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平凡なヒロインですみません (改訂・休止中)  作者: アキヨシ
第三章(聖女編)

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11.閑話休題:ビアンカ嬢の休日

襲撃を受けた翌日のお話。ビアンカ嬢視点です。

 目が覚めたら、見知らぬ天蓋を不思議に思いましたわ。

 まだ寝ぼけているのね、と頭を動かしてみたら、記憶にないカーテンに掛け布団、ここまではまだいいの。

 隣に誰か寝ているのよ!

 誰よ、このピンク頭は!


 ――え? 待って?


 ピンクと言えばアリスよね。アリスなら大丈夫ですわ。

 でも、枕から落ちた、ピンクのつむじが目の前にあるのは、どういう事かしら?

 何故同じベッドで寝ているの?

 添い寝をされたのなんて、もっと小さい頃に乳母にされたくらいよ。


 つむじを見つめながら、まだ覚醒しきらない頭で思い返してみたの。

 そうそう、わたくしの部屋では安全に過ごせないから、アリスの部屋にお邪魔しているのだったわ。


 襲撃を受けたのよ。しかも時間差で2度も。


 わたくし個人への恨み?

 それともサザーランド公爵家の者としてかしら。

 お父様の政敵からの警告?

 そんな政治的な詳しい事情は分からないわ。


 わたくし、どうなるのかしら。

 安全なはずの寮内で襲撃を受けたのですもの。

 今後どんな波紋を生むのでしょうね。


 ああ、朝から嫌な気分ですわ。

 それなのにどうしてこの子はまだ寝ているのかしら。

 分かってますわ、八つ当たりだって。


 そっと掛け布団をはぐって見てみたら、あら、可愛い、胎児のポーズで寝てますわ。

 そういえば、昨夜は寝入るのが遅かったものね。もう少し寝かせてあげましょうか。

 朝はまだ少し肌寒いし、掛け布団は必要ね。


 でも、こうしてぼぉっとしていると要らない事ばかり考えてしまうわ。

 最近嫌な事が多いもの。

 アリスがいない間、少し……寂しかったわ。

 嫌だわ、こんな弱気になるなんて。

 いつの間にか、アリスが傍にいる事で慰められていたのね。

 今のうちにお礼をしておこうかしら。起きている時は恥ずかしいもの。


 ――ありがとう、アリス。


 つい頭を撫でてしまったわ。

 けれど……なにかしら、すごく触り心地がいいの。

 髪がサラツヤでなめらかで。


 はっ!まさか、皆さまこの触り心地がよくて撫でているのかしら。

 肉親や親族ならまだしも、カイエン先生やピエール様まで撫でているわ。

 そういえば、いち早くヘンリー様が撫でていたじゃないの。


 もう、どういう事かしら。手が止まらないわ!

 このままではアリスが目を覚ましてしまう。


「あにゃ?……あ……れぇ……ふへへ、おはよー……びにゃんかさま」


 いつもポケポケしているのに、更にぼけぼけっとした声に、焦って手を引っ込めようとしたのに、不覚にも手を掴まれてしまいましたわ!


「何を起きてらっしゃるの!」


 盛大に八つ当たり。分かっておりますの。

 でも、アリスは寝ぼけたままもぞもぞ体の位置を変え、わたくしに手を伸ばしてきたわ。


「なでなで~」


 ふにゃふにゃ笑ってわたくしを撫でてくる子供の手。

 とっても優しく何度も撫でるのよ。

 頭を撫でられるのっていつ以来かしら。


 ああ、嫌な気分が癒されていきますわ。

 もう少し、このままでもいいかしら。侍女のメリーが起こしに来るまでは。




 ◆◇◆




 襲撃事件の翌日、一日待機の日の午後、お兄様がいらっしゃった。

 そうよね、来ますわよね、わたくし、利用価値のある妹ですもの。

 寮の1階エントランスの隣、面会室で対面ですわ。


 わたくしより8歳年上のお兄様は、王都でお父様の代行をしておいでだからお忙しいでしょうに。

 それにしても、だしぬけに何をおっしゃるのかしら。


「休学!?」


「当然でしょう。外でも寮でも襲われたというのに、安全が確保出来るまでは邸で厳重に守られていなさい。父上も母上も心配していますよ。おまえは特別な子なのだから」


 わたくしと同じ金髪にサファイアブルーの瞳を持つお兄様は、容姿が中性的で成人男子とは思えないほどほっそりとしているの。

 長く伸ばした柔らかく波打つ髪も相まって、美しい微笑みを向けられたとある伯爵様がうっかり傾倒なさっとかなんとか。

 見てくれだけはわたくしより優し気に見えるでしょうし、社交界では性別を問わないファンがいるのですって。


「でも、お兄様、寮も厳重に出入りを管理することになりましたし、わたくし自身も保護魔法を強化しますわ。学園外への外出も控えますし、何よりも、ここで引き下がっては負けを認めるようなものですわ!」


「勝ち負けの問題ではなく、おまえの安全が第一ですよ」


 困った妹を心配して下さる、そんなお顔ですわね。


「それならば、護衛騎士を増やしてくださいませ。寮のお部屋も修繕しましたし、お隣には聖女がいらっしゃるのだもの。一緒にいる方が安心しますわ」


「下働きの者が唆されて犯行に手を貸したそうですね。そんな環境には置いておけません」


「身上調査は念入りにされていたのでしょう? 寮で働く者も、邸で働く者も同じく厳重に。それでも人情というものは制御するのが難しいですわ。ですから邸に帰っても絶対安全などというものはございません」


「強情ですね」


 深い溜息を吐くお兄様は、わたくしから視線を外したあと、すぐにまた真っすぐ見据えて微笑みを浮かべたわ。

 わたくし、その微笑みが胡散臭い事を承知していましてよ。


「それほど言うのなら、どれだけ安全性が高いか、わたしに見せてくれますね? 寮監の許可は既に得ています。部屋を修繕したと言ってましたが、昨日の今日でどれほど手が入れられるというのでしょうか」


 言うと思いましたわ。

 ふふふ、『復元』は午前中に終わってますの。どうぞご覧あそばせ!

 どうせなら、あの『復元』の様子自体を見せて差し上げたかったくらいでしてよ。


「…………どこが爆破されたのですか?」


 ふふふふふ、思った通りの反応ですわ。開いた口が塞がらないでしょう?


「本当に被害があったのですか?」


 まぁ、そう思う気持ちは分かりますけれど、襲撃後の状態を見ていない方には、爆破があったことさえ疑問に思って当然の復元化ですわ。


「ええ、ですからお兄様がお見舞いにいらっしゃったのでしょう? 爆破があったのは厨房ですわ。その隣の使用人部屋も半壊しましたの。昨夜はさすがに皆ショックで呆然としておりました」


 一通り部屋を見て回り、問題の使用人通路も念入りに確認しているお兄様。

 仕事の効率化の為、使用人が利用する廊下やドアは、鍵が開いたままになることも多かったそうなの。だから今度から、寮の裏口に警備兵が常駐し、出入りを厳しくチェックする上、時間制限を設け、夕刻には閉鎖してしまうのですって。

 使用人通路から中へは、内側から開けないと入れない仕組みに作り替えたわ。まぁつまり、ドアの外側のドアノブを取り払ってしまったの。

 さらに荷物搬入のチェックを厳しくするのは当然ね。だからこそ護衛騎士の増員依頼ですわ。


「このドアの先は?」


 ついに秘密の通路に辿り着いたわね。目くらましの魔法で見えなくしておくことも可能でしたけど、今回はお兄様に全てお見せするつもりよ。


「お隣の方のお部屋ですわ。こちらからは、わたくしだけが開けることが出来ますの」


「隣の住人ですか?」


 頷いて、伝書鳥を飛ばしたわ。すぐに了解の言葉が返って来て、お兄様がドアノブさえ回せなかったドアを、わたくしが開けて見せる。

 アリスには兄が訪問してきた時点で、寮を案内する事を伝えておいたわ。

 それでもびっくりした顔をしているのは、お兄様の外見のせいですわよね?


「アリス、紹介しますわ。サザーランド公爵の嫡男でわたくしの兄、マクシミリアンです」


 あら? お兄様が部屋に入ってらっしゃらない。

 透明な膜に行く手を遮られているみたいね。ないはずの壁に、ペタペタ手を這わせるパントマイム状態をもう少し眺めていたい気もするけれど、後が怖いから早々にお願いしなくては。


「アリス、お兄様も入れて下さる?」


 アリスがはっとして、すぐに防御壁を解除したわ。

 わたくしはすんなり入れたのだから、アリスの防御壁は融通が利くようね。

 目を瞬いているお兄様は、部屋の中を不躾にならない程度に見回している。やはり質素よね。


「お兄様、こちらがお隣の住人で、同級生のアリス・ロイド様です。ご存じでしょうけれど、先日聖女と認められた王家筋の方ですわ」


 御三家会議の当主代理はお兄様でしたもの。


「お初にお目にかかります、ロイド伯爵の娘、アリスでございます。ビアンカ様には大変良くして頂いております」


 今日のアリスは、淡い水色のワンピースで、スカートを摘まんできれいに淑女の礼をしている。


「ああ、貴女が。お目にかかれて光栄です、アリス・ロイド様。この王都でサザーランド公爵代行を務めておりますマクシミリアンです」


 まあ! お兄様が片膝を付いて、アリスの手を取って唇を落としているわ。

 あらあら、あのクセモノの微笑みを浮かべている。アリスは大丈夫かしら。

 ……引きつっているわ。その目は、助けを求めているのね?


「お兄様、アリスはそういったことに慣れておりませんの。もう手を離して差し上げて」


「これは失礼しました」


 更に笑みを深くするお兄様。しっかり値踏みをしていますわね?


「こちらこそ、礼儀知らずで申し訳ございません」


 さすがイケメン拒否宣言をするアリスね。お兄様のタラシの笑みには動じてないみたい。

 手を取られて挙動不審になっただけ。控えている若いメイドの方が、少し頬を赤らめているわ。


「お兄様、アリスがわたくしのお部屋を、回復魔法で直してくださいましたのよ。見る見るうちに元通りになっていく光景はある種幻想的でしたわ」


「回復魔法……」


「そうですわ。光属性持ちが扱える魔法です。ご存じでしょうけれど」


「わたしが学んだ知識では、回復魔法は人体に掛けれらるもので、物を回復させるなど聞いたことがありません」


「アリスは出来るのです」


 論より証拠ね。

 アリスをわたくしの応接室に招き、用意されたお茶を飲みながら、実験を提案したわ。

 ケーキを切り分けるはずのナイフで、繊細なレースがあしらわれた袖を切り裂くと、アリスに復元を依頼したの。

 きれいに修復された袖をお兄様に差し出して見せました。ふふふ、驚いているわ。


「『復元』……ですか。これは何でも修復可能なのでしょうか」


「人の不調以外でしたら、服の汚れや綻び、萎れた植物、壊れた建物や調度品などです」


 驚きに目を瞠っていたお兄様が、またあの笑みを浮かべたわ。


「これほどの力は、みだりに使って見せない方がよろしいでしょう。貴族というものは貪欲な生きものです。分不相応でも知れば欲しがる者は多いでしょうから」


「わたくしも同意見ですわ。貴女はお人好しだから心配になるの」


「ご心配、ありがとうございます。建物を『復元』したのは今回で2回目ですし、そんなに大きな魔法をさすがにおいそれとは使いませんので」


「そう言いつつ、困った人がいたらつい使ってしまいそうよね」


 心当たりがあるらしいアリスは、「気をつけます」と視線を逸らしましたわ。ホント、要注意ね。

 うっかりの多いアリスだけれど、傍にいてくれると心が癒されますし、お兄様と気詰りにならなくて、本当に助かりましたわ。


 この後もしばしお話をして、休学の件は保留のまま、お兄様は帰って行かれた。


「妹想いの優しいお兄様ですね」


 にっこりとアリスは言うけれど、あのお兄様はクセモノですのよ?

 昔、腹違いの弟を冷酷非情に排除した時は、悪魔とはこんな顔をしているのかもしれないと、本気で思いましたもの。


「見かけに騙されてはいけなくってよ、アリス。ああ見えて、手段を選ばない非情な面を持っていますの」


 気をつけてね。



ブックマークや評価ポチっと、どうもありがとうございます( ^∀^)


深刻な場面が続いたので、ここでちょっとゆるめなお話でもと思い書きました。次回は本編に戻ります。

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