☆③─20話 6人対14人の戦い
試合当日である土曜日。
一方の対戦校の体育館を使用することとなっている。そして今回は俺達の学校で行うらしいので朝から試合の準備をして待っていた。
ちなみに足りない備品等はフットサル協会が貸してくれるという太っ腹ぶり。すでに相手チームから先行して協会から派遣された審判たちがここに来ている。
備品を貸すなんてそんな面倒なことするくらいなら通常の大会みたいに一つの会場に集めればいいのにとも思うが……まぁ選手にランキングなんか作る連中の考えなんかよくわからん。向こうがやれと言うならその通りにやるしかない。
「皆。今のうちに確認しておくが調子が悪い奴はいないか?」
相手が来る前にコンディション等の大っぴらに言えないようなことを確認しておく。何度も言いすぎて飽きてきたくらいだが、俺たちは一人動けるか動けないかが大きく影響する。それに、今日の試合で無茶をさせてこれからの試合は脱落なんて目も当てられない。
「大丈夫ですっ! いっぱい食べていっぱい寝てきましたっ!」
「ふんっ。いつだって最高の状態よ」
「やる気満々!」
「おーるぐっど」
「はい。大丈夫だと思います」
「んー、いける」
よし。ひとまず体調の方は問題なさそうだ。全員試合に出していけそうだな。
俺は全員を輪にして集まらせて今日の作戦の打ち合わせをする。
「スターティングメンバーは昨日メールで送った通り。凪を省いた5人で始める」
舞依、詩織、亜子、なゆちゃん、愛実の初期メンバー5人だ。ここは最初からやっていたこともあって連携がとりやすい。来栖谷との試合まで必死に練習してたのも一つの要因だ。
それと、練習試合が組めなかったせいで凪の試合勘が戻っているかどうかが定かじゃない。初っ端から出した挙句上手く試合に入れなくてチーム全員がペースを掴めずガタガタになるのは避けたい。
「凪。お前をどこで出すかはこっちで判断する……と、言いたいところだが、今回はあっちのチームのことで手一杯かもだ。入るタイミングは極力お前に任せる。いいな?」
「うん。それでいいよ」
凪はすんなりと了承する。兄妹だから俺とこいつの付き合いは長い。一々こんなことを確認するまでもないが、一応監督と選手だ。俺の考えだけは伝えておかないとな。一方的に「出るな」というのも乱暴すぎる。
「というわけだ。最初は守備をしっかりやってボールを奪う。そこで舞依が走ってカウンター。まずはそれでこっちのリズムを作っていくぞ」
「それって前の来栖谷とのやつよね?」
詩織の言う通り。この策はあの時とほとんど同じもの。
違うのは、あの時みたいにミスの誘発を望めないことだ。
来栖谷は2軍チームに致命的な欠陥が存在していた。そこを突いて初見殺しのようなことをしたわけだが、今回はそれが期待できない。守備を売りにしたチームなだけあって映像で見た限り2軍でもガッチガチに動きが統制されていた。見ていて小学生ってことを忘れたくらいだよまったく……。
「これまでの課題となっていた守備だ。新しいことを求めたりはしない。今できることを最大限頑張ってくれ」
俺が皆を鼓舞しようとした時、とうとう体育館の扉が開かれる。
協会から派遣された審判はすでに準備済み。ってことはもちろん入ってくるのは……
(来たか……関東攻略最大の難所。龍泉小学校……!!)
関東予選優勝、全国大会準優勝。そして、全国個人ランキング3位を擁する学校。
彼女らが、やってきた。
一番に驚くのはやはりその数。試合に参加できる人数は限られているというのに、見学させるためだろうかゾロゾロと行列が入り込んできた。
ある一つの小学校の女子だけでこの部活にどんだけ参加してるんだ。本当に他の部が存在しているのかと言いたい。
しかも選手だけじゃない。学校がフットサル部に力を入れまくっているのか、スポーツの専門職に就いてそうな大人まで何人か来やがった。下手すりゃそいつらだけでうちのメンバー数超えてるぞ。ふざけんなよ。なんかここまで来ると腹立ってくるわ。
俺があまりの人数に舌打ちしかけていると、舞依の爺さんみたく威厳のありそうに怖い顔の男が近づいてきた。
「桜庭……楓くん、と言うのだね。今日はよろしく頼む」
「あ、……はい。近衛学園初等部女子フットサル部の監督をしています」
「龍泉女子フットサル部の監督。『辰見 康生』」
お互い握手をする。これから戦う軍師同士。ここまで来たら年齢は関係ない。向こうも敬意を以って接してくれる。
……それでも俺はまだまだ新米なもんだから胸を借りていくつもりだけどな。
「すごいですね。一流の選手に加えてこの層の厚さ。羨ましいですよ」
「そう言ってくれると嬉しいが……これだけ集まると、それはそれで大変なこともある」
辰見さんは顎を触りながら困ったように目を伏せた。
あ~……そう言われると。俺の場合は難しい仕事なんかを父さんがやってくれてるから練習を見ているだけでなんとかなっているが、学校の教師が監督をやる場合は仕事と並行して監督業務を行わなければならない。
バスの手配や試合と大会のスケジュール管理。各選手の体調を気遣いながら練習メニューの作成。活動記録だってつける必要があるだろうし、保護者との関係だって色々あるだろう。こうしてちょっと想像しただけで山ほど出てくるんだ。きっとまだまだあるぞ。
「……扱いづらい選手に悩まされることも多くある。隠しても仕方がないからここで愚痴を言わせてもらうが、乃蒼は特にな」
「! 天下原乃蒼……もしかして」
「ああ、来ていない。直前で電話一本。『行かない』……この一言だけだ」
俺は数多くいる選手の顔を確認していく。
…………。本当だ。来て、いない。映像で見た、奴の姿が……ない!
「いつも東京予選には出てこない。念のために来いと言ってはいるが、本人が『興味ない』と言うだけで拒否してくる。早くて関東予選のトーナメント、しかも準決勝か決勝からじゃないと出ないという始末だ」
俺は昨日、事前に龍泉の試合記録を見ていた。天下原乃蒼の試合をたくさん見ておきたかったが、極端に試合数が少ないと思ったんだ。しかも、そのどれもが全国大会の本選ばかり。その中でさえも出てない試合があるくらいに。
それを「温存」だと思っていた。優秀な能力がある分、コンディションを整えたり怪我を恐れて。だから、俺達みたいな弱小相手には運よく温存してくれるんじゃないかと考えていた。
(あれは温存じゃなくて、試合を拒否していたのか……)
そうとなれば、結果的にこの試合に天下原乃蒼は出てこないわけだ。
守備が固いチームに、一人で大量得点を挙げる暴君。最初はどうしたものかと唸ったが、勝利の望みが……ありそうか?
「しかし、負けるつもりはない。エースを欠いた形ではあるが、決して侮っているわけではないと言っておく」
なるほど。天下原乃蒼は有名な選手だから出てこないとなれば相手チームからはバカにされていると思われても仕方ないよな。今の俺からすればチャンスとしか思わないが。
……だが、天下原がいないからといって簡単に勝てるかと言われればそうじゃない。
このチームにはもう一人厄介な選手がいるんだ。
「瑠夏。メンバーに準備に入るよう指示を出してくれ」
「わかりました」
辰見が楓から視線を外し、近くで控えていた選手に声をかけた。
スラリとした……小学生にしては高身長で、髪を肩に届くか届かないくらいのところで切りそろえた、キリっとした目鼻を持った「可愛い」というより「綺麗」な印象の女の子。
朱堂瑠夏。龍泉女子のキャプテンにして全国個人ランキング18位。ポジションはピヴォでこのチームの支柱。
おそらく……こいつが一番俺達にとって相性の悪い相手だ。
天下原はいなくても、あっちは万全そうだな……。
両者簡単なアップが済み、試合の本格的な準備に入る。
「それでは、両チーム選手登録を行ってください」
審判がカードリーダーのようなものを持って俺達にそう告げる。
今の時代のフットサルは、試合直前に出場する選手が自分のマイカードをカードリーダーに通して「試合に出る選手」を登録する。そうすることにより試合への干渉が許されるのだ。
これはマネージャーや監督だってそう。登録した者だけが選手に触れることや指示を許される。
先に龍泉の子たちがカードを通していく。案の定……というか当たり前なのだがスターティングメンバー5人に加えベンチに控える交代要員9人の計14人のフルメンバー。さらには選手たちをサポートするマネージャーも3人。つくづく羨ましいね。
次に近衛学園──俺たちがカードを通していくが……あらら、監督とマネージャー含めても9人で登録が終わっちゃった。
全国女子小学生フットサル大会 FIRST STAGE
「東京予選」
ルール:フットサル協会がランダムに同県の学校同士をマッチング。その学校同士で試合をする。備品等試合に必要なものは協会から支給される(審判も)。対戦校は2日前まで伏せられた状態で行われる。
合計5戦行った後、戦績が良い学校から次のステージへと進む権利を獲得できる。




