寧々の本音
寧々は自分はこんな風にはなりたくないなと未桜をみて改めて思う。
町に出るたび、自分に話しかけてくる平民達ですら本当は相手するのが嫌。
自分のような高貴な存在が下っ端のような存在と話すことはないと。
立場を弁えず自分の事を好きになる男共には嫌悪感を抱いた。自分の隣に立っていいのは自分と同等の価値を持った存在だけだと。
だか、これ以上に寧々には許せないことがあった。
下民がこの町に、自分と同じ町に住んでいるということ。
信近が下民達を追い出さないので、無理矢理追い出すことが寧々にはできなかった。何度かこの町から追い出すよう頼んだが信近は寧々の頼みを聞き入れてはくれなかった。
視界に下民が入るのが許せない。
目が合うなんてもっと許せない。
何故だかわからないが、とにかく嫌いだった。
そんな嫌いな存在と殺したいほど嫌いな未桜が、これから結婚すると思うと嬉しくて嬉しくて泣きそうになった。
いかにも自分は特別な存在だというような顔をして、ずっと桐花家に居座り、立場を弁えず自分達に意見を言う。
ずっと目障りで死んで欲しいと思っていた未桜が、化け物と結婚する。
それを知ったときどれほど幸せだったか。
ーーそう、そうなの。あんたには化け物がお似合いよ。あんたにはその程度の男がお似合いなのよ。
自分と未桜は違う。勝ち誇った笑みを浮かべた。
寧々はこれまでどれだけ未桜から大切な物を奪ったのか数えきれないほどある。
桐花家に来てそうそう未桜が大切にしていた簪を奪った。
使用人が「それは未桜様の物だ。返せ」と怒鳴ったら簪を地面に叩きつけ踏み付け壊した。
それだけでなく、綺麗な着物は自分が着るのと言って奪っていった。気に入らないものでも高価な物だったら、未桜が着るくらいだったらと燃やして灰にした。
どれだけ未桜を傷つけても信近も末姫も自分を怒らなかった。寧ろ良くやったと褒めてくれた。
使用人達や桐花家に仕えている陰陽師達は寧々に怒りを露わにしたが、信近が力を使ってその度に黙らせた。
その時寧々は知った。いや、理解した。
自分は何をしても許される存在なのだと。
自分は特別な人間なのだと。
その日から寧々は未桜にたいする嫌がらせを毎日した。
まず、最初に未桜の物全て奪い自分の物として使っていった。
広い自室から追い出し、汚い物小屋に追いやり使用人として働かせた。
新しく桐花家の使用人になった者達に命じて未桜を痛めさせた。
その際、最初からいた何人かの使用人達は未桜を助けようとして死んだが自分がやったわけではないと大して気にもしなかった。
他にも町の人達が何人か死んだが立場を弁えないからそうなったと冷めた目で死体を眺めていた。
その中でも唯一今でも覚えている者が一人いる。
今思い出しても笑ってしまう。
昔、未桜に助けられた何かでお礼にと野菜を持ってきた薄汚い下民の子がいた。
こんな汚い少年にまで好かれているのかと同時は馬鹿にしたのを覚えている。
少年が作った野菜はどれも形が悪く人が食べれるような物ではなかった。
これは食べ物ではなくごみだと言って使用人が踏み潰した。
野菜を踏み付けられた少年は怒って使用人達に飛び掛かったが、逆にボコボコにされ瀕死の状態で森に捨てられた。
その事を未桜に伝えると、急いで森にいき少年を捜した。
だが、少年は見つかることはなかった。
その森には狼が住んでいたので食べられたのだろう。
未桜は泣き崩れ「ごめんなさい」と涙と喉が枯れ果てるまでずっと謝り続けていた。
少年は未桜のせいで死んだ。
未桜はこれ以上自分のせいで人が死ぬのは嫌だと思ったのか、これまで桐花家に仕えていた全ての人を町から追い出した。
一人、桐花家に残った未桜にはもう何もない。
全てを奪い、全てを手に入れた。
寧々がまだ手に入れていないのはただ一つだけ。
伴侶。
こればかりは簡単には決められない。
悩みに悩んでついに伴侶の相手を決めた寧々はすぐに相手に結婚を申し込んだが、断られた。
普通なら桐花家からの結婚の申し出を断るなど有り得ない。今は信近が当主なので即処刑になってもおかしくはない。
だが、相手は桐花家と同等の力を持つ九条家。
断られても信近は何もできない。
寧ろしたくてもできない。
信近と九条家現当主では格が違いすぎる。
信近は代理当主。本来なら当主の座に座ることもできない人間。
寧々は信近に何度もお願いをしたが、こればっかりはどうしようもできなかった。
寧々は九条家の次期当主以外と結婚する気はなかった。
自分の隣に立っていいのは彼だけだと。
自分は未桜とは違い、最高の男と結婚できる権利があるとそう思っている。
早く結婚したいとは思っているけど、中々承諾してもらえなかった。
寧々が九条家の次期当主と結婚したがったのには理由があった。
寧々は今は桐花家の性を名乗ってはいるが、正統は血筋ではない。
だが、次期当主と結婚できれば寧々は当主の妻という肩書きを手に入れることができる。
それに、桐花家という名を借りずに未桜の上に立つことができる。
もう、誰の目も気にすることなく本当の地位を手にすることができる。
だか、最近になって九条家でなくてもいいかと考えている。
半年前に桐花家と九条家に並ぶ地位を手に入れた若桜家の当主が結婚相手でもいいかもしれないと。
今、若桜家当主、若桜桃志郎はこの国の女性のほとんどが結婚したいと思っている男だ。
そんな男と結婚したら、女性達の憧れの的になれる。
女性としての価値が上がる。
そう考えて桃志郎に結婚の申し出をするか悩んでいた。
未桜が化け物と結婚するから、若桜家との繋がりはできたが、今すぐ申し込むのは早いし、一応寧々は九条家の倅に夢中だということになっている。
もう少し若桜家と繋がりを強くしてから申し込んだ方が民衆への印象がいいだろうと。
取り敢えずいつ会ってもいいように着飾る。
あわよくば、このの美しい姿を見て向こうから結婚を申し込んでくれないかと期待する。
近いうちに若桜桃志郎と会うことになるだろうから、その時に結婚をほのめかすのもいいかもしれない。
そのためにも、未桜には化け物との結婚生活を一日でも長くしてもらわないといけない。
期待など少しもしていないが、この結婚で両家の繋がりを強くすることはできる。
目障りで使えない女だと思っていた未桜がこんなとこで役に立つとは思わず、殺さなくて本当に良かったと心の底から寧々は思った。
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