☆②─23話 バラバラの心
と、まぁそんなことがあった。
全国で優勝とか言う前に、俺たち近衛学園フットサル部にとっては関東予選こそが最難関と言っていいのだ。
少しキツイ言い方をすれば……『勝利のルート』を使っていた中学時代の俺からすれば今のフットサル部はあまりにも弱すぎる。おそらく数分あれば試合を決着できるほどの点差をつけられる。
しかし、裏を返せばその時の俺でも手強いと思わせるほどに鍛えることができれば……『勝利の瞬間』を使うという天下原乃蒼にも充分勝てる可能性はあるというわけだ。
そのためにも……
(今のフットサル部には……お前が必要なんだ。宇津木……!)
飯を食い終わると自室に戻る。そこには俺以外にももう一人の影が。妹の凪だ。
これは凪が勝手に部屋に入ってきた……わけではなく、俺が呼んでおいた。
「凪。おにぃからお前に極秘のミッションを与える」
「うわ……なんかすごい嫌な予感」
部屋に呼んだ時は明るい顔してたのにもう嫌そうな顔してるよ。だが、時すでに遅し。俺の部屋に入った時点で逃がしはしない。
「宇津木は家の事情でフットサル部を退部したわけだが、その家の事情っていうのをそれとなく探ってくれないか?」
「えぇ……普通に失礼じゃないそれ?」
「失礼なことは俺も承知してる。もう正攻法じゃどうにもならないところまできてるんだ」
「うぅ~……」
凪は嫌そうな顔のまま唸る。せっかくの可愛い顔が台無しだ。兄としては心苦しいが致し方あるまい。
宇津木をどうにかするのならばまずは詳しい「理由」を知らなければいけない。色々と無茶してフットサル部に戻すにしてもそこからだ。
「じゃあ……またおにぃが私とデートしてくれるなら─」
「よし、この話はなかったことにしよう。もう自分の部屋に帰っていいぞ」
「はやっ!! なんで断るの! おにぃにとって良いこと尽くしじゃん!」
「デメリットの方がどう見ても大きいんだよ! 桜庭家の兄は妹とイチャイチャしてるなんて噂されたら外歩けねぇだろ!」
「よそはよそ! うちはうち!」
「お前そればっかじゃねぇか! その言葉使うの禁止!」
そこから10分くらいギャーギャー言い争ってなんとかやってくれる方向で落ち着いた。ただ代わりに明日プリンを買ってこいとのこと。あー助かった。
凪が俺の部屋から出た後、一応こいつとも話しておくかということでスマホを手に取った。
LINEを開き、チャットをする相手は……「白戸」だ。
実は先日友達登録しておいたのだ。本人はすっげぇ嫌そうな……どころか嫌な顔をして「迷惑メールとか送ってこないでよ?」と言ってきやがった。俺は架空請求サイトかっての。
時刻は21:00。寝てるか寝てないかは微妙なところ。早寝するタイプなら寝てそうだが……どうだ?
俺はチャットを送る。
『おい白戸まだ起きてるか』
まぁ無難なところだ。『起きてる』と返ってくれば『相談したいことがある』とでも言えばいい。
と、返信をしばらく待ってはみたんだが……遅い。
遅いので待ってる間に風呂に入ってもいたんだがそれでも既読はつかない。
気づいてないか寝てるかのどっちだな、と諦めていたら……ブーッとスマホが振動。これは多分、返信が来たという合図だろう。
どれどれ……と見てみると、
『うわ間違えて既読つけちゃった最悪』
と、返ってきた。最悪なのはこっちだよ。お前気づいてたけど無視してたのか?
『せめて相手が読んでるってことを意識した文を送ってくれないか。時として真実は人を傷つけるんだぞ』
『じゃあさっきまで寝てたってことで』
『お前の場合は嘘にやる気がなさすぎてより傷つくんだよ!』
『じゃあ面倒くさそうだから返信せずに無視してたってことで』
この野郎……! 本当に俺のこと嫌いなんだな……
もう今や同じチームの監督とマネージャーという関係なのだ。それが深いものとまでは言わないが、こうまで酷い仕打ちを受けるほどに希薄な関係ではあるまい。
……こんなことを気にしてもキリがないか。さっさと本題に入ろう。
『お前宇津木の家のこと知ってたよな。だったらあいつの家の事情とか詳しいこと知らないか?』
『それ今じゃなくていいでしょ。なんでここで聞いてくんの意味わかんないだけど』
早く知っておけば今から色々考えられるからだろーが! お前どんだけメッセージ既読しちまったこと後悔してんだよ。
だがここで俺がキレても話は進まない。我慢。我慢だ……!
『頼む知ってるなら教えてくれ』
既読は一瞬でついた。あとは返信を待つだけ……
待つ……だけ……
~30分後~
「あいつ……既読無視しやがった……!!」
☆
「おい」
「なに」
後日。学校に着くと白戸がなんの申し訳なさもなく机で寝てやがったのでさっそく昨日の件を突っ込ませてもらうことにした。
「お前昨日既読無視したよな」
「ごめん。寝落ちしちゃった」
「…………それ、嘘だろ」
「…………」
「なんか言えよ……」
はぁ……もう溜息しか出ないな。まぁ良い。いや良くないけど。
「なぁ宇津木のことで知ってることあったら教えてくれ」
さすがにこうして対面していれば反応くらいしてくれるだろう。それでもこいつの場合は寝たふりして無視とかするので油断ならないが。
「……そもそもさ。なんでそこまでするわけ」
「は?」
「別に放っておけばいいでしょ」
な、何言ってんだよこいつ。
「そこまでするって言われても、そもそも俺をフットサル部に誘ったのはお前だろ。なんだよ今更」
「部員は5人いるんだし1人くらい辞めたって問題ないわけじゃん」
「問題ないってどういうことだよ!!」
俺はつい感情が高ぶって大声を出してしまう。ここは教室だ。そんなことをすれば注目を集めてしまうのは仕方ない。
それに恥ずかしくなったのと、白戸を見損なったので自分の机に戻る。
あいつはどこか冷めてるようなところはあったけど、前にフットサルの試合見た時に「面白かった」って言ってくれたりとか、試合後のパーティに来てくれたりとかでちょっとくらいは絆が出来てると思っていた。
それがなんだ。放っておけばいいって。そんなこと言う奴とは思ってなかった。
「くそ。宇津木がいてもいなくてもどっちでもいいってことかよ……」
その後の授業は頭の中がぐちゃぐちゃとしていたせいであまり入ってこなかった。




