03.王子と免罪符
何処からともなく颯爽と現れたヒーロー。
――ということではなく。
新入生の後ろを、式に参列していた在校生代表たちが付いて来ていたのでした。
そしてヒーローにあるまじく、「ちっ」と舌打ちしてましたよ、このお方!
みんなは暴虐無人な王子に呆気に取られていたので、わたしの素顔の違いに気づいてないみたい。
気づいたとしても真正面にいた令嬢だけのはず。たぶん。
「シリウス! 貴様、王の子である俺に対して不敬だぞ!!」
ウイリアム王子は腕を捻りあげられたまま、拘束しているシリウス様を睨み上げる。
うん、本当に大丈夫なんでしょうか。という心配などどこ吹く風なシリウス様。
「生憎です、殿下。わたしを不敬罪に問うことは出来ません」
とっても冷静に、冷ややかに言い放つと、拘束していた王子の腕を解放しながらも、手を添えてきちんと立たせた。
1年生と6年生の体格差もあるけど、いいように扱われているなぁ、殿下。
そういう事に気づいていないらしい王子は、シリウス様の手を振り払いすぐさま噛みついた。
「なんでだよ!」
「国王陛下、王妃陛下、王太子殿下より、殿下の教育に対しては、『いかなることも不敬に問わない』と免罪符を頂いております」
そう言いながら、制服の内ポケットから取り出した立方体の魔石。
掌に載せて王子の目の前に掲げ、『解』と短い呪文で立方体が解け始めた。
わぁ、なにそれ!? 一枚の紙になりましたよ!
王子はその紙をはしっと掴み、ガン見しながらフルフルと震えている。
わたしには見えないけれど、恐らくシリウス様が言ったことが書かれているんだろう。王子の顔色が悪いわ。
「ご確認いただけましたか。署名は王と王妃両陛下と王太子殿下の連名です」
力強く免罪符の書状を握り締める王子へ、更にもう一人が歩み寄る。
「ちなみにわたしも同じ免罪符を頂いておりますのでご容赦を」
シリウス様に並んで、魔石から展開した免状を差し出す彼は、この場の空気を全く意に介さず、にこにこと明るい笑顔で、いっそ楽しそう。
彼は短い金茶色のくせっ毛と明るい茶色の瞳の好青年という風体。
シリウス様より上背が高く、肩もしっかりした筋肉質体系。もしかしたら騎士コースの生徒かもね。
「ピエール……だったよな?」
「はっ。ミンツ侯爵が次男、ピエールです。名を覚えていただき光栄でございます、殿下」
ぴしりと騎士の礼を取り、睨みつける王子に笑顔を返す。
やんちゃな弟でも見るかのようね。
温・寒それぞれの顔で免状を回収する2人を、王子は悔しそうに睨んで地団太を踏む。
子供か!
いや、子供でしたね。わたしたち、まだ9歳だったわ。
しかし王様からそんな免状を発行される王子様。どんだけなんだよ。
国民の一人として頭が痛いです。
「おまえたち、兄上の側近候補ではないか! なんでそれが……」
「陛下のご依頼です。それより殿下、みなを待たせておりますので、教室へ移動をお願いします」
おお、王子の言葉なんてスルーして、さっさと場を取り仕切るシリウス様。メンタル強いね。
なかなか動こうとしない王子をぐいぐい押しやって歩かせる荒業に、わたしは呆然と眺めてしまってたよ。
そこに、ちょんちょんと肩を優しく突かれたので、ふとその手の持ち主を振り向き、次いで見上げた。
えーと、身長はわたしの2倍ですか?
いや、まさかそこまではないと思うけど、わたしの目線が彼のお腹あたりだったのでね。
「災難だったね。殿下はやんちゃで行動が読めないから、気をつけて」
背の低いわたしの顔に近づけるよう少しかがみ、小声で話しかけてくれるピエール様。
優しいお兄ちゃんて感じです。砕けた口調も好感度抜群です!
「それじゃあ教室に行こうか。遅れると“あいつ”が煩いから」
「はい!」
“あいつ”が誰か、視線で分かったわ。
きっちりしているんでしょう。分かりますよ。
それと仲が良いんですね? シリウス様と。
その後、学園中を逃げ回るウイリアム王子と、捕獲隊が駆け回る光景は日常化することとなった。
◆◇◆
オーディン高等学園の制服は黒が基調のワンピースタイプ。大きめの襟と袖口が白く、銀糸で縁飾りが刺繍されている豪華仕様。
身頃はパイピングとスカート部分の切り替えがアクセントで、Aラインのシンプルなデザインです。
スカート丈は1年から3年生まで膝下丈。4年生から6年生は脛丈ですが、スカート部分がフレアデザインに変わります。
寒い季節はこの上にボレロ型のジャケットを羽織るんですが、これがまた可愛いの。
生地も仕立ても上質なもので、窮屈にならない程度にゆとりもあり、着心地が良いです。
わたしの洗礼式のドレスより、絶対こっちの方がお高い。
奨学金の内訳は、学園の授業料と制服の仕立て代が含まれてて、本当に助かりました。
お洋服代って高いんですよ。
男子の制服は、1年から6年生まで、白シャツに濃いグレーのベストに黒ジャケットとズボン。
タイは女子と同じく細いリボン状で、学年ごとに色が違います。
一年生は薄い黄色。やっぱり1年生は黄色だよね、とわたししか分からないことで、一人ニヤつきました。
ちなみに、2年生からはオレンジ・ピンク・赤・茶・紫と変化します。
――なんでここでつらつらと、制服の事を回想しているのかって?
唐突に理解不能な事態が起こると、どうもわたしは現実逃避をしてしまうらしいわ。
今、わたしはびしょぬれで、床に座り込んでる。
なぜか? 突然水攻撃を受け、勢いに負けて座り込んでしまったの。
例えるなら、水風船。それくらいの水球を20個以上、数打ちゃ当たるとばかりの攻撃でした。
悔しいわぁ、なんで避けられなかったんだろう。
常時シールドを発動しておくように! というカイエン先生の教えは覚えてます。覚えてるんだけどぉ、ついうっかり、ごにょごにょ。
わたしが標的みたいだけれど、そのくらい数が多けりゃ周辺にも被害が出る訳でして。
たまたま近くにいた公爵令嬢や伯爵令嬢にも水がかかりましたよ、ええ。
せめてもの救いは、水が魔術で呼び出したもので、汚水ではなかったことでしょうか。
制服は高いですからね! シミになったら困りますよ。
現時点で現場を見たならば、伯爵令嬢たちを従えた公爵令嬢が、下位の男爵令嬢に水をかけていじめているように見えるだろうね。
だがしかし! 真犯人は教室の一番高いところでふんぞり返っている。
「殿下!! 何をなさるのですか!!!」
高く澄んでよく通る怒声が教室に響き渡る。
巻き添えを食った、サザーランド公爵令嬢ビアンカ様です。
「おまえを狙ったわけじゃない! ロイドが眼鏡を外さないのが悪いんだ!」
……なんですか、そりゃ。
ああ、この殿下へ同じような感想を、今後何度呟くことになるのやら。
出来たらわたしをそっとしておいてくれませんかね。
のびのびわがまま放題の王子には、強力なお目付け役が必要です。
感想やブックマークをありがとうございます!
もし、もしよろしければ、評価ボタンをぽちりとお願い致します。




