その言葉が似合う男だった。だが、どうしても魔塔主の座を欲したビストは自身の弟子と共にリカルドを陥れようとしたが、逆にやり返され、今に至っている。


「師匠ー。どうするんですか? 本当にやるんですか?」


 ビストに話しかける女性は彼の弟子であるミラだった。二人は弱みを握られて、現在は奴隷商人に従う魔術師と成り下がっていた。


「やっ、やるに決まっておろう!! じゃないと……」


「あの魔王は私達をやりに来ますね。確実に」


 魔王と言うのはサキの事だ。二人の目にはそう見えているのだ。

 二人はニーナとルイスを狙っていたが、サキにより完膚なきまでにやり返され、心を折られたのだ。そして、二人が恐怖するサキから彼が船に乗って街を出る前にお願いをされたのだ。その時の事を思い出したミラは顔を青ざめた。


「でっ、でも……奴の隣にはいつも、あの人がいるじゃないですか……どうするんですか?」


 あの人というのは奴隷商人の側にフードを深く被った男か女かわからない奴が控えているのだ。一つだけわかるのはビスト同様の魔術師だという事。それも、かなり優れた魔術師だ。オリジナルの通信魔道具を作り、それに干渉できるのだから。普通なら考えられないものである。そんな奴が奴隷商人の側に控えているとなると、こちらから手出しはできない。失敗すれば命はない。


「それなんだが……月に一度、奴が商人から離れる日がある。それを狙えばいいんじゃないか?」


「なるほど! 確かに……それなら、やれそうですね!」


「しかし……その日が明日とは……」


「実行は早い方がいいですよ!」


 二人はサキから渡された薬を奴隷商人に飲ませる方法について作戦を練る事にした。


「では……明日、実行しよう」


「了解です!」


 そして、二人は翌日に作戦を実行したのだ。勿論、商人の側に控えている魔術師がいなくなってからだ。


「しょっ、商人様……」


 ビストが奴隷商人の男に話しかけた。手には熱々のスープが入った器を持ってだ。勿論、その中にはサキから渡された薬入りである。丁度、昼食時だったのですんなりと渡す事ができたのだ。普段から魔術師以外の雑用もこなしていたため、疑われていない。そして、商人の男が全て飲み干すまで見届けた。


「どうした?」


 途中で彼に話しかけられたが、首を横に振り答えたのだ。


「新しい調味料を試してみたので……不味かったらと思うと不安で……」


 すると「そうか」とだけ返され、特に何も怪しまれる事はなかった。

 そして、その三十分後に事は起こったのだ。


「なっ、なっ、何だ⁈」


 焦った声がビストとミラの二人の耳に届いた。慌てて、様子を確認すると、まさかの奴隷商人の男の身体が発光し始めたのだ。さらに、男の口からも光が漏れ出て、溢れるのが止められないのか口を上に向けた瞬間に空高く光りの柱ができたのだ。


「師匠……とんでもない事になっていませんか?」


 ミラは呆然としながら、その様子を見ていた。それは、ビストも同様であった。まさか、渡された薬の効果が全身に光を帯びるなど想像もしなかった。


「しかも……光の柱が……」


 二人の視線は光の柱に目を向けた。どこまでも続く一本の光の柱。


「これ……まずいんじゃないですか?」


 ミラの不安は的中した。何故なら、騎士団によって、あっという間に囲まれたからだ。


「動くな!」


 その声は聞き覚えがあった。何故なら、ビストは知っていたからだ。


「皇帝の犬風情が……」


 悔しそうに口に出した時だった。ビストがこの世で一番嫌いな人間が呑気な声と共に現れたのだ。


「ヨハン氏〜。某の魔法の凄さを思い知った? これだけの人数を一瞬にして飛ばせるんだよ〜。ん?あれ〜。ビスト氏? それに、ミラ氏?」


「なっ⁈ リカルド⁈」


 そこに現れたのはリカルドだった。その登場にビストは大きく顔を顰めた。


「何故、ここに……」


「奴隷商人の側にいる魔術師って、ビスト氏?」


 その言葉に「そうだ」と口出しそうになったのをミラによって止められた。


「師匠。私達は知らないふりをしましょう」


 そう、耳打ちして来たのだ。確かに、仲間だと知られて、投獄される事は避けたい。この国の皇帝は奴隷商人を死ぬほど嫌っているのだ。捕まってもいい事など一つもない。


「で? どうなの?」


 リカルドのビストを見る目はどうでも良さそうだった。その事に悔しくなるが、その心は胸のうちに秘めた。


「違う。ミラと光る柱を見つけて興味本位で来ただけだ」


「へえ。ですよね〜。ビスト氏にあの魔道具を造ることなど不可能に近いですし」


 そう言って、笑ったリカルドにビストは掴みかかりそうになったのをミラに止められた。


「リカルド殿」


 そんな彼らの元へと来たヨハンは二人に鋭い視線を向けた。


「貴方達は……」


「ヨハン氏。記憶ない? ビスト氏だよ。某にやり返されて、魔塔に居られなくなっちゃった、あの、ビスト氏」


 そこまで言われたビストは手を強く握りしめた。怒りを抑えるためだ。


「貴方達も王宮へと連行します」


 その言葉を聞いたミラは叫んだ。


「そんな⁈ 私達は無関係です!」


「それを証明するために来ていただきたいのです」


「そんな〜」


 がっくしと見るからに落ち込んだミラを無視しながら、話を進めようとするヨハンにリカルドが話しかけた。


「ねえ。ヨハン氏」


「何ですか? 今は忙しいので、貴方の自慢話を聞く気はありません」


「違いますけど⁈ 某の事を何だと思っているの⁈」


「…………さあ、手を出して下さい」


 ヨハンはリカルドを無視して、ミラ達の手を拘束しようとした。


「無視しないでくだされ!」


「じゃあ、何ですか?」


「冷たい目⁈ ヨハン氏。某に二人をくだされ」


「「はっ?」」


 その驚きはヨハンだけではない。ビストもだった。


「それは、陛下の意向を聞いてからです」


「OKだったら、いい?」


「まあ……そうですね」


 ビストの意見など全く聞く気がない二人に叫んだ。


「私達の意見はどうした? それに、この件に関してはミラは関係はない!」


「師匠〜」


 そんな叫びを二人は無視して話を進めて行った。そして、ビストとミラ、そして奴隷商人は王宮へと連れて行かれた。


 その様子を影に隠れて見つめるのはフードを深く被った男か女か見た目にわからない人間だった。その者は普段は奴隷商人の側に控えていた。


「……ああ。あいつはもう……いらないな」


 そう小さく呟いた人影は誰にも見つかる事なくその場から消えた。

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