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桜姫の寵愛  作者: 知恵紅葉
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使用人

「ねぇ、楓くん。どうして私のことを奥様って呼ぶの?」


部屋から出るときにまた「奥様」と呼ばれ、ずっと気になっていたことを尋ねる。


楓は質問の意味がわからないのか、きょとんとした顔をして首を傾げる。


「奥様は奥様でしょう」


「いや、私は違うよ」


「えっ!違うのですか!いや、でも、そんなはずは、だって……」


楓がその続きをなんと言おうしたのか聞く前に女性の声が聞こえる。


「あーー!楓!あんた、そんなところで何立ち止まってるのよ!早く案内しなさいよ!こっちはずっと待ってるのよ!」


離れた場所から女性が叫ぶ。


「げっ、菊姉さん」


眉の間に皺を作る。


「げっとは何じゃあ!げっとは!聞こえとるぞ!」


楓の声は菊と違い普通だった。どう考えても聞こえるはずない。


それなのに聞こえるといえことは、菊の耳は相当いいのだろう。


「うわっ!これくらいでも聞こえるのかよ。相変わらず地獄耳め」


ボソッとさっきよりも小さな声で言うが菊にはそれも聞こえていた。


「じゃあから聞こえとるわ!早くこっちにこんかい!」


二人のやり取りがおかしくてついぷっと笑ってしまう。


楓の態度は未桜に接するときとは違い年相応で可愛い。


楓は一人っ子だと言っていたが、菊と言い合う姿は仲の良い姉弟(きょうだい)みたいで微笑ましい。


この屋敷は温かく居心地がいい。昔を思い出す。


未桜は目を閉じ少しの間感傷に浸る。


「すみません。奥様。行きましょう」


楓は頬を赤らめ恥ずかしそうに菊のいるところまで案内する。


「初めまして、奥様。私は菊と申します」


菊は名を名乗ると美しい礼をする。先程叫んでいた人物とは思えない。


「初めまして菊さん。私は桐花未桜と申します」


未桜は美しい所作で頭を下げる。


顔をあげる聞くをみると目を見開き驚いていた。何でそんな顔をしているのか未桜にはわからず首を傾げる。


「奥様。中に入りましょう」


楓は戸を開け中に入るよう促す。

「ええ」


二人が部屋の中に入るとハッと我に返り、後を追うように中に入る。


菊は若桜家に仕えるまでは他の陰陽師の貴族に仕えていた。


その家の者達は使用人を道具としてか見ておらず、いつも威張り散らしていた。使用人に命令することはあってもお願いはしない。頭を下げるなんて絶対しない。


それなのに目の前にいる未桜はその貴族達よりも高貴なお方なのに自分のような人間に頭を下げた。


信じられない。こんな貴族がいるのかと。


菊はこの時心の底から「(この人に仕えることができて本当に私は幸せ者だ)」と。


少しうるっとして涙がこぼれ落ちそうになるが、なんとか耐える。




未桜が部屋の中に入ると中には人がいた。六人の女性が並んで立っている。


「初めまして、奥様。私は和葉と申します」


一番左にいる和葉が名を名乗るとそれに続くように順に名乗っていく。


「小春と申します」


「早苗と申します」


「雪と申します」


「凛と申します」


「若菜と申します」


全員が名を名乗り終えると「奥様、これからどうぞよろしくお願いします」と頭を下げる。


「私は桐花未桜と申します。こちらこそよろしくお願いします」


双方の話は噛み合っているようで全く合っていない。


使用人達は未桜がこの家の女主人になると思っており、未桜はお手伝いをしに来たと思っいる。


「では、早速はじめましょう」


菊が声をかける。


「はい。よろしくお願いします」


よし、やるぞ、と浩に手当てしてもらった恩返しをするぞと張り切る。


まずは、何からすればいいのだろうと菊の指示を待つ。




「楓くん。これは一体」


浩と約束した手前断ることができず近くにいる楓に助けを求める。


楓は未桜が助けを求めているのがわかったが、自分には助けることはできないと笑って誤魔化す。


菊達はそんな二人のやり取りに目もくれず話しを続ける。


「ねぇ、こっちの方がよくないからしら」


「えー、絶対こっちですよ。奥様にはこの色の方がお似合いですよ」


「ねぇ、これも奥様に似合いそうじゃないかしら」


「どれも似合いすぎて逆に悩むわ」


「本当にその通りだわ。さすが奥様」


「あら、これもいいんじゃないかしら。この柄なんてきっと奥様に似合うわ」


「これもこれも奥様に似合いそうだわ。どれがいいかしら」


各々が未桜に似合うと思う着物を選ぶ。互いに未桜が似合うのはこの着物だと言って譲らないので、決まるのに約二時間かかった。


ようやく終わったと解放されると喜んだのつかの間第二段が訪れる。


「じゃあ、次は帯ね」


小春の言葉に未桜はもしかしてまた今みたいにして決めるのかと絶句する。


帯が決まると、帯締め、髪型、髪飾り、化粧など全て話し合いをして決めていく。全て終わるのに約四時間近くかかる。


漸く解放されるも結構疲れ、今すぐ脱いで横になりたいと考える。




「とてもよくお似合いです。奥様」


着替えるからと追い出された楓が部屋の中に入り未桜の美しさに目を奪われる。


「当然よ。奥様は元から美しいもの」


早苗が得意げに言う。


皆、早苗に同意するよう大きく頷く。


未桜の格好は全体的に桜色で統一されている。


着物柄も桜で少し濃い色で描かれ縁が金。


髪飾りも桜で埋め尽くす。


唯一、帯締めだけ桃の花の飾り。色は桃色と金色の二種。


菊達は意図して桜を選んだわけではないが、未桜には桜が一番似合うと思った。


「奥様。こちらへ」


鏡の前に誘導する。


「これが、私」


鏡に映る自分の姿が信じられない。


今の未桜は舞桜にそっくりだ。


未桜は自分は父親似だと思っているし、周りにもそう言われてきた。


舞桜の若い頃を知っている者がいたら、全員こう言うだろ。


「そっくりなんてものじゃない。若い頃の舞桜の生き写しだ」


それほど、鏡に映る未桜の姿は似ている。


美しい。


その一言に尽きる。


この場にい全員が未桜のことをそう思っていた。


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