☆③─10話 7人目!?
~桜庭家~
「…………」
部活も終わり、帰宅して楓はすぐにノートを開いた。
といっても勉強ではなく、やはり考えるのはフットサル部のこと。
「どう考えても守備が間に合わないな。いっそのこと攻撃しまくって点取り合戦に持ち込むか……?」
守備がどうしようもないならお互い殴り合って勝ち切る戦法を。
けど、そんなことしたって先にこっちがバテるのは明白。ただでさえ人数が少ない上に初心者ばっかですぐ対応されて頭打ちだ。
「おにぃ。ごはんできたって~」
部屋をノックせずに入ってくる我が妹。一言申してやりたいが今はそんなことどうでもいいと言えるくらい余裕がない。
「凪。詩織とあと一人守備に追加させたいとしたら舞依と亜子となゆちゃん……誰を入れる」
当初から凪に聞きたかったことを俺は口にする。
どうやっても詩織1人にあれこれと指示させるのは負担が大きい。それならもう1人守備寄りの選手を作って攻撃2、守備2のフォーメーションはどうか。それなら詩織1人の負担はまだ少ない。連携する仲間もはっきりするから要所で判断に困ることも減る。
あとは、それをするなら誰か……という話になる。
「それ、私が言う意味ある?」
「どういうことだ?」
凪は呆れながら俺のベッドに腰掛ける。
「だってさ。そんなことおにぃならわかってるでしょ? その選択肢そもそも一択しかないじゃん」
「……やっぱりお前も気づいてたんだな。あえて言わないでいてくれたのか」
「まーね。兄想いの妹でしょ?」
最後のセリフは置いといて、凪が言わんとすることはわかる。これも一つこのチームの致命的な欠点でもある。
それはチームの中に一人だけ、明らかに適正がないポジションに居座らせてしまっていることだ。
凪からすれば今更そんなことを聞いてくるのかとバカにするのも頷ける。
「とりあえず、飯食うか」
「うん」
晩御飯ができているらしいので、この話は一旦保留にして俺と凪は下に降りる。
リビングの扉を開けるとテーブルには皿が並べられていた。
「おっ、今日はハンバーグか」
「やったー!」
凪はハンバーグが大好きだからルンルンと機嫌を良くして椅子に座る。さっきまで悩んでいた時の鬱屈としていた気分が少しは和らいだよ。
「よぉ、お二方。今日はちょっと飯を食いながら聞いてほしい話がある」
と、言いながら俺と凪を迎えたのはこの家の主である父さんだ。
「おい凪。逃げるぞ!」
「了解!」
「あっ! おいこら!!」
が、その言葉を聞くと俺と凪は椅子から飛び降りてすぐさま逃亡開始。
こいつが切り出してくることで良い話だったことがない。俺達はそれを自らの人生で身をもって知っている。ハンバーグで和らいだ気分を一気に引き締めて逃げる。
「こーら。晩御飯は食べなきゃダメ!」
しかし、母さんがそれを許さない。逃げようとする俺達の前に手を広げて立ちはだかる。
凪の体をフワッと抱きかかえるようにして止め、俺の首にはラリアット。なんで!?
抱きかかえられたまま椅子に戻される凪と、思い切り床に叩きつけられた俺はよろよろ……とゾンビのように椅子に戻る。観念して父さんの話を聞くしかないようだ。
「ったくお前ら……話はちゃんと最後まで聞けっつの。親父の話を最初すら聞かずして逃げるなんてそりゃねーだろ」
「勝手に息子の自転車をパクる親父の話なんてどうせロクでもないから聞きたくないな」
「俺の車パクって行きゃよかったじゃねーか」
「無免許で捕まるわ! 俺のことをあんたと同じアウトローだと思うな!」
「ヤクザをタクシーに使う奴は相当アウトローだと思うけどな……」
あれあれおかしいな。父さんどころか凪まで引いた目で俺を見てくる。味方がいなくなったぞ。
「んな話はどうでもいいんだよ。飯食いながら本題に入るぞ」
父さんはハンバーグを大口でバクリと食べながら無理やり話を始める。食うのか話すのかどっちかにしろよ。
「もう耳が痛いと思うがそろそろ予選が始まる。だが、厳しいことを言わせてもらうとお前らのチームはまず勝ち抜けない。予選敗退おめでとう。戦犯楓監督に拍手!」
父さんはふざけた笑みでパチパチと手を叩く。うぜぇ。……と思ったら母さんまで勘違いしてニコニコ笑顔で拍手し始めた。息子が戦犯って言われてるんだよ!? 絶対意味わかってないだろ!!
「それが学校の先生のやることか?」
「愛する生徒の前ならいくらでも菩薩になるさ。けど相手がこんなクソ坊主だとつい人に戻っちまう」
「人としてもどうかと思うぞ……」
俺だけじゃなくて選手である凪もいるのにちょっとは気にしろよ。
ショックを受けてないか心配してチラッと凪の方を見るとホカホカの白米を食べてハフハフと息を吐いてる。ちょっとは気にして凪ちゃん。
……いや、凪も十分理解しているからこそ今更言われてもってところか。こいつは初心者じゃない。課題だらけのこのチームの現状は練習試合なんかしなくたって丸わかりだ。
「で、わざわざそんなつまらないこと言いに来たんじゃないだろ? 今度の打開策はなんだ」
父さんのことだ。もうすでに予選間近でピンチな状況になるのは想定済みのはずだ。そんなことはいつものことなので一々驚かない。
そうなると解決策までセットで用意しているのもいつものこと。といっても、一から十まで全部やってくれるわけじゃなくて最初の一だけ教えてあとはお前が十まで辿り着け、俺はそれを横で見てて笑ってやるの悪魔の方針だけどな。
そのせいで過去に俺は女子校に潜入したり(バレて捕まりそうになった)、ヤクザの家に侵入したりした(案外上手くいったけど信じられないくらいボコボコにされた挙句に銃口突き付けられた)経験がある。思い出すだけで今でも体が震えてくるぜ。これなんかの病気だよな。PTSDとかだよな。
息子にトラウマを刻む一歩手前にしても性根がまったく変わらない驚きのダイナミックファザーである父さんは何をやらせるつもりなのだろうか。
「チームに7人目を入れるぞ。それを以って近衛学園初等部女子フットサルチームを完成させる」
「はぁ!?」
な、7人目だと!?




