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桜姫の寵愛  作者: 知恵紅葉
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夏目浩


「楓くん。これは一体」


数分前までの出来事を思い出し、どうしてこんなことになったのかわからず頭を抱える。



屋敷の中に入ると楓に案内された部屋に入ると男性がいた。


「おや、楓。そちらの方はもしかして」


男性は首を少し傾げて未桜を見上げる。


「はい、こちらは桐花未桜さんです」


男性に未桜を紹介し続けて未桜に男性を紹介する。


「奥様、こちらは夏目浩(なつめこう)さんです」


二人は互いに頭を下げ初めましてと名を名乗る。


「取り敢えず二人とも座りなさい」


浩に促され素直に座る。


「未桜さん。怪我をしてますね。術で治療しますので、こちらに手を」


手をだす。


「いえ、気にしないでください。大したことでは無いので」


頭を少し振って大丈夫ですと断る。


「私は医者です。目の前に怪我をしている人がいるのに見過ごすことはできません。私の為と思って治療させてはくれませんか」


「奥様。何も心配はいりません。浩さんの腕は日本一です」


楓は浩の腕を心配して断ったのだと勘違いした。


「では、お願いします」


未桜は恐る恐る浩の手に自分の手をのせる。


「花よ。かの者の傷を癒せ」


未桜の手を取っている方ではない左手に牡丹の花が現れる。それを口元まで持っていき、ふっと息を吹きかける。


男の息で牡丹の花は未桜の方に飛んでいき花びらが散り舞う。


暫く舞うとパッと光り消えていく。


未桜はあまりに幻想的な光景に言葉を忘れ魅入ってしまう。


「まだどこか痛むところはありますか」


「いえ、どこも痛くありません。ありがとうございます」


右足と左脇腹の痛みも手にあった傷も綺麗に消えた。昨日末姫に打たれた頬の痛みも引いていて、本当に凄い人なのだと感心する。


未桜は床に手をつけ美しい座礼しお礼を言う。


浩と楓はあまりにも優雅な所作に目を奪われ魅入ってしまった。


「それなら、よかったです」


「本当にありがとうございます。お礼に何かさせてください」


代金を払いたかったが生憎今は手持ちがあまりない。


好意でやってくれたのはわかるが、それでは未桜の気持ちがおさまらない。


「気にしないでください。私がしたくてしたことですから」


浩は首を横に振りその必要はないと断る。


「でも……」


お礼に何かしたいと思うも、しなくていいと言う相手に無理矢理何かさせろと言うのは違う。わかっているがそれでも納得できず素直に頷けない。


「わかりました。どうしてもというなら一つだけお願いがあります」


「私にできることなら何でもします」


お願いがあると言うと未桜は嬉しそうに何でもすると言う。


その姿があまりにも愛らしくて浩はつい微笑んでしまう。


「では、今からある部屋に行って欲しいのです」


「わかりました。どこに行けば行けばいいですか」


「部屋の場所は楓が案内します」


楓の方を向き未桜にばれないよう片目を閉じ合図をおくる。


楓はそれに気づき頷く。


「未桜さんにはその部屋にいる者の指示に従って欲しいのです」


「わかりました。必ず指示にしたがいます。任せてください」


未桜は部屋の掃除か何かをするのだろうと思い、迷惑をかけないようにしなくてはと気おつけようと心がける。


浩は未桜の顔を見て何を考えているのかだいたい想像がつき、きっとそんな事にはならないだろうと思いながら「はい。よろしくお願いします」と敢えて訂正しなかった。


「では、楓後は頼みましたよ」


「はい、浩さん。お任せください」


楓と浩は意味深に頷き合う。


「では、奥様お部屋にご案内します。参りましょう」


「うん、わかったわ」


戸を開けて楓は未桜を待つ。


未桜は立ち上がる前にもう一度床に手をつき座礼をする。


「夏目さん。本当にありがとうございました」


「はい。どういたしまして」


ふわり。花が咲くときのような柔らかい笑みを浮かべる。



浩はだんだん遠くなる足音に耳を済ませながら未桜の事を思い出す。


大した時間ではなかったが少し話しただけで浩は未桜の事を気に入った。


自分を大切にしない所だけは直して欲しいとは思う。


これから未桜と過ごせていけると思うと嬉しくて年甲斐もなく心が躍る。


「貴方が彼女に惚れるのもわかりました」


誰の耳に届くこともない独り言にふっと鼻で笑う。


「どうか幸せになってください」


これから未桜に訪れるのが幸せだけとは限らない。寧ろ幸せになるための試練が過酷なものだと知っている。


結婚は幸せだけではない。寧ろ幸せな時間は最初の頃だけだろう。時が経つにつれ幸せは薄れていく。


そこから、どうなっていくかは当人達次第。愛が増していくか失われていくか。


未桜の相手に関してはそんな心配は無用だが、ある意味可哀想だ。


決して逃げることができなくなるのだから。この屋敷にいる者達の中で浩以外に気付いている者はいない。


屋敷のどからでも見える桜。それが何を現しているのか浩は知っている。


愛は受け取り方、受け取る相手によって変わってくる。ある者には純愛、一途と捉えられても、ある者には狂気、怖い、重たいと捉えられることもある。


結局幸せになれるかは自分次第なのだ。


美しい桜の吹雪を見ながら二人の幸せを心から祈る。

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