☆③─15話 楽しいこと、進むこと
「おい凪」
「うわ! おにぃ……ちゃん、なんでこんなところにいるの?」
2組の中で読書していた凪を捕まえて人目がないところへ移動し、雪姫のことについて途中経過を聞くことに。
それにしても……
「お前昼休みに一人で本読んでる、って……トイプードルの里香ちゃんはどうした」
「友達一人もいないおにぃが何言ってんの」
「ごめんなさい調子乗りました」
学校でも上下関係は変わらず。クソ……今は誰にも見えていない場所だからこんなことを言えるのだろうが、友達の前でもこんな態度でいられるかを試してみたいがそんな意地悪をするほど暇じゃない。
「ちょっと読みたい本があったから今日だけは別で行動してるの。おにぃみたいに万年スクールソロプレイヤーじゃないんだから」
「お前どこでそんな煽りスキル覚えてくるんだよ。おにぃの心はもうボロボロだ。勘弁してくれないか? さすがにオーバーキルが過ぎるぞ」
「ふんっ」
高等部でも煽られ、初等部でも煽られ、家でも煽られと安息の地がどこにも無ぇ……。そのうち2つがこいつのせいなんだけど。
「で、雪姫の勧誘はどうなった?」
「……ぜーんぜん手ごたえ無し。ここでフットサルをやるつもりはないってさ」
俺みたいな年上の男相手でなく、同級生の凪が相手でも答えは変わらずか。その場だけの気持ちというより相当固い意志と見える。
一応、今朝あったことを凪と共有しておいた。彼女に何らかの理由があってフットサルをやるつもりがないこと。全国大会という場所の厳しさとか。
「ふーん。色々考えてたんだね。教室ではそんな感じじゃないからちょっと意外。いっつもボーっとしてるイメージだし」
だよな。正直あれだけ言われた時は面くらった。ちょっと目を離せばどこか行ってしまうようなボンヤリ具合なのにフットサルのことになると饒舌になっていた。
「引き続き雪姫にフットサルの話を振ってみてくれ。何かわかることがあるかもしれない」
「こっちでまだ粘ってるみるけどさ……おにぃもう私に丸投げしてない?」
「気のせいだ」
「おにぃが気のせいって言う時誤魔化してる時だよね?」
「じゃあ気のせいじゃない」
「それ丸投げしてるってこと認めてるじゃんバカなの?」
「…………」
「なに黙ってんの」
これ以上話していても何も面白くないので俺はもう退散することにした。頭がいい俺は旗色が悪くなると黙って逃げる方法を思いついたのだ。
スススーッと突然何も言わず消えようとする俺に若干キモがりながらも凪は追及を諦めてくれる。いいもーん。このまま逃げるもーん。
~☆☆☆~
「ふー」
凪から逃げてきた後、高等部へ帰るために一息つきながら初等部校舎の階段を下っているとこれまた知ってる奴と出くわした。
「おー! かんとくじゃん!」
「なんで楓がこんなとこいるのよ」
亜子と詩織の二人。外で遊んできた帰りで、これから6年の教室に入るため階段を上ってきたところに鉢合わせたってとこか。
「凪にちょっと用があってな。そっちは?」
「体育館で練習してた!」
れ、練習!? 昼休みにもか? 今日だって放課後には練習があるのに……
「バンバン勝ちたいからね!」
「全国優勝するんでしょ? ただでさえ初心者集団なのに、さすがにあたしも余裕かましてられないわよ」
……。俺はどこかで舐めていたのかもしれない。
全国優勝を本気で目指すぞと言っても。まだこの子たちにそんな気構えをいきなり求めるのは酷だと。試合で勝っていけばきっと徐々に心もついてくると。
でも、少なくとも亜子と詩織は違った。本気で勝ちたいんだ。
課題は山ほどあって。それを選手たちも感じている。監督だから俺がどうにかしようと考えているのと同じく選手も考えているんだ。
それから亜子と詩織と別れ、高等部に戻ると教室前の廊下で今度は白戸と鉢合わせる。
「……」
「なに?」
「いや……ちょっと嬉しいことがあってな。お前にも聞かせてやろうと──」
「……」
「おいっ」
さっきの喜びを共有してやろうかと思ったら、白戸は俺のことなんか無視して勝手に教室へ向かう。なんだよ。テンション下がるな。
楓が背を見つめる中、夏月は一度も振り返らずに歩を進める。
「嬉しいことなんて……あの部が始まってから、私には一度もない。私は……『目的』さえ達成できれば……嬉しいや楽しいなんていらない」
夏月の言葉は、楓には届かなかった……




