門出
「本当にそうね。あの人もももう少し見ていけばいいのに。こんなに着飾った花嫁に嫁いでもらえるなんて幸せ者ね。お相手の方は」
末姫は寧々の言葉に同意し、未桜の格好を馬鹿にする。
代々桐花家の娘が相手の家に嫁ぎに行く時は、全体が白で金の桐の花が描かれた駕籠に乗り、全体の色が薄紫の着物を着ていく。
絵柄は娘の趣味で変わるが、色は決まっている。
そして、必ず桐の花の簪をつける。
そういう決まりがあったが、未桜の格好はそれとは程遠かった。
末姫の言葉は遠回しにお前の嫁ぎに行く時の格好はその程度で問題ないと言っていた。
「ええ、本当にその通りだわお母様。きっと泣いて喜びますわ。それに、似た物同士仲良くできるでしょう。近いうちに、町の人達からもお似合いの夫婦と言われるようになりますよ。きっと」
想像したら余りに面白くてついぷっと笑ってしまう。
「そうね」
寧々の言葉に同意し、末姫もぷっと馬鹿にしたように笑う。
二人が暫く未桜を馬鹿にして笑っていると、寧々が何かを思い出したのか「あっ、そういえば」と呟き、意地の悪い笑みを浮かべる。
「ねぇ、お義姉様。昨日、自分がおっしゃったこと覚えていらっしゃいますか」
ゆっくりと未桜に近づき、顔をグイッと前に出して言う。
「もちろんよ、寧々」
堂々と答えるその姿は、昨日の事を全く反省していないように見え、寧々を苛つかせた。
「それなら、よかった。お義姉様と会うのもこれで最後ね。悲しいわ。でも、ようやく結婚されると思うととても嬉しいわ」
未桜に抱きつき、心にも思ってもないことを言う。
未桜のボロボロの手を取り、爪を立てて握りしめる。
末姫は二人の手を見てフッと鼻で笑う。
寧々の美しい手とあかぎれや切り傷のあるボロボロの手。女性の手とは思えないほど未桜の手はここ数年でボロボロになっていた。
一目で二人の生活にどれだけ差があるのかがわかる。
「(あの女にもこの姿を見せてやりたかったわ。実の娘がどれだけ落ちぶれているのか)」
末姫は舞桜のことが憎くて憎くて仕方なかった。
自分の持っていないものを全て手にしていたから。
そんな女が唯一大切にしていた娘を奴隷のように扱うことで劣等感を埋めていた。
「お姉様、化け物との結婚生活応援しています。さっき、お父様がおっしゃったように、離縁してもこの家には戻ってこないでくださいね。お義姉様はもうこの家の一員ではないので」
漸く目障りだった未桜が消える。これからは、自分が本当の桐花家の娘として堂々とできる。
早く九条家の次期当主と若桜家の現当主の二人に会いたい。会って自分がどれ程いい女かを教えなければ。
この国に自分以上の女は存在しない、と。
東の牡丹、西の桃と呼ばれる美男子二人の隣を歩けるのは自分だけ。
この国の女性の誰もが羨む視線を自分に送り、憧れの女性へともうすぐ慣れる。
その光景を思い浮かべた寧々は顔がにやける。
最後にもう一度未桜の方を見て馬鹿にした笑みを浮かべてから屋敷へと戻っていく。
寧々がいなくなったことで末姫と二人っきりになる未桜。
「昨日のことは絶対に許さないから。小娘の分際で私に説教とは何様のつもりだい。絶対に地獄に落としてやるからね」
末姫は未桜に近づき、鬼のような目つきで睨みつけ肩に爪が食い込むほど強く掴む。
「(私が言ったことは何一つ貴方には届かなかったのね、残念だわ。このまま変わることがないのならば、最後に貴方の元に残るものは何もないのに)」
末姫に自分の言葉何一つ届かなかったのだと知り、哀れに思う。このまま変わらないのであれば最後は誰にも必要とされなくなるに。
これから起こり得るであろう末姫の最後が目に浮かび何とも言えない気持ちになる。
これ以上末姫に言っても無駄だと思い黙っている。
そんな態度の未桜が気にくわず、末姫は未桜の頬を叩いてやろうと手を振り上げる。
未桜は末姫が自分を叩こうとしているのに気づいたのに逃げる素振りすらせずに、ただ見つめ返した。
末姫は体が固まったように動けなくなる。
霊力の無い末姫でもわかる。
感じたこともない圧倒的な力を感じた。
その力が未桜の体から発せられている。
そのため、末姫は圧倒的な力を肌で感じて指一本動かせなくなる。
未桜が息を吐き目を閉じるまで末姫は動くことが出来ず、暫くはその体制で固まっていた。
末姫はただ未桜を睨みつけることしかできなかった。
体が動けるようなった瞬間、急いで屋敷の中へと逃げていく。
そんな末姫の姿を最後にみて、門を潜って外に出る。
門を潜ってからお世話になった屋敷に感謝の意を込めて一礼し別れの挨拶をする。
この屋敷で過ごした日々は未桜にとって、大切でかけがえのない幸せな思い出と辛く、苦しい、悲しい思い出がある。
二十五年間過ごしたこの屋敷に帰ってくることは二度とないが、せめてもの気持ちとして暫くの間、屋敷に向かって深く頭を下げていた。
「すみません。よろしくお願いします」
桐花家から少し離れた所で未桜が来るのをまっている担ぎ手の人達に声をかける。
これから、未桜が乗っていく籠は桐花家が所有しているものとは雲泥の差がある。
目の前の籠はボロボロでみた限り座り心地は最悪だ。
一応外から見えないようにはなっているが、桐花家の娘が嫁ぐのに乗るようなものではない。
担ぎ手の二人は桐花家の門下生達が依頼した者達。誰も未桜を運びたくはなかったので、わざわざ町の者に依頼した。
本来なら、桐花家の力で町を出たら移動するのだが、今回は異例なので担ぎ手の二人に霊力を使って肉体強化を施した。
そのおかげで、今から出ても早くて昼過ぎにはつく。
担ぎ手の二人は何故桐花家の門下生が自分達にそんな事を依頼するのか不審に思っていたが、大量の金を前払いとして渡されたので二つ返事で了承した。
二人にとっては大金でも、桐花家にとったら端金。大した損失にはならない。
その端金も未桜の為には使いたくないとさらに削りに削ったものだった。
「こちらこそよろしくお願いします」
二人は頭を少し下げる。
二人こらみた未桜の格好は自分達と大して変わらなかったが、大金を貰ったので一応礼儀正しくしようと心がける。
「あっ、どうぞ」
未桜が籠に乗りやすいように手をかす。
「ありがとうございます」
自分達のような人間にも優しく接する未桜に目を見張る。
門下生達ですら、自分達を見下していたのに。
今会ったばかりなのに、二人は何故か彼女には幸せになってほしいと思った。
「では、いきますね」
籠を持ち上げ走り出す。
結婚相手がいる若桜家がいる町はと向かう。
未桜は生まれ育った町からどんどん離れていくのが悲しいからなのか、涙が溢れ落ちる。
この町で過ごした幸せの日々が昨日の事のように思い出せる。
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