四堂楓
「お客さん、つきやしたぜ」
本当に数日かかる距離を数時間で辿り着く。急に止まったため未桜は籠から落ちそうになる。
「ありがとうございます」
担ぎ手の人の手を借り籠から降りてお礼を言う。
「では、自分らはこれで」
担ぎ手の二人は未桜に少し頭を下げて自分達の町へと戻っていく。
まだ目的地まで着いていないが、ここから先は乗り物禁止なのでそこまで歩いて行く。
昔、この町には一度だけ来たことがあるがその頃と比べて結構変わっているのでどこに何があるかわからない。
誰かに目的地までの場所を聞こうとするが、誰に話しかければいいかわからずその場で右往左往してしまう。
そろそろここから移動しなければと思い始めた頃、前から少年が自分の方へ近づいてくるのが見える。
「すいません。あの…桐花…未桜…さんですか」
未桜の前まで来るとハァハァハァと息切れしながら本人か尋ねる。
知らない少年から自分の名がでてきて「えっ」と驚くが、直ぐに結婚相手の人が遣いに出した少年なのではと思った。
「えぇ、そうよ。私に何か用かしら」
少年の目線までしゃがみこむ美桜。認めると間違えなかったことによかったとホッとする少年。
「はい。私は若桜家当主の命で未桜様をお迎えに参りました。四堂楓と申します」
結婚相手の人が遣わせた少年かと思ったが、まさかの若桜桃志郎が遣わせた少年だった。
何故若桜桃志郎がこの子を私に遣わせたのか不思議に思う。
「お荷物をお持ちいたします」
未桜から荷物を受け取ろうと手を伸ばすが「ありがとう。でも、大丈夫よ」と断る。
「いけません。それは、私の仕事でございます。それに、奥様に荷物を持たせたまま歩かせたとなると、私が旦那様に怒られてしまいます」
楓は今にも泣き出してしまいそうな顔で自分に持たせてくれと頼む。
「じゃあ、お願いね」
そこまで言うならと荷物を楓に渡す。
大した物は入ってないから重くはないはず。楓でも大丈夫だと思うが少し心配になる。
「はい。お任せください」
さっきまでの泣きそうな顔から打って変わって嬉しそうに笑う楓を見て、面白い子だなとつい笑ってしまう。
「ありがとう」
楓と話していると昔の事を思い出す。
未桜の護衛でいつも傍にいた秋紀とふとした会話を思い出した。
秋紀もよく楓と同じように「お嬢様。その荷物は私がお待ちします」と言って、いくら大丈夫だと言っても聞く耳をもたず荷物を持ってくれた。
今の出来事が同時の頃の記憶と重なり懐かしく感じた。
十年以上会っていない。未桜にとってかけがえの無い存在。
今、秋紀も皆もどうしているのだろうか。
幸せに暮らしているだろうか。
一人でいないだろうか。
ご飯はきちんと食べているだろうか。
空を見上げどこにいるかわからない大切な人達の心配をいつもしていた。
何故か楓を見ているときっと皆も幸せに暮らせているはずだと思えた。
「では、奥様参りましょう」
楓は満面の笑みを浮かべ未桜を若桜家まで案内するため歩き出す。
「えぇ、よろしくね」
未桜も楓の笑みにつられ優しく微笑む。
楓は若桜家の屋敷に着くまでの間、この町がどんな所でどんな店があり、桃志郎がこの町にしてくれたこと、桃志郎という人がどんなに素晴らしい人なのか未桜に話した。
「あっ、あそこの店はうどんがとても美味しいですよ。私のおすすめは鍋焼きうどんです。麺と汁の絡み具合が最高であの味はあそこでしか食べられないんです。本当に最高なんです。絶対に一度は食べてほしいです」
楓はうっとりした顔で鍋焼きうどんを食べた時の幸せを思い出す。
「あそこはおにぎり屋さんです。いろんな具があって焼きたてのおにぎりは絶品です。私はわかめが一番好きです」
「あそこは団子屋です。みたらし団子が美味しいと有名です。私も何度か食べたことがありますが、頬が落ちてしまうくらい美味しいくて何度でも食べたくなります」
「あそこは寿司屋です。大将の握る寿司は間違いなく天下一品です。今度一緒に食べにいきましょう。奥様」
さっきから町の話のほとんどが食べ物に関するものだと思いつつも、楓の表情がコロコロと変わるのが見ていて面白くもう少し見ていたいと思い、たまに相槌をするだけで何も言わない。
「(良かった。ようやく笑ってくださった)」
楓はずっと未桜の顔が曇っていたのを気にしていた。未桜は上手く隠していたが、楓は人の表情には敏感でどれだけ上手く隠していても気付く。
未桜が桐花家の正当な後継ぎであるにも関わらず、父親や義家族、使用人に門下生達にいじめられているのは桃志郎から聞かされていて知っていた。
未桜にあって一目で聞いていた内容よりも酷い事をされていたのだ気づいた。
何とか顔に出さずに普通に接するよう心がけた。
未桜の両頬は赤くなっており少し腫れていた。手はボロボロで切り傷が至るところにできていた。
未桜は上手く隠しているつもりかもしれないが、右足を引きずるように歩き左の脇腹を押さえながら歩いていた。
楓は無礼だと承知の上で霊力を使い未桜の体に何が起きているのか確認した。
ヒュッ。
楓の喉から音が鳴る。
「(こんなこと許されるはずがない)」
拳を強く握りしめ未桜に気づかれないよう必死で感情を押し殺す。
未桜の体はどうやって生活したらそんな体になるのかというくらいボロボロだった。
右足の打撲と左脇腹の骨にヒビがはいっているのはつい最近のだろう。
これだけでも相当痛いはずなのに、一切顔に出すことなく平然と振舞うその姿が痛々しく見ていられなかった。
泣きたいのを必死に我慢して楓は笑顔を絶やさず未桜に向けた。
未桜にとってこの程度の怪我は大したことはなかった。
今までに比べたらこの程度のことなんてことない。
楓は未桜に気づかれないようボソッと呪文唱え、これ以上怪我が悪化しないしようにし、桃志郎に未桜が怪我をしている事を伝えるよう式神を飛ばした。
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