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桜姫の寵愛  作者: 知恵紅葉
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結婚相手

「奥様。大丈夫ですか」


自分だったらあの部屋に入った瞬間逃げだす。それくらい菊達の相手をするのは大変なのだ。


未桜は嫌な顔一つせず、ずっと笑顔だった。


浩と約束したため嫌と言うことができず、嫌々ながらも付き合っていたのではないかと心配になる。


菊達のおかげで未桜は美しくなった。だが、それは自分達の自己満足なのではないか。未桜はこんなこと本当は望んでなかったのではないか。


今になって未桜の意見も聞かずに勝手なことをしたと後悔する。


「ええ、大丈夫よ」


未桜は幸せだった。


この十二年間助さん以外自分に笑いかけてくれる人はいなかった。未桜に何が似合うのかあんなにも真剣に悩んで選んで貰えて嬉しかった。


幸せすぎて目から涙が溢れ落ちないよう必死に耐えた。


「そうですか。ならよかったです。もし、体調が悪くなりましたらすぐに教えてくださいね」


未桜の顔が幸せな満ち溢れていたので楓はホッとする。


「わかったわ。ありがとう」


「約束ですよ」


「ええ、約束」


二人は小指を絡め指切りをする。


勘違いかもしれないが町で最初に声をかけたときより未桜の表情が柔らかくなった気がする。


「奥様。こちらの部屋へ」


戸を開け未桜を中に入れる。


「では、奥様暫くこの部屋でお待ちください」


茶を未桜の前に置き、床に手を置き礼をして出て行く。


楓は戸を閉めると軽い足取りで何処かへ走っていく。


きっと、結婚相手を呼びにいったのだろう。


ようやく一人にななれ深く息を吐く。緊張で鼓動が速くなり、手汗が止まらなくなる。




もうすぐ、ここに結婚相手がくる。これも自分の運命として受け入れられたと思っていたが、会ったことない人と結婚するのはやっぱり怖くて仕方ない。


寧々達にはあれだけ大見栄を切って出てきたのに、いざ相手と直面するとなると手足が冷たくなり震えがとまらない。


未桜はもうあの家には戻れない。いや、戻らない。この町では一生生きていく覚悟できた。


それでも、心のどこかでは逃げ出したかったのかもしれない。今更そんなことは無理だとわかってはいる。


それに、もう逃げ出そうとは思っていない。この町に来て人の優しささ温かさを思い出した。


相手がどんな人か会ったことないから怖いだけ。自分の理想とする結婚ができないから悲しくなっただけ。


未桜は結婚するなら互いのことを想いあい、尊重しあえ、心が通じ会えるような人としたいと思っていた。


この人なら幸せになれるではなく、この人とならどんなに苦しくても共に乗り越えていきたいと思える人。


生涯を共に過ごすなら変わらず愛し合えるひとがよかった。


今となってはそれは叶わない夢だが、これから結婚する相手の方とそうなっていけたらいいなと思っている。出会い方がどうであれ少しずつ心が通じあえればいいなと考えている。


トントントン。


足音が聞こえる。さっきまでいた楓の軽い足音ではなく重い。大人の男の足音。


結婚相手がこの部屋に向かってきているのだろう。


自分の鼓動がさっきよりも速くなる。落ち着かせようと目を閉じ深呼吸を繰り返す。だいぶ落ち着き目を開けると障子に人影が映る。


障子越しでは左腕と右目が無いのはわからない。


「(もう来たのね)」


せっかく落ち着いたのに一瞬で元に戻る。


未桜は男が戸を開ける前に胸に手を置いて深呼吸する。


「お待たせして申し訳ない」


逆光で男の顔は見えないが男の手には左腕がある。


この人は誰なのだろうか。結婚相手の人ではない。


でも、不思議なことにどこかで会ったことがある気がする。


「(あれ、確かこの声どこかで聞いたことがあるような)」


つい最近どこかで聞いたことがある気がして必死に思い出そうとする。


パタン。


戸が閉まると太陽の光が遮断されて男の顔が見える。


「貴方はあのときの」


あの日自分を助けてくれた人が目の前に立っていて目を見張る。どうして、この人がここにいるのかと不思議に思う。


「また、会えましたね」


青年は優しい目をして未桜に微笑む。


その笑みは花のように可憐で美しく、瞳は愛しいものを見るような瞳だった。



未桜は目の前の男に何と話しかければいいかわからず黙り続ける。


目の前にいる青年は一体何者なのだろう。どうしてここにいるのか。答えは一つ。


「あなたは若桜桃志郎さんですか」


と、尋ねようと口を開こうとする前に青年が先に口を開いた。


「私の名は若桜桃志郎と申します。この度は結婚を承諾してくださり感謝しています。ありがとうございます」


頭を下げ名を名乗り感謝する桃志郎にやっぱりなと納得する自分と本当にこの青年が若桜家当主なのかと信じられない自分がいる。


若桜桃志郎は四百年の歴史を終わらせ、新たな歴史を作った男。


そんな男が何故わざわざ自分に頭を下げ礼を言うのかわからない。会う必要もない。


でも、よく考えれば別におかしなことではない。


これは、若桜家と桐花家の両家の繋がりを強くするため政略結婚。そう考えれば桃志郎が未桜に礼を言うことはおかしくない。


そこまで考えて自分を名を名乗らなければと気づく。


「私の名は桐花未桜と申します。こちらこそ感謝しています。ありがとうございます」


口では感謝の言葉を述べるが本当は感謝などしていない。桃志郎に何の非はないことはわかっているので、これは自分の非だと受け入れる。


この結婚は未桜を桐花家から追い出すために仕組まれたもの。信近はそれっぽい理由を並べたが、本心はさっさと未桜を追い出したかっただけ。


もちろん、桃志郎が桐花家の思惑など知るわけもない。ただ、男の為に結婚相手を探しただけ。


それに信近達のことだ、桃志郎に私が結婚したがっているとでも言って無理矢理押し切ったのだろう。


だから、桃志郎を責めることはできない。


それに、ここにくることを決めたのは結局未桜自身。自分の意思で自分の足でここまで来た。


結婚したら二度桐花の名を名乗ることはできなくなるが、それでも私は私。名が変わろうと私自身が変わるわけではない。


自分らしくもうこれ以上誰の目を気にすることなく、胸を張って生きていこうと決意する。


未桜は頭をずっと下げていたので、桃志郎が今どんな顔で未桜を見ていたか知らない。


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