☆②─21話 あいつじゃないと……ダメなんだ
その日の夜。家に帰って晩御飯なわけだが……今日も桜庭ファミリーは全員揃っている。
前に凪と一緒にシチュー食った記憶がまだ新しい。だが、今日はもちろんそんなことしない。というかもう一生あんなことしたくない。
なので普通に飯を食っている。その合間に今日のことを父さんに報告しておこう。
「父さん。凪がフットサル部に入ってくれた。これで部員は6人だ。試合で交代ができるようになった。フットサル部超強化だ」
「おー、そうか」
「が、宇津木がフットサル部出ていった。退部だってよ。部員が5人に戻った。交代できなくなった。フットサル部弱体化だ」
「おー、そうか」
「宇津木の家がヤの付く怖い自由業の方々だってことを今日知ったぞ」
「おー、そうか」
「んで宇津木を止めようとしたらボディーガードみたいな奴に思い切りぶん殴られた」
「ぶっはっは! ざまあみろ!」
「なんでそこ笑うんだよお前頭おかしいだろ……!」
つい怒りで箸をへし折りそうになったがここは我慢。息子が殴られて笑うという父親あるまじき存在であることは前から知っている。こんなことで一々怒ってたらキリがない。
けれどもその反応に凪と母さんはムッとする。
「おにぃは怪我したんだよ! なんで笑うの!」
「かーくん可哀想でしょ! 笑っちゃダメ!」
「おいおい誰だ笑ってる奴はー? 楓お前か!」
「なんで殴られてんの俺なのに笑ってるのも俺なんだよ意味わかんねえだろ」
父さんの変わり身の早さも知っているのでここも怒っていてはキリがない。キリがないが……ほんとムカつくわー。
「父さんの言ってたこと。現実になったな。宇津木がこうなることは本当に最初からわかってたわけだ」
「さて、なんのことだか」
しらばっくれんな。部員が減るとまで予言してたくせに。
「そうなったんなら、監督としてはどうするんだ? もう部員は凪入れて5人なんだろ? じゃあ別にあいつがいなくてもフットサルの試合はできるわけだ」
「ちょっと! そんな言い方しなくても……!」
意地悪気にそんなことを聞いてきやがった。
凪は抗議してくれるが……実は父さんの言うことは大きく外れてはいないのだ。
以前は1人でも抜けるとフットサルで戦える最低人数の5人(厳密に言うと5人ではないが)を下回ることから部員が抜けることは俺たちフットサル部にとって死活問題だった。だからこそ舞依のことはかなり致命的なことでもあったのだ。
だが、今は凪が入ったことで疑似的にこの問題はクリアしたことになる。怪我をしてしまえば4人になるからあくまで「疑似的に」なんだが。
そして冷静な判断をするなら……ここで宇津木を追うべきか追わないべきか、という話になってくるのだ。
「家の都合」という言葉は強い。俺なんかが食って掛かっても「部外者が入って来るな」と言えば終わりだ。その通りだからな。宇津木を取り戻すのは不可能に近い。
ならば、宇津木の役割であった「司令塔」を誰かに任せるという線になってくるのだ。
宇津木を取り戻す労力を払うよりも、宇津木が手にしていたスキルを誰かに身に付けさせればいい、と。
時間的にもそっちの方が助かるのでは? ただでさえ初等部女子フットサル部には時間があまり残されていないのだから。
普通に考えれば……そうなんだ。
けど、そんな冷徹な手段を取っていたのは「あの頃」の俺だ。
「宇津木じゃないと……ダメなんだ」
「……ほう?」
「司令塔はあいつが一番適役だ。今から誰かに教えたって、あいつより上手くやれるかも確実じゃない」
「それだけか?」
「性格だって司令塔向きだ。こういうことは教えたってどうにもならないしな」
「そうだなぁ。……で?」
「まぁ色々あるが……そんなことよりも」
俺は箸を置き、手を止める。
「俺……あいつとフットサル、やりたいんだと思う。それが一番の理由だ」
生意気なくせに、一番努力家で。
頭良くて冷静なくせに、試合で勝ったら誰よりもホッとしてて。
チームで一番フットサル大嫌いそうに見えるけど、一番フットサルが大好きな奴なんだ。きっと。
「でもさ、おにぃどうするの?」
凪が白飯をパクパクと食べながらそんな質問をしてくる。こら、食べ物口に入れた状態で喋るな。
「どうするも何も、舞依の時みたく無茶するしかないだろうな」
「舞依の時みたいに? なにそれ」
あ~……凪はこのこと知らなかったか。
ちょうどいい。あんまり言いふらすことでもないけど同じ家族の凪くらいはいいか。
「まぁ色々あってな。長々話すのは嫌だから簡単に話すぞ」
「うん」
「舞依の爺さんと約束して最低でも全国優勝しなきゃいけなくなった。無理なら舞依はフットサルできなくなる。以上」
「簡単すぎじゃない!?」
だから簡単に話すぞって言ったのに。これ以上は別に言うことない。あと米粒顔に飛んできたし。
「お前も災難だな。そんなチームに入ることになって」
「入れたのおにぃじゃん。いいけどさ」
文句言いながらもこいつは大会優勝に異論は出さない。つまりは付き合ってくれるということだ。なんだかんだそういう熱いの嫌いじゃないんだよな。
せっかくチームに入ったのにもう誰かが抜けるなんて辛いだろうし、凪のためにも頑張ってやらなきゃだ。




