表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜姫の寵愛  作者: 知恵紅葉
33/44

妖力の陣

「このまま、あの娘を生かしておいていいのだろうか。今日殺しておくべきではないか。どこまで知ってるのかわからないけど、もしあの事まで気付かれていたら、私がこれまでしてきた事全てが無駄になってしまう」


皆が寝静まると包丁を手に持ち末姫は未桜の部屋へと向かう。


ユラユラとおぼつかない足取りで、その姿はまるで現世に未練がある幽霊みたいだった。


「(殺す。殺してやる。あの女だって殺せたんだ。力もないただの小娘なんて造作もない。私の邪魔をする者は全員死ねばいいのよ)」


不気味な笑みを浮かべ未桜の部屋の戸を開け中へと入っていく。


音を立てないよう、ゆっくり、ゆっくり、と慎重に寝ている未桜に近づく。


未桜が寝ているのを確認する。未桜の顔を見ると、少し前未桜に言われたことを思い出した。



「末姫さん。何故父上と結婚したのですか」


あの後、何も言わずに部屋から出て行こうとすると未桜にそう聞かれた。


未桜の瞳は「貴方は本当は父上を愛していないでしょう」とそう問いかけられている気がした。


「お前には関係ない」


確信をつかれ言葉遣いが汚くなる。


いつ気づいた。何故気付かれた。どこまで気づいているのか。


信近にも気付かれているのか。


全てが無駄に終わるのではと不安が末姫を襲う。


落ち着け。落ち着け。


暫く蹲り自分に言い聞かせる。


「(きっと信近は気づいていない。私の演技がそう簡単にあの男に気づかれるはずがない)」


念のため信近に会いにいき気付かれているか確認する。


いつもと変わらない馬鹿みたいに自分を求めてきて「愛している」と囁く。


心の中では「気持ち悪い」と暴言を吐き続けるが、「私もよ」と信近を喜ばせるために言う。


信近がさっさと寝ると塵を見るよう冷たい瞳で見てから部屋を出て行く。



ここにくる前の信近との性行為を思い出し全身の鳥肌が立った。


「貴方が死ぬのは余計なことに気づいたからよ。弱い自分も守ることができないくせに、立場を弁えずに出しゃばるから死ぬことになるのよ。精々あの世で自分の行いを悔やむのね」


末姫は未桜を殺そうと包丁を思いっきり振り下ろす。


だが、包丁は未桜に刺さる寸前で止まる。


どんなに力を込めても二つの陣によって未桜を殺すことはできなかった。


「何よ、これ。どうなってるのよ!」


何回も包丁で陣を壊そうとするが、強力な陣を霊力を持たない末姫が壊せるはずなどなかった。


未桜を守る陣は一つは黄金の光を放ち、もう一つは赤黒い禍々しい光を放っている。


黄金の陣。これは歴代当主達が未桜を守るためにはられた結界だ。


誰であろうと未桜を殺そうとする者から守る陣。


今まで未桜が妖魔に襲われても死ななかったのはこの陣のお陰だった。


赤黒い陣。これは、霊力ではなく妖力によってつくられた陣。この陣も黄金の陣と同じく未桜を守る為にはられた結界。


末姫は二つの陣の内赤黒い方を見てとてつもない恐怖を感じた。どこかで感じたことがある。つい最近この感じを体験した。


暫くしてその感じが妖魔達が襲撃しにきたときのものと一緒だと思い出した。


「妖魔がどうしてこの小娘を守るのよ。そもそも、何で妖魔と…」


そこまで言うとハッとしてニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


「妖魔の襲撃と小娘を守る妖魔。これは使える」


いい事を思いついた。


未桜を殺すことができないのなら、自殺させればいい。


自分の手を汚さずに未桜を始末できる事実に喜びを隠しきれない。


未桜が何故妖魔に守られているのかはわからないが、この陣さえ見せれば未桜が妖魔と繋がっているという証拠になる。その証拠で妖魔がこの町に襲ってきたのは未桜の指示だと自分が言えば信近は信じるだろう。


そうなれば、未桜が何を言っても無駄だ。


実の娘だろうと常日頃下民として扱っているし、娘として扱っていない。きっと喜んで殺してくれるだろう。


未桜が何をしても待つのは死。


未桜が死ぬのを想像すると末姫はつい笑ってしまう。


急いでこの事を信近に伝えようと部屋から出ようとした瞬間、陣から目を逸らした瞬間、妖力の陣から物凄い速さで妖力の矢が末姫の体を貫いた。


末姫は自分に何が起きたのか理解することもなく、その場に倒れ気を失った。


陣が妖しく光ると末姫の周りも同じく光り、一瞬でどこかに飛ばした。


開いたままの戸から桜の花が数枚入ってくる。




「末姫様!」


使用人の一人が廊下で倒れている末姫を見つめ駆け寄り状態を確認する。


「末姫様、末姫様」


末姫の名を呼び続ける。


「ん?何事?」


使用人に無理矢理起こされ不機嫌になる。


「末姫様。大丈夫ですか?」


「(大丈夫な訳あるか。いきなり叩き起こされてお前は何様のつもりか)」


そう言いたいのをグッと抑えて「こんな朝早くにどうしたの?」と尋ねる。


「えっ」


使用人が驚いて恐る恐る末姫に尋ねる。


「あの、末姫様がここで倒れられていたので…」


使用人の言葉を聞いて漸く自分が廊下にいることに気づく。


「どうして私こんなところにいたのかしら」


信近と一緒に部屋にいたところまでの記憶はあるが、それ以降の記憶がない。


思い出そうとするが、何一つ思い出すことができない。すっぽりと抜け落ちたかのような変な気分になる。


「大丈夫ですか。医者をお呼びしますか」


医者を呼ぶべきか悩む使用人。もし、末姫に何かあったら自分は信近にどんな事をされるのかと怖くなる。


「いや、いい。それよりお願いがあるんだけど、私がここで倒れていたこと誰にも言わないで欲しいの」


何となく誰の耳にもいれない方がいいような気がする。


自分が何かよからぬ事をしようとしていたような。


「ですが、もし何かあったら」


使用人は心の中ではホッとしたが、顔に出してはいけないと一応心配そうな振りをする。


「大丈夫。後で医者に念のため診てもらうから」


「わかりました」


末姫は使用人にもう大丈夫だからといって早く仕事に戻るように言う。


使用人がいなくなるのを確認すると、床に目線を落とし「何か大事な事を忘れている気がする」と呟く。


感想、レビュー、ブクマ、評価、よかったらお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ