☆③─11話 絶対零度の白雪姫
「誰かあてでもあるのかよ! って凪! いい加減お前も話聞け!」
父さんの提案にもビックリするが凪がここまで変わらず飯を食ってたことにもビックリする。お願いだから肝心な時におにぃを一人にしないでくれ。
「えー、だってそれ私が聞いても意味なくない? あれだけ勧誘しても私くらいしか入らなかったんでしょ? じゃあ今回も多分おにぃが頑張る話なんでしょ、きっと」
「そんな適当におにぃを売らないでくれ。こういう時こそ兄妹一緒になって頑張らないとだろ? 桜庭兄妹の熱く固い絆はどうした」
こんな仲良い最高の兄妹は他の家庭にもいないはずだ。だってデートまでしたんだぜ? ほんと狂──最高の兄妹だよな!
「……じゃあ今度の土曜日に──」
「父さん、早く続きを話せよ」
「……まだ全部言ってないじゃん、バカ」
どうやらこいつとの絆はビジネスライクなものだったらしい。何かの話を出されたところで俺の体がまた震えた。PTSDだ。これは。体が危険なサインを出している証だ。
「あー、申し訳ないが今回は凪、お前も関係してるぞ」
「え!?」
「ほらよ。こいつが7人目だ」
父さんは写真を一枚テーブルに置く。それはいつ撮られたかは知らないがとあるクラスの集合写真だった。
そこにいる一人の生徒に指をさす。
──こ、この子は……
「雪姫!?」
「柊さん……!?」
予想外の人物を挙げられて俺と凪は同時に叫ぶ。
そこで凪はこっちに首を向けてきた。ギロリとした怖い目で。
「おにぃ今『雪姫!?』って言わなかった? なんで名前知ってるの?」
「…………あー……いや? 気のせいじゃないか?」
「完全に言ったよね」
「『ウッキー』って言ったんだよ。おにぃ進化し損ねた類人猿だからそれくらい許してくれよ」
「おにぃサルじゃなくてバカじゃん。おサルさんに失礼なこと言わないで」
お前さぁ……ここでおにぃが泣きだしてもいいの? 言葉のナイフは人を傷つけるんだぞ。ちょっと半泣きになったぞ今。
「で、なんで急にその子が出てきたんだ。初心者でも歓迎するが予選目前のこの時期に入ってもどうしようもないぞ。せめて予選が終わってからだな……」
「ウジウジとなんか言ってるバカは置いといて、これを見ろ」
俺を無視して父さんはスマホの画面を見せてくる。……オーライ、俺も気にしてない。
その画面はフットサル個人ランキングの選手名簿。当然俺もその存在は知っている。自分のチームの強化が忙しいから確認まではしていないけど。
「ん? これ……」
ハンバーグ食いながら俺がどうでもよさそうにしていると横の凪が反応する。それを見てか父さんも企み深い笑みをさらに強める。
さすがに俺も気になってその画面を覗いてみると、
『柊 雪姫 全国個人ランキング:──』
うわ……マジでガッツリ登録されてる! 写真もちょっと前のなんだろうけど、これは同一人物だ。特徴的な肌や髪色、瞳まで全部一致しているのだから。こんな美術品のような少女が二人もいてたまるか。
しかし……
「ランキングが変だな。表示されてなくないか?」
この序列はどうやら1万位以下は全員「圏外」と表示されるらしい。
それなのに雪姫は非表示になっている。これは一体どういうことなのか。
「これはな、何かの事情で半年間ほど公式試合に参加できなかった選手がこうなる。言ってしまえばランキングが凍結されるんだ」
「ふーん」
「で、これが凍結される前のやつ」
お次に出してきたのはどこで手に入れたのか、半年前の個人ランキングページだった。こんなもんただの検索で出てくるとは思えないが……今更怪しさ満載のこいつのコネクションを気にしても仕方ない。
そこに表示されていたのは……
「な!?」
「……え!」
『柊 雪姫 全国個人ランキング:7位』
7位……!? つまり、ここの序列で言わせれば全国で7番目に強い選手だということか。身近にそんな有望な選手が埋まっていたかと思うとゾクリとする。
しかし……舞依たちがやってくれていたフットサルの勧誘にも引っかかっていないし、なんでそんな強い選手が初等部にフットサル部がない学校に入ったんだ?
「私、この子と同じクラスだけど全然フットサルやってた素振りなかったよ?」
「体育とかは? こんな選手なら運動神経良いんじゃ……」
「ううん。ずっとボーっとしてるし。っていうか目を離してるとたまに体育館からいなくなって二駅先くらいのところで発見されたりするし……」
いやそれ普通に事件じゃん……ダメじゃん……
俺と凪が絶望した目で虚空を見つめていると父さんがパン! と手を鳴らして俺達を現実に引き戻す。
「とりあえず。今回お前達が目指すのは雪姫の加入だ。こいつは今のチームの課題をクリアするのに最も必要な選手だと言ってもいい」
あー。そういうことか。
聞くところによると凪は雪姫と同じクラス。そして今日の朝に徒歩通学して雪姫と接点をもった俺。こうなってくると父さんが俺の自転車パクっていったのはこのためか。
舞依たちが勧誘で頑張ってくれたんだ。だったら、次は後から入った桜庭兄妹でチームのために頑張らないとな。
それに関しては反論もないんだが……
「珍しいな」
「あん?」
「いっつも終着点なんか教えてくれないくせに。直接的なアドバイスは初めてじゃないか?」
舞依の時も爺さんのことは黙って俺のことをチームにぶち込んで、詩織の時なんか警告くらいしかしてこなかった。
まだ「勧誘しろ」と教えてくれているだけありがたいのである。いつもだったら雪姫と接点だけ持たせて彼女が元フットサル選手だったことすら教えなかっただろう。
「……お前がチンタラやってっからだろ」
「はぁ?」
「もう時間ねーぞ。間に合わなくなる前にどうにかしろよ。小春、ごちそうさん」
「はーい♡」
喋りながら飯食ってた父さんは食器を片づけて自室に引っ込んでしまう。
……なんだよ。これもいつもだったら「バカな息子にはここまでしてやらないとなぁ」くらい言ってくるのに。
今回は珍しく、本気で焦ってる感じが……するぞ。
俺と凪は顔を見合わせて首を傾げた。




