☆③─21話 近衛VS龍泉!!!!
近衛学園は主に守備をこなすフィクソである詩織が司令塔となって攻撃と守備両方の指示を出す。……現状、彼女への負担が大きすぎて上手くいっていないが。
だが龍泉は、守備の時はフィクソが、攻撃の時にはピヴォ──つまり前線で戦うポジションをこなす朱堂瑠夏が司令塔の役割を担っている。役割を分散させた形となっているのだ。
この試合……勝てる見込みは絶望的。けど……やるしかない。
東京予選一戦目。
近衛学園VS龍泉小学校
今、開戦の時。
「それでは、ただいまより東京予選一回戦近衛学園と龍泉小学校の試合を始めます」
協会から派遣された審判がそう宣言し、互いの選手は握手。
そして審判がコイントスをしてどちらから先に攻めるか……つまり、先にボールを持つかを決定する。
ボールは……俺達、近衛学園からのようだ。
こうなれば先に守備をしてカウンターで一気に主導権を奪う作戦は使えないが……まぁいいだろう。
コイントスの結果を確認すると、各々がポジションにつく。開始の時を……待つ。
審判のホイッスルが……
吹かれた!
亜子がボールを蹴って、舞依が受け取り……すぐさま後ろにいる詩織に託した。
司令塔にボールを渡してじっくりと攻めていく。順当な形だ。
「いくわよ!」
詩織は、ひとまずゆっくりとドリブルしていきながら自陣を離れ、敵陣へと進んでいく。
今思えば、ドリブルに関しても上手くなったもんだ。最初はパスしかできなったのに、今ではこうしてボールを自分で運ぶこともできる。
しかもボールを見すぎていない、仲間や相手の位置を確認しながらのドリブル。理想的だ。多分相当練習したんだろうな。つい先日このフットサル部のキャプテンに就任したこともあってか、頼もしさも身に着けつつあるようだ。
詩織はじわじわと敵陣の奥へと進もうとしながら、しかし……心の中で呻く。
(こいつら……隙が無い!)
がっちりと守りを固めている。各選手へのマークも当然ながら、下手なパスをしてしまえば相手のゴレイロも飛び出して奪ってきそうだ。
どこを出しても奪われる気がしてしまう。
しかも……
「くっ……!」
自分にマークとしてついている選手も守備がうまい。ちょっと気を抜けばすぐに奪われそうだ。自分が奪われてはお終いだから、実力差があれど死んでも奪わせるつもりはないが。
こういう相手には何か意外な攻撃を使って防御を崩していきたい。
意外な攻撃……代表的なのは舞依。
圧倒的な速度で守備を千切るスピードスター。最初はあれをかましてやりたいところだ。
なのに……
(舞依についているのは、キャプテンの朱堂瑠夏……!)
彼女にマークとしてついているのは敵チームで現在最も警戒される選手である瑠夏。個人ランキングというものに気圧されている感はあるが、安易に舞依へパスを出すのは愚策かもしれない。
詩織は脳内の中で計算のように「どの選手にパスを出すべきか」を考える。誰にパスを出した場合、どのようになるかをシミュレーションしていく。
(……よし)
詩織は決断した。とある一手を。
ボールを、蹴りだす。
誰かに、ではなく。
「……ッ! っと、!」
詩織についていた選手はその選択を意外と思った。
詩織が、いきなりドリブルで抜いてきたからだ。
そう。パスを出したのではなく、自分で突き進むことを選択した。
これも楓から仕込まれていたものだ。試合が始まってすぐというのは誰しも本調子というわけではない。基本的にパスを出して徐々に流れを作り、ボールに触りながら自分の調子も上げていく。
そこを、崩す。
試合をいきなり急展開へと持っていく。
こんな手、逆に奪われてカウンターをされようものならこっちは最悪のスタートを切ることになる。自分の調子を作っていくどころか、いきなり崩壊だ。その時点で試合終了ものである。
だが、詩織はそんなことに臆する少女ではなかった。
(どうせ力の差があるんだったら、相手のやりやすいようにはさせてやらないわ!)
こっちが縮こまっていては負けるのは必至。どうやったって実力差が出てくる。
縮こまるな、攻めろ!
詩織は華麗なボールタッチでなんとか相手を抜き去る。
まだ様々な技術が使えるというわけではないが、ボールに触れる感覚だけは楓が認めただけあって見事なものだった。これには相手も初心者と侮っていたとはいえ、舌を巻く。
一人抜いたことで、人数差が発生。
ほんの一瞬のみこちらが有利となる。
フィールドに淀みが生まれる。龍泉の各選手は抜かれた者の代わりに彼女を止めに行くべきか、パスを警戒してマークを続けるべきかの選択肢が迫りくる。
(……ここっ!!)
そして、その隙を見逃さなかった。
詩織にディフェンスへ行くべきか、マークを続けて留まるべきかで硬直した選手たちの目を覚ますような鋭いパスがフィールドを切り裂いた。
その先でパスを受けたのは、
「待ってましたー!!」
亜子、だった。
舞依には朱堂瑠夏がついていて、彼女はこの状況でも冷静に判断し、舞依のマークを続けた。それを視界の端で捉えた詩織はパスルートとして一瞬のうちに放棄。逆に、硬直した龍泉の選手のマークをその身体能力をもって振り切った亜子が最適だと感じた。
それは上手くいき、ゴール手前で亜子がボールを入手。
だが、ここで問題が生じる。
亜子のシュートはなんと真ん中にしか飛ばないのだ。
つまりほぼほぼ得点に結びつかないと言ってもいい。威力はフットサル部の中でもピカイチだが、練習でも枠外に飛ぶか、枠内の真ん中に飛ぶかの極端な二つしか見たことがない。
このまま彼女にシュートを打たせるわけにはいかないので……
「亜子、こっち!」
「りょ~、かい!」
詩織はパスを求めた。亜子からリターンだ。
これには龍泉も驚く。上手く隙をついてゴール手前まで来たのだ。そのまま少し進んでシュート。こう来ると思っていた。
亜子の特殊な事情はあれど、そのおかげと言うべきか。
スルリ、スルリと近衛学園のパスが敵陣をかき乱していく。
亜子からのリターンパスを受け取った詩織は当然シュートモーション。
ここまで数秒にも満たず、まだ詩織をマークしていた選手は彼女の後ろ。もうあと一歩進めば追いつくが、このシュートを邪魔することはギリギリ叶わない。
仕方ない、と朱堂瑠夏がとうとう動く。
舞依のマークを外れて硬直している他選手の代わりに詩織の前へ立ちふさがるようにして。シュートを防ぐためだ。
そして詩織は、それを待っていた。
ようやく……動いたな、と。
瞬時にシュートをキャンセル。彼女の頭上を越えるようにしてパスを出した。
もちろん相手は……
「舞依!」
「うんっ!」
再びゴール手前に出したパスを受け取ったのは舞依。ゴレイロもそのボールを奪おうと前に出かけたが、パスを出された時の舞依のスタートダッシュの速さ、そして驚異的な速度を感じるとすぐにゴールに留まることを選択。
これで、近衛学園の奇襲パターンは成った。
「い……けっ!!」
舞依はシュートを放つ。
狙いはもちろん真ん中ではない、外れてもいいから、ゴールの隅を狙って!!
ゴレイロの斜め下を打ち抜く弾道。亜子へのパスも警戒していたゴレイロは反応が遅れた。
そのままそれは、外れることなく突き刺さり、
ピーッ!!
笛が鳴り、審判は得点の発生を告げた。
近衛 1──0 龍泉
関東一の強豪を相手に、なんと初心者集団である近衛学園が初得点を挙げた。




