☆③─8話 俺たちの課題
ひとまず、これで大会参加に必要な物が揃った。あとは自分たちの実力次第なところとなったわけだ。
「第一関門である東京予選がもうすぐそこだ。気合を入れていくぞ」
一番の問題は道具じゃなくて実力。
舞依、亜子、凪──詩織、なゆちゃん、そしてゴレイロである愛実の攻守三人ずつに分けての連携練習を始める。
攻撃的な面子で守備二人とゴレイロ一人のところへ向けて攻め崩す練習だ。逆に守備側は数的不利のところで上手く攻めを止める練習でもある。
この練習はもう何度もやってきた。そのおかげか、皆十分に基礎は身についてきたんだが……
「詩織! 一人だけで守備するなって言っただろ。仲間を指示して動かすんだ」
「~! わかってるわよ! わかってるけどこっちもこっちでいっぱいいっぱいなの……!」
「ボールを取りに行くのが『守備』じゃない。仲間と全体で守る……攻めてくる相手全員に対して大きな『壁』を作るイメージだ。『形』を意識しろ!」
「……やってみるわ」
守備に関してが、やっぱりまだまだ全然ダメだ。
個々のディフェンス技術に関してもそうだが一番は組織的な守備──ゾーンディフェンスがまったくできていない。
しかし、これに関しては詩織をあまり責められない面もある。
サッカーでは攻撃専門の指揮官と守備専門の指揮官が分かれている。さらには自分の役割というのがポジションでハッキリするのだ。
それに対してフットサルは何度も言うが全員攻撃に全員守備。一人に対する負担がかなり大きい。
本来なら守備に関する統率はゴレイロでもある愛実に頼もうと思っていた。一番後ろの砦であるゴールから指示を飛ばすのだ。
けれども、ここまで練習でわかったが愛実は人に指示するのが極端に苦手……というより、本人がなぜか心のどこかで嫌がっているようにも見えた。
俺がそう見えたってだけだから違うかもしれないが、この時期に苦手なことを無理やり矯正して武器にするだなんて余裕はない。だから同じような理由でなゆちゃんも難しい。
そうなると矢印が向いてくるのは必然的に司令塔である詩織となるわけだが……
(詩織はパスが得意な攻撃的な選手なんだよな……)
うちのチームって人数が少ないくせに攻撃特化な子が多すぎるんだよな。頼みの綱のフィクソでさえ攻める時が一番強いときたもんだ。
「おにぃ。私が守備しよっか?」
「うーん。それはなぁ……」
たしかに凪ならまだマシかもしれない。でも、本当にマシってだけなのだ。それに凪はぜひ攻撃で使いたい。それにもいくらか込み入った理由がある。
そもそも、俺がなぜ最寄りの敵について1対1の守備をやるマンツーマンディフェンスじゃなく、それぞれで『守る領域』を担当して守備をするゾーンディフェンスをやりたいのか。
正直、前者の方が簡単。だが、これだと実力差があまりにも出やすくなるんだ。
マンツーマンは、要は攻撃と守備のガチンコ勝負。実力差が顕著に出る。俺達初心者集団は練習試合でとある強力な選手たった一人に抜かれまくるという痛い目を見ている。
逆にゾーンディフェンスは全員が一体となって守備をするから個人の実力差をチーム力で埋めることができる。
イメージとしては「城」。攻めてくる敵に対して守る場所を決めてどこからでもガッチリと守る感じだ。
ただ……これがとにかく難しい。特に初心者には「守備の感覚」が意識しづらい。
自分がどこにいるべきなのか、相手がこう来た場合自分はどうするべきなのか、というところが一瞬で判断できないのだ。
フットサルはとにかくプレースピードが速いから結局はここら辺を臨機応変に変えていくしかないけどな。つまり、そのためには選択肢としてちゃんと自分たちの中にないといけない。
(やっぱり6人じゃダメなのか……?)
あと一人。守備の統率をやってくれるすげー奴。
たまたま小学生で、たまたま近衛学園にいて、尚且つたまたまこのチームに入ってくれる。そんな奇跡起きるわけないよなぁ……
「くちゅんっ!!……どなたか噂でもしているのでしょうか」
柊雪姫は口元を押えて小さなくしゃみをする。
彼女は部活には入っていないので今は下校中だ。
「それよりもここ、どこでしょうか」
なのに、なぜか今は近衛学園の屋上にいたが……




