表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜姫の寵愛  作者: 知恵紅葉
34/44

最後の会話

チュン、チュン。


鳥の鳴き声が聞こえ、もう朝かと目を覚ます。


今日は二十五年間住んだ家を出て行き、結婚相手の所へと嫁ぐ日。


昨日急にその事を言われ戸惑ったが、受け入れるしかなかった。


幸い未桜の私物はほとんど無いので準備はすぐ終わった。


早く着替えないとと布団を片付けようとしたら、桜の花びらが数枚畳の上に落ちていることに気づく。


「ん?どうして桜の花びらが?」


戸は閉まっているしどこから入ってきたのかと部屋中を見渡し確認する。


戸以外から桜の花びらが入ってこれるような隙間は無いし、戸は閉まっているのにどうやって入ってきたのかと首を傾げる。


自分がいるここは桐花家の中でもっとま薄汚いところ。誰も近寄りたがらない。そんな場所だから、誰かが訪ねてくることはないと考え、昨日の夜自分に数枚くっついていたのが部屋に入って落ちたのだろうと無理矢理自分を納得させた。


それより、早く着替えて出発の準備をしなければと頭を切り替える。



「できた。大丈夫よね?」


おかしい所はないか全身くまなく確認をする。


桐花家の娘が嫁ぐときにするような格好ではないが、これが今未桜ができる精一杯の着飾りだった。


未桜の格好は平民が嫁ぐときよりも酷い。


着物は持っている中で一番綺麗なものだが、赤紫色と嫁ぐときに着るよう色ではないし、髪飾りは一つもつけていない。髪紐でまとめているだけ。


化粧も一切していない。そもそも化粧道具すら未桜は一つも持っていない。


女の身支度には時間が掛かるというが、未桜の場合は男よりも早く済んでしまう。


そろそろ、行くかと部屋から出る。


もう、二度この部屋に来ることはないのだろうと少し寂しくなる。


部屋から一歩出で深く頭を下げる。


「お世話になりました」



ああ、この道もこの景色も今日で最後になるのか。


一歩、一歩、力強く歩く。そうしないと震えている足ではこけそうになる。


そんな見苦しい姿を最後に晒すわけにはいかない。


門下生や使用人達は未桜の歩く姿を見てめをはなせなくなる。


最後だから、馬鹿にしてやろうと待ち構えていたのに、今自分達が見ているのは本当にいつも虐めていたあの女なのかと。


その歩く姿は美しく堂々としていた。


こういう人を当主というのだろうか。


信近に今まで感じたことない威厳が未桜から感じた。



門までいくと、その前に信近、寧々、末姫が近づいていく未桜を睨むように見ている。


未桜が三人の前まで行き立ち止まると、信近が一歩前にでて見下すような目を向ける。


「父上。今までお世話になりました」


その言葉には決別の意味が込められていた。


未桜は信近に深く頭を下げる。


頭を上げ信近を捉える瞳は力強く希望に満ち溢れていた。


未桜のそんな瞳が舞桜と一瞬重なり、奥歯を噛みしめ怒りを抑える。


今日は流石に手を上げるわけにはいかない。


もしかしたら、若桜桃志郎と未桜が会うかもしれないと我慢をする。


深く息を吐き気持ちを落ち着かせ未桜に話しかける。


「未桜。この結婚は若桜家に恩をうる絶好の機会だ。失敗は許されないと思え。いいな」


まるで、それ以外に未桜の使い道がないみたいな言い方をする。


「はい」


傷ついた素振りすら見せずに未桜は返事をする。


そんな未桜の態度が余計に信近を苛つかせる。


これが最後の会話になるだろうと未桜はなんとなくわかっていた。そして、もう二度会うこともないだろうと。


今日この屋敷を出た瞬間、親子の縁は切れる。


こんな会話が最後とは自分達らしいなと思いつつ、最後まで分かり合えることはなかったと寂しく感じる。


そんな未桜の心境など気にすることなく信近は自分の話を続ける。


「嫁ぐからには誠心誠意相手の方に尽くしなさい。万が一、失敗して相手に離縁をされてもこの家に帰って来ることは許さん。そんな、恥知らずはこの屋敷に入る資格はない。わかっているな。路頭に迷いたくなければ、離縁されぬよう努めるのだ。よいな」


そう言うと信近はさっさとこの場から去っていく。


信近の後ろ姿を眺めながら、やっぱり自分は信近にとって家同士の繋がりを強くする為の道具以外使い道がない人間なのだと改めて思い知らされた。


信近の言葉や行動一つでもう傷つくことなどないと思っていたが、目の前で冷たい瞳を向けられただけで胸が締め付けられた。


娘としてたった一度でよかったらから愛されたかったのだと気づいた。


今更気づいたところで、もう無理な話だけどと笑うに笑えず泣くに泣けない変な表情をする。


「あらあら、お父様ったら。お義姉様の返事も聞かずに戻られるなんて。せっかくお義姉様が着飾ってらっしゃるのだからもう少しご覧になられればよいのに」


フフッと未桜を下から上までじっくり見て笑う。


着飾ってらっしゃる。


この言葉がこれほど嫌味に聞こえるなんて、この先一生ないだろうと未桜はどこか他人事のように感じている。


誰がどう見たって自分より寧々の方が着飾っている。


今から嫁ぎに行くと言われても未桜と寧々が並んでいたら、誰だって寧々が嫁ぐのだろうと思う。


それほど、二人の格好には差がありすぎる。


感想、レビュー、ブクマ、評価、よかったらお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ