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すぴーどすた~☆ ~近衛学園初等部女子フットサル部~  作者: 四季 雅
第1章 ☆チーム結成編!☆
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☆②─27話 悲鳴をあげている君の本音



 土曜日。

 俺は宇津木の家を舞依たちから聞いておいたのでさっそく向かった。



 宇津木の家は……感想で言えば時代劇の中にタイムスリップしたかと思った。


 身長の数倍あるくらいのでっかい門がこちらを威圧してくる一目見てわかる通りの和風建築の超豪邸。絶対庭とかに竹がカーンとか鳴らすやつがある家だ。あれ名前なんだっけ。



 そんなことはいい。

 どうせ真正面から訪問しても居留守を使われるか「帰れ」って言われるだけだろうな。だからといって他の奴と話したってまた殴られて終わりがオチだ。



 作戦はたった一つ。シンプルだ。

 門から出てくるところを突撃するしかない。



 実際に会ってしまえば居留守なんて使えないし話の一つくらいは聞いてくれるかもだ。その代わりボコボコにされるかもしれないけど。


 というわけで今は宇津木の家から少し離れているコンビニに張り込みまがいのことをしている最中だ。離れていようがここからでも入口の門は見える。こういう時にデカい家って助かるぜ。

 ……なんだか来栖谷にこっそり偵察行ったり、さらに今回でどんどん不審者感が増してきている気がするが……もう今更だ。気にしてられるか。




 コンビニの中で突っ立ってるだけでは怪しい人物なので動きがあるまではフットサル関連の雑誌でも読むとするか。ちょうどいい。情報収集だ。


 俺は本棚のコーナーに置いてある「月刊フットサル」を手に取る。


 これは近年、急速に人気を増したフットサルというスポーツ……そのあらゆる年代の情報をギュッと詰め込んだ雑誌。有名校や有名選手になればここにインタビュー記事として取り上げられたりする。


 今の時代は大会で優秀な成績を出せばテレビにだって出演したりするのだ。もはや強いフットサル選手というのは小学生だろうとスターのような扱いである。


 「月刊フットサル」の小学生ページを捲っていく。


 なになに……



 ☆今回の特集はこれ!☆



 ・『【前代未聞!?】 全国チームランク1位のチームにまさかの無名の5年生が超大抜擢!? 真相を探るべく個人ランク1位のあの選手に直撃インタビュー!』



 ・『【世界ランカーが!?】 今年、外国人選手を大量投入した学園が! 世界ランキングのあの選手やこの選手がとうとう日本に!?』



 ・『【消えた若き天才】 突如として表舞台から姿を消した全国個人ランク7位「絶対零度の白雪姫」……彼女は今どこに!?』




 ふむふむ。俺が知らないだけでフットサルの世界はニュースに溢れてるんだなぁ。

 どうやら今年の全国大会は不運にもとんでもないレベルにまで跳ね上がっているらしい。これは負けてられないな……!



「! とうとうおいでなさったか……」


 宇津木の家の門がゆっくりと開いていく。

 俺はそれをこの目で確認するとすぐにコンビニから駆け出した。



「すみません!」


 急ぎ爆走して向かった先、門から出てきたのは紋付(はかま)を羽織った大男と周りを固めるイカつい何人もの男たちだった。


 誰が宇津木の父さんかは一目瞭然だ。

 袴の大男は獅子のような雰囲気を持つ。近づくだけで食い殺されそうな威圧感だ。


 一足大地を踏むだけで世界が振動しているかと錯覚する。

 その目は相対する者を視線だけで気絶させられるんじゃないかってくらいに怖い。



「ガキぃ! どこのもんや!」


「オヤジに何の用や!」



 と思えば、一瞬にして周りの男が宇津木の父さんを俺から隠す。



「宇津木……し、詩織さんのことについて! 俺はフットサル部の監督です! 少しだけでもいいので話を!」


「なにを喚いとんじゃこら!」


「お願いです! 彼女をフットサル部から引き離さないでください!」


「ちったぁ黙れ!」


 俺が気にせず叫んでいると部下の男に勢いよく突き飛ばされる。尻を強く打って目も回る。

 宇津木の父さんは一切俺のことを見もしない。


「お願いします!」


 俺はもうやけくそになってその場で土下座する。こうなりゃ話を聞いてくれさえするならなんだってしてやるぞ。


「……」


 が、それでも俺のことを無視。視界に入った羽虫のごとく。ただ避けるだけ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 話だけでも……!」


 まったく取り合ってくれない。俺は焦って宇津木の父さんに向けて走り出すが、すぐに羽交い絞めにされる。


 結局、姿が見えなくなるまで地面に組み伏せられて終わった。俺を押さえていた男たちは一睨みした後に宇津木の父さんの元へ戻っていった。



 甘かった。話どころか気にもしてくれない。これじゃ舞依の爺さんが可愛く見えるぞ。



 どうすりゃいいんだよ……!






「人の家の前でなに座り込んでんのよ豚」



 え?



 高い声に鋭い刃のような言葉。こ、これは、間違いようもない。


「宇津木!」


 宇津木詩織だった。


 こちらを不機嫌そうに見下ろす小学6年生。この高飛車具合、心なしか久しぶりに見た気がするぜ。


「あんた……まさかパパと無理やり話しようとしてたわけ?」


「ぐ……悪いかよ。俺はバカだからな。こんなやり方しか思いつかん」


「その通り、バカね。さっきみたいに普通に会っても無視されるに決まってるじゃない。それに、パパが1人で出歩くとでも思ったの?」


 (たしな)められた子供みたいに居心地が悪くなる。説教かよ。こっちはお前のために色々やってんのに……。


「つーかお前……フットサル辞めたいだなんて嘘なんだろ。お前の妹に聞いたぞ。ボロボロのボールと一緒にな」


「……伊織の帰りが遅かったのはそういうわけね」


 宇津木は腕組みをしてフーっと息を吐く。

 まったく小学生っぽくない仕草だがこいつがやるとそこまで変じゃないのがおかしなところだが……



「いい加減、教えろ。お前なんでフットサル辞めなきゃならないんだ」


「……別に、何も特別なことじゃないわよ」



 宇津木は俺の横にペタンと座る。

 俺がしつこく聞いてくるおかげでやっと観念してくれたみたいだ。



「あたしの家のことは知ってるでしょ」


「ああ、ヤクザだろ」


「……もうちょっと言葉選んだらどうなの? 極道、よ」



 グサッと肘で脇腹を打ってくる。痛ぇ。あとそれの何が違うんだよ。同じだろ。


「あたしも将来は組のためだとかそんなことで今から色々とやることがあるらしいの」


「は? お前小学生だろ。今からやっておくことってなんだよ」


「そんな詳しいこと言えるわけないでしょ。でも、パパはフットサルなんてやっている時間はないって言ってるわ。だから今すぐ辞めなさいって。それで……組の事務所があるところに転校することになったのよ」


 クソ……最悪だ。転校、かよ……!

 どうにも信じがたいが……宇津木が言うにはそういうことらしい。



 ……小学生なんか遊ぶのが仕事みたいなもんなのに。何をやらなきゃいけないのか知らんがこいつも忙しいんだな。


 だが……何かおかしい気もする。

 俺はよく知らないが、父親が自分の娘をそんな危ないことへ積極的に関わらせたりするのか? 普通なら極力関わらせたりせず、ヤクザをやってることだって隠したりしてそうなもんだが。


 なんだかこの話……違和感があるぞ。



「嫌なら別に組のことなんか放っておけばいいだろ。やりたいことがあるんだって言えばいい」


「そんなことしたら……()()()()()()よ」



 ん? なんでそこで宇津木妹が出てくるんだ。話がまったく見えてこない。



「もし、あたしが好き勝手に出て行けばあたしの代わりに妹の伊織の自由がなくなる。あの子だけは自由に遊ばせて、自由に生きてほしいの。だからそのためにはあたしが頑張るしかないのよ」


「なんでそこまで」




()()()()()だからに決まってるでしょ」




 ……なるほど。こいつ、妹のことが大好きなんだな。


 自分にとって一番大切で、妹だけは絶対に辛い思いをさせたくなくて。だから自分が守ってあげなきゃってなるわけだ。



「すごいなお前。俺なんか、妹に気遣わせっぱなしだっていうのに」



 つい最近、凪が何を考えてるのかようやく知れたような情けない兄な俺だ。妹のために好きなもんまで我慢するなんて誰にもできることじゃない。すげぇことだよ。



 だけど……



「お前も、同じくらい可哀想だと思うけどな」



「あたし?」


「せっかくすげーハマれるもん見つけて。これからって時に諦めさせられて。そんなの可哀想に決まってるだろ」


 俺だって少しくらいはその気持ちがわかる。サッカーやりたくてもできないんだから。

 仲間もいないし、トラウマのせいでもうサッカーをやれる体でもない。



 でも、そんな俺だから言えることがある。



「我慢できるのなんてな、今のうちだけだぞ。失くした後はずっと後悔し続けることになるんだからな」


「……」


 そう。我慢できたと思っても、それは「後悔の先延ばし」に過ぎない。


 もう二度と戻ってこないんだと知ってしまった時、


 「どうしてあの時もっとこうしなかったんだ」



 「もっと上手くやれたんじゃないか」、



 「時間が巻き戻ればいいな……」って思っちまうんだ。



 そうなったら……辛いなんてもんじゃない。ずっと苦しむことになる。俺のように。



「ふん。余計なお世話。言ったでしょ。フットサルはもう飽きてたのよ。辞めたいと思ってたんだからちょうどいいとしか感じないわ」



 宇津木はそっぽを向く。


 そうか。こいつが嘘をつき続ける理由がちょっとだけわかったかもしれない。



 こいつは……「フットサルを辞めたかった」と自分に言い聞かせてるんだ。



 だってそうしないと辛いから。耐えられないから。

 でも、妹のために辞めなければ、妹の自由が無くなるだけ。



 だから必死に「フットサルを嫌いになった」「フットサルなんかもうやりたくない」って言い続けているんだ。



 それを聞いて、俺は……



「……そうかよ」



 立って、その場から去ろうとする。




「え……もう帰るの?」


「ああ。ここにいても意味がないしな」


 地面に座っていたことで汚れた尻をパンパンと手で払う。



「ず、随分とあっさりしてるわね。てっきりここから説得の嵐でも来るかと思ったわ」


「そんなことしねぇよ。だってお前……フットサル辞めたいんだろ?」


「……ッ!」


「なんだか必死にやってるのがバカらしくなってきたんだよ」



 宇津木に背を向ける。もうお前のことは放っておくぞ、と言うように。



「な、なによその言い方……手の平返したみたいじゃない……」


「俺は根暗だし、そんなに性格良い奴でもないしな。『フットサル飽きた』なんて言ってくる奴のことまでわざわざ助けようとなんか思わないってだけだ」



 俺は宇津木のことなんか気にせず勝手に歩き出す。

 宇津木は焦ったようにその場から腰を上げる。



「あ、そうだ……心配しなくていいぞ。お前が抜けてもメンバーは5人になったし試合はちゃんとできる。司令塔は……そうだな……よし、なゆちゃんにでもやらせてみるか」


「!」



「お前と違って超可愛くて素直に言うこと聞いてくれる大天使だし、こっちとしてもやる気が出てくるしな。この際、最強の司令塔に育ててやる。どっかの豚豚言ってくる奴よりも強くな」


「……なんで、そんなこと言うのよ」



 後ろから弱々しい声が聴こえる。




「なんで……そんな意地悪なこと言うのよ……」




 俺は宇津木の方に振り返る。


 彼女は唇を噛みしめて何かに耐えながら。プルプルと体も震えている。

 しかし、それは怒りのせいでは、ない。



「どうした? フットサル飽きたんだろ? じゃあもうお前にしつこく説得なんてしねぇよ。舞依たちにも言っておく。『もう放っておいてやれ』って。これで安心だろ?」


「……」



「俺はこのまま帰るから家の中戻っていいぞ。それで……これから会うこともなくなるしな。お前からすればそっちの方がせいせいするって感じか? まぁ……俺たちが全国大会に進んだら応援くらいはしてくれよな」


「なんで、あたしがいなくなった後の話なんかするのよ……!」



 不服そうだ。そうだろうな。

 ここまで必死になって助けようとしてきた奴が急にそんなこと言ってくるんだ。ふざけるなって思うよな。多分俺がお前でも「なんだこいつ」って思うよ。



「じゃあもう一度だけ聞くぞ。宇津木」


「え…………」





「お前、フットサル辞めたいんだろ?」


「!」




 宇津木の目を見て、真剣に、俺は問う。


 これが、最後だ。



 俺は監督だから、選手のためならなんだってやってやる。


 けど、さっきも言った通りフットサルのことを悪く言う奴なんかのために必死に頑張りたくない。それが本音だ。俺は善人なんかじゃないからな。




「そ、そう、よ……フットサルのこと、ずっと、ずっと、辞めたいって……お、思ってたわ。だから……これで、いいのよ……」



 顔を俯かせて、それだけ弱々しい声でなんとか答える。


 その答えを聞いて。俺は再び宇津木に背を向ける。



「そうか。それじゃあな」





 ぐっ。


 足を踏み出そうとした時、何かに後ろから引っ張られる。



「……」




 宇津木が、……「宇津木詩織」が、俺の服の袖を引っ張っていた。




「なんだよ」


「…………たく、ない……」


「なんて言ってるか聴こえない。もっと大きな声で言え」





「ふっと、さる……やめたく、な、ぃ……!!」





 あの宇津木が、大粒の涙をボロボロと流しながら、しがみつくようにして俺を引き留める。



「やだ……せっ、せっかく、たのしくなってきたのに……、い、いっぱいれんしゅうだってしたのに……!」


「……」



「ふっとさる、だいすきなのに……やめたくない……やめたくないよ……みんなといっしょにいたい……!」


「……」




「まだ、ふっとさる、やりたい……!!」




 いつもの態度とは真逆に、泣きじゃくる宇津木詩織を俺はそっと抱きしめる。


 そうすると彼女も抱き着き、俺の胸に顔を押し付けて「ひっく、ひっく」と嗚咽をもらしながら涙を流す。



「ったく……だったら早くそう言えっての」


「たすけ、て……くれるの?」


「当たり前だ。言っただろ」


 頭を撫でてやって、俺はとうとう最後の覚悟を決めた。




「選手のためなら、なんだってやってやるって」





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