☆③─6話 サルと最新てくのろじ~
~近衛学園初等部体育館~
初等部と高等部。どちらもが放課後になったこの時。フットサル部の活動は始まる。
高等部組の俺達が体育館に入ると、もう初等部組──チームメンバーの皆は準備完了していた。
やっと来た! と皆それぞれ顔を明るくするが……俺の後ろの方を見て一様に困惑することになった。
「かんとくがオンナつれてきたー!」
チームの元気印でもある亜子が俺の後ろについてきていた綾瀬を指さして真っ先に叫ぶ。ああ、お前ならそういう反応すると思ってたよ……
「楓さん……その、か、彼女さんでしょうか……」
「この豚! さっそく部活を私物化しやがったわね……」
「おにぃわざわざ死にに来たの?」
舞依はしょぼーん……と顔を沈ませ、詩織は豚罵倒ロケットスタート。我が妹に関しては殺害予告だ。話聞いてよ頼むから……
「えー、なんとありがたいことに我が部にマネージャー志望で来てくれた『綾瀬秋乃』さんだ。監督の俺と、ここにいるなんちゃってマネージャーの白戸の友人でもある」
「よろしくお願いします」
綾瀬はペコリと丁寧に頭を下げる。
それを見た小学生達はわーっと綾瀬に集まった。
「やったー! マネージャーげっとぉ!」
「白戸さんだけだと大変だと思っていたので良かったです」
「しんじんさん。ここはいいところだよ」
亜子、愛実、なゆちゃんの三人は新しい仲間というわけでいきなり好感触なのか、笑顔で迎えてくれていた。よかったよかった。亜子はこういう時頼れるし、愛実はチームのことをいつも気にかけてくれるし、なゆちゃんは今日も天使だぁ……
「彼女さんじゃ……なかったんですね」
「こんな豚に彼女なんて早々できないことを危うく忘れかけてたわ」
「おにぃってすぐそうやって妹を試そうとするんだから……」
そんな子達とは少し離れてまたもや三者三様の反応を示す彼女ら。
舞依の言う通り彼女じゃないし、詩織の言う通り残念ながら根暗の俺を第一印象で高評価してくれる人なんて存在しないし、凪はふざけたことをのたまっている。お前試すとか言いながら回答が即暴力一択だったじゃんかぁ……
と、俺が表情を歪ませて嘆息したくなる気持ちを必死で抑えていると横から白戸が肘をついてくる。
「誰がなんちゃってマネージャーって?」
「誰のことだろうな」
「なんちゃって人間のあんたに言われたくないんだけど」
「間違いなく100%確実に、俺は人間なんだが」
「ボールペンでテスト受けてたからてっきり進化し損ねた類人猿だと思ってた」
「与えられた道具で精一杯頑張る。立派な人間の証じゃん」
「いやそれ猿でもできるから」
「ウッキッキー」
「きも」
こいつと話してると一々イライラするからいかん。俺は猿ではなく脳みそたっぷりあるちゃんとした人間だから無駄なことで怒らずにサッと引くことができる。偉いぞ俺。
「あ、なんかあんたの父さん来たよ。珍しい」
「おい俺の自転車返せコラァ!!」
その憎らしい姿が目に入ると途端に俺は醜い猿に成り果てる。こいつを相手にしていつも通り人間でいられる方がどうかしているのだ。
「おっ、今日もやってんなー。感心感心。あとそこの怒り狂った猿はどうした。飼育小屋からでも逃げ出してきたか」
「俺の自転車勝手に盗むからこうなってるんだろうが……!」
父さんはプッと笑った後に「ほらよ」と自転車の鍵を投げ渡してくる。やっぱり予想通りこいつが持ってたか。
「それよりお前らにプレゼントだ。こいつがなきゃ話にならんだろ」
そういって父さんは全員を集め、小袋を差し出す。
中身を確認すると……そこにはいくつかのアイテムが入ってあった。複数の、カードとリストバンドと小さな数ミリ四方くらいのシールのようなもの。
実は……それらは今の時代、大会に参加するための必要なものであった。
まずは……カード。
「わぁっ。ちゃんと私のカードになってます!」
「写りはまぁまぁね」
今この子達に配ったのは「フットサルIDカード」。先日、このフットサルチームのメンバーで写真を個々で撮ってフットサル協会に申請しておいた。
どうやら今の時代、公式試合に参加するためのメンバー登録にはこれが必要とのこと。試合開始前に審判が所有しているカードリーダーにこれを通した者だけがその試合に参加できるらしい。
だから失くすと大変だし、そもそもこれを作っておかないと大会に参加できなくなる。
今まで近衛学園初等部女子フットサル部が「フットサルランキング」に存在しなかったのはこれの登録がなされていなかったからとのこと。
「はい! これは楓さんと夏月さんのですっ!」
俺と白戸は舞依からIDカードを受け取る。
そう。このIDカード、なんと監督とマネージャーの分まであるのだ。つまりは俺達でさえもこのカードで登録しないと試合に一切干渉できなくなる。
(写真……もうちょっと笑っといた方が良かったかな)
俺は自分のIDカードを見る。何か嫌なことでもあったのかと聞きたくなるくらいに暗い顔だ。あんまり写真撮られるの好きじゃないからこういう時の表情には困る。
「か、楓さんよく写っていると思いますよ……」
「そのカード一瞬黒塗りされてたのかと思ったわ」
舞依と詩織は俺のカードを覗いてそんな感想を。
無理しなくていいぞ舞依。目が泳ぎまくっている。詩織はあれか、それだけ俺が暗いってことが言いたいのか?
次に俺達が手に取ったのはリストバンドとシール。
これは試合時によほどの理由がない限りは着用しなければならないとされている。シールも耳の裏あたりに貼っておかなければいけないらしい。なんじゃそらと。
それもなぜかというと、これまたハイテクなものでリストバンドには着用した選手の脈や心肺機能の動きを測るといった機能、シールには選手の脳波を測るといった機能のマイクロチップが埋め込まれているんだとか。
なんでそんなもの測らないといけないのってのは、「フットサルランキング」の作成に使用すると説明書に書かれてあった。
相変わらずこのランキングはどういう基準で選んでいるのか不明だが、俺は難しい話はよくわからないのでスルーしておく。そういうものなんだなーと。




