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平凡なヒロインですみません (改訂・休止中)  作者: アキヨシ
第三章(聖女編)

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10.そのあとで。②

9話「そのあとで。」を投降後、長いため2話に別け加筆しました。

未読の方は「そのあとで。①」からお読みください。

 飛行訓練で襲撃を受けて寮に戻ったあと、ビアンカ様がわたしの部屋を訪れた。


「今夜はアリスと一緒にいた方がいいというの。わたくしもその方が安心ですし、お邪魔してもよろしくて?」


「歓迎します、ビアンカ様!」


 1人にしておくのが心配だったから、わたしは嬉しい。

 エイダさんはどうだろうと伺うと、微笑んで頷き返してくれた。


()()はお聞きしております。ようこそ、サザーランド様」


 ビアンカ様は侍女さんとメイドさん一人ずつと、護衛騎士のリンダさんを伴ってきた。

 既に準備されていた食事も運ばれてきて、わたしの部屋で遅い晩ご飯を食べた。

 あの秘密の通路が大活躍して、使用人さんたちが行ったり来たり。何しろ引っ越して間もないから、色々調度品が揃ってないのだ。

 あらかた用事が済んだ後、きっちりドアを封じた。

 今夜は用心して、全ての出入り口を封じる魔法を掛けていく。普段は鍵の開け閉めがゆるい、使用人さんたちが使う廊下に通じるドアも封じた。

 これらはカイエン先生の指示なんだって、ダリアさんが教えてくれた。

 交代でお風呂を使い、寝支度を整えた頃、ゲストルームからビアンカ様がわたしの私室を訪れた。


「もう少し、お話しない?」


「いいですよ。【パジャマパーティ】ですね」


 ニコニコしてたら、ビアンカ様が呆れ混じりにもほっと息を吐く。

 まだ部屋着のビアンカ様は、用意された椅子に座る。わたしは早々と寝間着姿だったけど、ガウンを羽織って備え付けの椅子を引き寄せて座った。


「では、お嬢様方、ホットミルクなどお持ち致しましょう」


 ダリアさんの提案に、喜んで頷く。

 厨房には、明日の食事の準備で、ハンナさんが色々持ち込んでいて、朝食の準備もある為、こちらの使用人さん部屋に泊っている。

 護衛騎士のユーイさんや他の使用人さん達は、まだビアンカ様の部屋にいるのかしら。


「気を悪くしないで欲しいのだけど、あまりに殺風景で落ち着かなくて」


「ああ、すみません。まだ色々手が回らなくて。特にゲストルームは後回しでした」


 泊まりに来るような人もいないし、という事で、掃除以外手が入っていなかった。

 部屋の調度品は、日常的に使うものが揃っていればいいや、という庶民感覚のわたしに対し、周囲が色々準備してくれている。


 それから事件には触れず、たわいない事を話し合った。さすがに眠くなった頃、ちょっと勇気を振り絞って、一緒のベッドを使わないかと提案してみた。今日は特別で、ビアンカ様を一人にするのが心配だったのだ。ゲストルームが殺風景でもあるしね。

 難色を示した侍女・メイドチームに対し、護衛騎士チームは賛成してくれた。

 肝心のビアンカ様は少しためらった後、一緒がいいと言ってくれたので、結局わたしの寝室で眠ることになった。

 子供のお泊り会気分です。ベッドでゴロゴロ……はしないみたいですが。

 眠るために明かりを消そうとした時、近くでドォンという音がして、ビリビリとした振動が伝わってきた。


「まさか、隣の部屋!?」


 わたしたちは顔を見合わせ、ベッドから飛び出し、寝室を出ようとしたところで護衛騎士たちに止められた。


「部屋に居て下さい! 我々が状況を確認しますので」


「でも、ユーイは? 他にも残っている者たちが……」


 ビアンカ様の心配はもっともだ。


「ご安心ください。工作を行った後避難していますから」


 工作?


「人がいる()()をしたんです。隣の部屋は無人です。カイエン卿の指示で」


 おー、カイエン先生、何をどこまで予想していたんだ!?

 そしたら、そのカイエン先生から伝書鳥が飛んできた。


『アリス、ビアンカ嬢、無事かい?』


「はい、皆無事です。先生はどこにいるんですか?」


 返事はすぐ来た。


『エントランスにいる。アリス、寮監の許可は得たから、僕と警備兵に入室許可をくれ』


「分かりました」


 声音から焦っているように感じたので、シリンさんを共にしてすぐ対応した。入退室の魔法陣は玄関にあるのよ。

 寮の最上階へは昇降の魔法陣を通して出入りする。しかも魔法陣はその部屋直通で、登録した者しか行き来できない仕組みだから、お客様は部屋の主が都度招くのだ。

 シリンさんとイリアさんが剣を抜き身構える中、わたしは魔石に手を載せ、カイエン先生と警備兵を招くと、すかさず後ろに下がった。


 間もなく玄関ホールに複数の人影が現れ、確かにカイエン先生と警備兵3人だった。玄関に入ったとたん護衛騎士に剣を突き付けられ、警備兵がぎょっとしている。


「(警備兵が)3人だけですか?」


 イリアさんが尋ねると、カイエン先生が首を振る。


「他は使用人通路側に回ってるよ」


 頷き合う護衛騎士たち。もしかして、色々打ち合わせしてたんですか?


「アリス、その扉を開けてくれないか。でも決して中に入らないようにね」


 カイエン先生が示したのは、例の秘密の通路。知ってるんですね、隣と繋がっているって。

 後で尋ねてみたら、この通路の提案はカイエン先生だったんだって。しかも魔石設置もしたというんだから、もう先生が有能過ぎてびっくりだ!


 わたしは扉の影になる位置から取ってを握って、先生に目配せしてからドアを開けた。

 先頭のカイエン先生はビアンカ様の部屋を見渡し、前後左右上下と念入りに確認してから警備兵と共に踏み込んで行く。

 すぐにドアが閉められたので、中がどんな風になっているのか、今彼らが何をしているのか分からなくて、ビアンカ様と2人手を取り合い、じっと待つしかなかった。


 しばらくして、伝書鳥がカイエン先生の声で『ドアを開けて欲しい』と伝えてきたので開くと、部屋の中にカイエン先生と一緒にシリウス様がいて、こんな時だけど「あれ?ここ女子寮だよね?」と自身に確認してしまったよ。

 シリウス様はわたしたちの無事な姿を見て、ほっとしたように少し目元を和らげた。


「僕とシリウス君で、罠系の魔法が残されていないか3回確認したので大丈夫だ。爆破が起こったのは厨房で、近くに位置する使用人部屋も被害があった。無人にしておいて良かったよ」


 厨房と聞いて様子を覗っていたハンナさんが飛び出してきた。彼女の城は滅茶苦茶になってしまっていた。がっくりとその場に膝を着くハンナさん。


「被害らしい被害はそこだけで、侵入者がいた痕跡はない。厨房で『炎』と『風』の魔法が発動したのは魔石によるものだ。下働きの者が頼まれて()()()()()()()()だと証言している。――ということで、これも”脅し“が目的だったのではないかな」


 部屋の主に被害がない場所への攻撃。

 でも、もしも使用人さんたちが避難していなければ? そう考えると震えが走る。

 今回は先生が万が一を想定して、全員避難させたから良かったけどね。


 しかし腑に落ちない。魔石を置いただけでは魔法は発動しないはず。つまり時限装置付きってこと?

 そういう魔法を知らないのでカイエン先生に訊いたら、あるんだって。高度な魔法になるらしい。そんなモノを用意したのは誰? 飛行訓練を襲撃した犯人?


 ぐるぐるとそんな事を考えていたら、ビアンカ様が不安げな眼差しで、あちこちの部屋を見て回っている様子が目に入った。

 誰かに攻撃を受けた部屋は、もう安心して寛げる場所ではなくなったんじゃないかな。それなのに――


「カイエン先生、シリウス様、お手数をおかけいたしました」


 微笑むビアンカ様が無理をしているように感じて、そっと左手を軽く握ると、しっかりと握り返された。

 くっそう! 犯人許すまじ!!




 改めて夜間訓練の襲撃犯が誰なのか教えてもらったけど、よく分からなくて首を傾げてしまった。


「その結果、どんな事が我が身に起きるのかを、全く理解されていなかったのかしら」


 ビアンカ様も眉を顰めている。


「彼らの思考回路は実に単純明快。『好きな人が困っている、じゃあやっつけよう』という一体何歳児なんだと疑うくらい短絡的な理由だったよ。2人とも曲がりなりにも生徒会役員だというから、学生のレベル低下を外部に知らしめてしまった訳だ」


 ああ、うん、そうよね。マーガレット先輩は、他国の王子たちがいる前でわたしを罵倒していたし。あれって自分を下げているだけじゃなく、この国の学生として恥ずかしい行いだと気づいていなかったよね。


「そこで、あの2人に高度な魔法が扱えたか疑問が残るんだよ」


「チャールズは計算もろくに出来ないから無理だろうし、マーガレット嬢に至っては、属性が『水』と『土』でそもそも扱えない」


 わたしの部屋で、しれっとお茶を飲んでいるシリウス様が言う。

 いいんですか、ここ女子寮だけど。まぁ行きがかり上というか、どさくさ紛れというか?


「背後関係は”特務“が調べてるだろう。それに今回は”法務局“の局長が出張っているからね。どういうシナリオで落着させるんだか。事実と真実は異なる結果になるかもしれないな」


 後半は独り言のように呟いた先生は、表情を穏やかに改める。

 ふとした拍子に、ブラック・カイエンが顔を覗かせているの、自覚していたんだろう。


「君たちは少しでも寝ておいた方がいいよ。もしかしたら、1日部屋に待機させられるかもしれないけどね」


「その前に、ビアンカ様のお部屋を直してもいいですか?」


 回復魔法【復元】で部屋を修理出来るのだ。実家で実証済みなのは、カイエン先生も知っている通り。

 でも、ビアンカ様とシリウス様は、意味が分からないような顔をこちらに向ける。


「まだ調査しているようだから、後でね」


「はぁい」


「ちょっとお待ちになって! 『お部屋を直す』とは魔法でですの!?」


 驚くビアンカ様に頷いた。


「回復魔法です。半壊した実家も復元出来ましたので、やれると思います」


「……そう、ですの」


 唖然と呟くビアンカ様の隣で、シリウス様がそっと「非常識な」とため息混じりに言ったの、聞こえているからね!



※【 】で囲われている部分は日本語発音です。

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