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すぴーどすた~☆ ~近衛学園初等部女子フットサル部~  作者: 四季 雅
第1章 ☆チーム結成編!☆
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☆②─30話 フットサルを奪うな!!!!



 これで話は終わりだとばかりに宇津木の父さんは腰を上げようとする。



「待て! 俺は絶対にこいつを見捨てたりなんかしない。何があっても守る! だから退部だけは……!」


 このままでは終われない。何も変わっていない。諦められないと、俺が近づこうとすると……



「いい加減にしろ」



 ずっと横に控えていた部下の男─杉崎喜一が楓の胸蔵を掴んで止める。



「部外者は引っ込んでろよ……!」


「なら、お前こそ引っ込め」



 次の瞬間、バヂンッッ!!!! と爆発したような音と共に強烈な痛みが顔面に走った。




 喜一は楓に容赦なく平手打ちを食らわせた。




 目がグルグルと回り頭がクラクラとする。



 ボタ……ボタタ……と血が畳の上に落ちる。みっともなく鼻血を出していた。



 たまらず宇津木は悲鳴のような声を出す。



「いッ……てぇ……!」


「オヤジが帰れと言ったら帰れ。元々、不法侵入だろお前」



「ぐ……退部を取り消してくれ……! 頼む……!」



 まだ抵抗をやめない楓にもう一発、




 バヂンッ!!




 平手打ち。またも血が飛び散った。



「帰れ」


「帰ら……ない! 聞けよ! おい! 宇津木を、フットサル部に戻してくれ! あいつから……フットサルを奪わないでくれ!!」




 もう一発。また一発。さらにもう一発。



 これ以上やれば死ぬんじゃないかというくらいに殴り倒した。



「やめて! お願いだからもうやめて!!」


「お嬢。危ないですから下がっていてください」



 詩織は泣きながら喜一を止める。それでも止まろうとしない。




「お、まえ……こいつの……、使ってるボール、見たことねえだろ。バカ、みたいに……汚れてて、まだ、少ししか経ってねえのに、すげぇ使い込まれてて、チームで、一番、死ぬほど……! 努力、してる奴なのに! お前がそれを否定すんなよ! お前だって宇津木のこと何も見てねェじゃねえか!!」




「てめぇオヤジに向かって……!」



「おま……えの、やってることが、そのクソ監督と、何が違うっていうんだ……! 周りの環境が宇津木にフットサルをさせようとしないんじゃない……! まだ何も起こってないのにビビってんじゃねえよ! お前自身が、宇津木からフットサルを奪ってるんだ! 返せよ……! 返してやれよ!! お前が変わろうとしてなくて同じ過ちを繰り返そうとしてるくせにカッコつけて被害者ぶるな!!」



 楓がそこまで言った時、源十郎は喜一を押しのけて彼に迫った。


 (ふところ)からある物を取り出して楓の額に突きつける。



 それは……「()()」だった。



「は……? なっ……ん……!」



「すまんな。最近耳が悪くてよく聴こえなかった。あと()()()()()()言ってくれ。そしたら聴こえるかもしれない」



 低い声がさらに低くなり、もはや獣ではない。それは猛獣。


 あとほんの少しだけ刺激すればそれはこちらの首を確実に噛みちぎってくる。そんな獰猛な迫力があった。


 楓もまさかこんな物が出てくるとは思ってなかった。口をパクパクさせながら、銃口を覗いて体を震えさせる。



 ゴリ……ゴリッ……と銃口を額に押し付けて、後退させていく。



「どうした? さっきからなにかベラベラ喋ってただろ。もう一度言ってみろほら。次はちゃんと聴いてやる。それとも……気のせいか?」


 宇津木源十郎を完全にキレさせてしまった。口調も、変化している。



 今になって何を相手にしていたか理解する。

 どこまでいってもきっと大丈夫という安心はここに来て崩れ去る。



「気のせいなら何もなかったことにしてやる。どうなんだ?」


「あ……ぁ……」



 あまりの恐怖に声が出ない。今まで何を調子に乗っていたのかと激しく自問する。


 い、いや、待て。日本は銃刀法……みたいな感じの……ほら、なんかで許可なく銃とか刀とか持っちゃダメなんじゃなかったか? つまりこれは玩具のはずだ。本物じゃ─


「本物かどうかは返答次第でわかるから安心しろ」



 100%本物じゃねぇか……!


 ダメだ。怖い。怖すぎる。どうしたって声が出せない。今すぐ退部を取り消せと言ってやりたいのに。歯はガチガチ鳴るし、脚は震えてる。な、情けねぇ……クソ……!


 ここまでか。越えちゃいけない一線はあったんだ。アドレナリンみたいなものもなくなって頭が急速に冷静になってしまった。歯向かう勇気が完全になくなった。



 わ、悪い宇津木……! 俺はもう……!





 その時、宇津木の顔が視界に入った




 それは……泣きそうな顔で、諦めたような表情で、その目に絶望に近い暗い色があった。




 俺はこれを知っている。これは……



 サッカーを辞めることになった俺。



 そして、爺さんと話し合いになった日の……あの時の、舞依だ。





 それを見た瞬間に、再び熱い何かがこみ上げてきた。





「取り消せ……ってさっきから言ってるだろ」


「む?」



「宇津木の退部を! 取り消せって言ってるだろ! あいつは、最強の司令塔で! 俺たちにとってかけがえのない仲間だ! そして俺は、仲間を見捨てたりなんか絶対にしない! だからな……、もう一度よく聞いとけ……」


「……!」






「あいつから、フットサルを奪うな!!」





 むしろこっちから額を銃口に押し付けてやる。撃てるもんなら撃ってみろよとも言うくらいに。

 もう弱腰なんか見せたりしない。俺はこの子の監督なんだ。引っ張っていく存在なんだ。





 だったら、この子の前でくらい、カッコつけなきゃいけねえだろ!





 さぁ……言いたいことは全部言ってやったぞ。あとはもうどうにでもなれ。


 でも、頼むから弾は出ないでくれぇ……!



 必死に震えを押さえながら宇津木の父さんを睨みつけ続けて返答を待つ。



「…………」



 何も、言わない。ただ黙っている。


「オヤジ……?」


「……」


 もう何度目か。目を伏せ、思案している。その心の内には何があるというのか。



 そこからたっぷりと30秒ほど経った頃だった。



 自分の目の前に突きつけられていた銃口が突如として下げられる。


 そして……








「……すまなかった桜庭楓。いや、()()()()。無礼を働いた後で申し訳ないが、今をもって私の娘である宇津木詩織のフットサル部からの退部を…………取り消させてはもらえないだろうか」





 荒々しかった口調は元の丁寧なものに戻り、宇津木源十郎は楓に対して頭を下げた。



「へ……?」


「オヤジ!?」



 急に何が起こったのかまだ事態を飲み込めていない。どうしてこうなったのか。


 いやいや、もちろん一番望んでいた展開ではあるのだが。あれだけボロクソ言っておいてそっちが謝ることになるとは思ってなかった。



「やめてくれオヤジ! 一体どうしちまったんだよ! こんな奴に頭を下げるなんて……!」


「てめぇ……カタギの人間に手ェ出しておいて謝ること1つすらできねぇのか!」


「うっ…………」



 喜一の顔が青ざめる。下を向き、苦虫を噛み潰した顔をした後に……楓を見て、頭を下げた。


「この通りだ楓くん。どうかここまでの無礼を許してはくれないだろうか」


「そ、そんなの全然! っていうか無礼云々の話なら俺もっとヤバいことしてますし……」


 そんなことよりまったく話がついていけてないぞ。


 どうして宇津木の父さんは考えが180度も変わるようなことになってしまったんだ。



 俺と宇津木は顔を見合わせて首を傾げる。

 しかし、深く突っ込んでまた考えが変わっては元も子もない。ここは黙っておこう。



「って、あんた鼻血すごいことになってるわよ……」


「え……うおぉ! シャツが血だらけだ……」



 今日ここへは真っ白なシャツで乗り込んできた。だが、どうだ。今は真っ赤なシャツになってしまっている。どんだけ鼻血出したの俺……。


「喜一」


「はい……」


 源十郎の指示ですぐに喜一は楓の傷を()ようとする。

 楓はボコボコのまま帰っても家族に心配されるため(父は笑いそうだが)、手当てしてくれるのなら素直に面倒見てもらおうと、



 ……思ったのだが、



 グイッ



「……ん?」


 宇津木が、俺のシャツの袖を引っ張る。救急箱を用意した喜一の下へ行かせないようにしている。


「おい。ボコボコの顔のまま帰れってことかよ? それはひどくないか。このままじゃお前の監督が妖怪扱いされて東京七不思議の一つになるぞ」


「ち、違うわよっ…………」


「じゃあなんだよ。早く言え。ほら、ほら、ほら」


「~! さっきからあたしが診てあげるって言ってるでしょ!」


「お前がいつそんな言葉を発したんだよ! テレパシーでも使って喋ってんのか!」


 そんな高等すぎる会話テクニックを駆使されたところで、宇津木は勝手に喜一から救急箱を引っ手繰った。


「あ……お嬢……」


「やらせてやれ」


 喜一はそんなことをやらせるわけにはいかないとすぐに取り返そうとするのを、源十郎が止める。


 宇津木は俺のシャツの袖を引っ張ったままどこかへ連れていく。



「どこ行くんだよ」


「あたしの部屋」


「なんでわざわざ移動するんだよ」


「だ、黙りなさい」


「へいへい」


 やっぱりどこまでいっても生意気なままのお姫様だ。


 まぁどこでもいいや、と呑気に引っ張られるままトコトコ歩いていたら。



「おい! いたぞ! あいつだ!」


「は? あ……」



 そういえば俺はここに侵入してきた奴であって、この屋敷中では今も桜庭楓絶対殺す包囲網が張られていたのを忘れていた。


 宇津木の静止が通じるまでしっかり複数人からボコられて罪をきっちり清算してしまった俺。もう二度とこの家に来るもんか。


 引きずられるようにして二階に上がったところで偶然にも宇津木の妹である宇津木伊織と遭遇する。



「うわ……ゆーれい!」



 はい。俺の顔を見るなりこれだ。



「これは悪い幽霊じゃなくて根暗の幽霊だから大丈夫よ」


「そ、そっか……」



 根暗の幽霊ってなんだよ。


 あと安心するな。まず姉ちゃんと幽霊が一緒にいることに疑問を持て。お前の姉ちゃん霊媒師か。



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