☆③─2話 鮮烈のスノーダスト!!
だが、そんなことはせめて今日以外にしてほしかった。テストがある今日だけはマズイだろ。
使えない移動手段をいつまでも惜しんでいても仕方ない。最早、走るしかないのだ。もう間に合わないだろうけど……。
走りだすと、頭の中は間に合うかどうかを諦めてしまったのか、ふとテストのことよりも他のことを考えてしまう。
(とうとう東京予選が始まるんだよな……)
全国大会の始まり。
今のフットサルの大会はかなり特殊なものとなっている。
大きく分けて「全国女子小学生フットサル大会」と「それ以外の大会」の二つ。
俺達が目標としている前者はなんとほぼ1年間を通して行われるとんでもないものだ。
5~6月──それぞれの県内で行われ次のステージへ進めるかどうかを振るいにかける「県予選」。
7月──地方ごとに行われ地方ごとの代表を決める「全国予選」。
10月~11月──全国から数々の戦いを潜り抜けて集まった強者たちで争う「全国本戦」。
そして……1月。
本戦で生き残った四校で行われる「全国決勝トーナメント」。
この四つのステージを戦い抜き最後に勝ち上がったチームこそがその年の最強のチーム。
いくら最大のものとはいえ、まさか1つの大会に1年間丸々使うと聞いた時は何だそれはと驚いたものだが、今の「フットサル協会」の偉い人が言うには「成長性も強さを決める一因である」と。
故に、その1年間でどれだけ強く、どれだけ成長できたかを競う大会でもあるのだ。
そして、その第1関門がそろそろ幕を開ける。
この壮絶な戦いが始まるんだ……!
と、頭の中でカッコつけているが今はテストに遅刻するかどうかの瀬戸際。あの子達より俺の方がピンチである。
早く学校に行かないと──
「あの、そこの人」
必死に走っていると、途中で横切った少女から狙いすましたように声をかけられる。
襟首でも捕まれるかのように、それは俺の意識に強く引っかかった。か細いけれど、綺麗で透き通る声だったからだ。
まるで、走って熱くなった俺の肌を突き刺す冷たい氷に感じられた。
声の方を振り向くと、
「…………!!」
つい、見惚れてしまった。
冬の雪を連想する白い肌。色素が薄い体質なのか黒というより灰色に近い目立つ長髪に、濃い黒のリボンを付けている。氷の結晶のように透明なガラス細工かと思ってしまった瞳。最近では俺の中で随分とお馴染みになってしまっている小さな体躯。
そこに立っていたのは、物語の中から飛び出てきたような幻想的な容姿をした美少女だった……
「あの……」
「あ。あぁ、悪い。何だ?」
いかん。俺は見慣れているせいでわかるが、この子はうちの初等部の制服を着ている。小学生に見惚れてたらロリコンに関して言い逃れなんてできないぞ。
それにまじまじと見つめるのも失礼だ。この子は少々目立つ容姿をしていても、中身は普通の小学生なんだからな。
「近衛学園までの道を教えてほしいのですが……」
「…………」
前言撤回。まさかの、迷子だった。
通学路で学校を見失うってどういうことだ……?
いや、待て。転校してきたばかりの子か。俺だってこの前までそうだったんだ。そんな子が道わからないなんて当たり前だよな。
可愛いもんじゃないか。何回も学校への道を通っていくことでゆっくりと覚えていくんだよな。それがまた「自分が環境に馴染んできた」みたいで面白くもあるんだ。この子もきっとそうなる。
「最近引っ越してきたのか? 実は俺も1ヶ月前くらいに来たばかりなんだ。よろしくな。近衛学園は友達想いの良い子たちでいっぱ──」
「いえ、引っ越してきた者ではありますが、それは半年ほど前です。毎日登校もしてますから近衛学園のことは存じ上げております」
近衛学園歴俺より先輩じゃん……
おかしいな。半年から毎日ってもう何回も学校通ってるはず。
「は、はは……徒歩で通学は初めてだったか。俺もいつもは自転車で──」
「毎日徒歩ですが」
「…………」
もうどういうことだってばよ。幻術にでもかけられているのか俺ってばさ。理解の範疇を超えた出来事が今、目の前で展開されているんだが。
「いつもどうやって学校行ってるんだ……?」
「見える道を適当に歩いて行って」
「歩いて行って?」
「それを何度も繰り返しているとたまに運よく学校に着きます」
そんなすごろく感覚で通学してる子初めて見たぞ……。「運よく」……って何?
「さすがに道を全部覚えてないわけじゃないだろ? どこまでだったらわかる?」
「はい。例えばあそこを左に曲がって真っすぐ進めば十字路が見えてくるというところまでは覚えています」
「十字路なんてないし、そこを左に進めばコンビニに入店することになるんだが」
すぐそこに「左に曲がればコンビニあるよ」って看板あるじゃん……。
こ、この子とんでもない方向音痴だ…………!!!!
俺はつい瞼を抑えて今の状況を頑張って呑み込む。そんなことをしている暇はないけども。
「じゃあ一緒に行くか。悪いけど俺は急いでるから走ってくれるか?」
「ありがとうございます。ええっと、」
ん? ああ、
「俺は『桜庭 楓』。君は?」
「はい」
「『柊 雪姫』と申します。よろしくお願いします楓様」
やはりお金持ちの子が集まったりする近衛学園初等部。この子の良いとこのお嬢様だったりするのか、雪姫はペコリとお辞儀をして、こちらにニコリと笑った。
それにしても楓様、か。もうツッコミ疲れたからいいけど。よっぽど箱入りの子なのかね……




