☆②─19話 舞依VS凪!!
ある程度基礎的な練習が終わった後に各個人でスキルを伸ばしていく自由練習の時間に入った。
やることを決めて色々とやるのもいいが、選手が自分で考えて何かをするという時間も俺は必要だと思う。
最近ではインプットを得意とする子はよくいる。
言われたことをどんどん吸収していって実力をつけていく。一つができるようになれば、また次に言われたこと、そしてまた次と……。
だが、アウトプットを不得意とする子があまりに多すぎる。
学んだことを実際にやってみて、応用し、そこから新たなものを自分で生み出す。そんな「スポーツ流のアウトプット」をこなせる選手が本来理想的なんだ。
試合になれば監督が横について手取り足取りなんてのは無理なんだからな。「自分でどうにかする」という力も重要だ。
その練習ともなるのが「自由練習」。
現時点で自分に必要なものを発見して、それをどのようにして改善するかを考える時間でもあり、監督の手から離れて練習することで試合の中での「アドリブ力」も鍛える練習でもあるわけだ。
……ま、完全な放任じゃなくてちょっとしたアドバイスくらいは送るけどな。
と、皆のことを離れた位置から見守っていると……
「凪さん。私と勝負してくれませんかっ?」
「私と?」
舞依が凪にそんなことを言い出した。
連携の練習も必要だから、別に誰かと一緒に練習することを止めたりはしていないが……
凪は一瞬迷い……
「いいよ。やってあげる」
挑戦を受けた。それはいいんだが……
にしても、舞依が勝負を申し込むなんて。そんな好戦的な子じゃないから驚いたな。やはり同じピヴォとして闘志に火が付いたのか。
これはピヴォとしては嬉しい成長なのかどうか……。
一旦全員は練習を止めて舞依と凪の勝負を見ることにした。
ゴールから少し離れた場所に凪と舞依が立っている。
今からやるのはちょっとした1on1のようなもの。
攻撃側と守備側に分かれ、勝負とは関係ない外野1人が攻撃側の人にパスを出してやってゲームスタート。
攻撃側がドリブルで相手を抜くなり、隙をついてシュートするなりして無人のゴールにボールを入れれば攻撃側の勝ち。
守備側がボールを奪うか、ボールをフィールド外に出させれば攻守交替してまたパスから。いたってシンプルなルールだ。
ジャンケンして攻撃側が凪、守備側が舞依になった。
守備が得意ではない舞依は若干不利かな……と思うが、フットサルはサッカーと違ってフィールドが狭いので誰もがちゃんと守備をできるようにしておかないといけない。ちょうどいい練習の機会だ。
それに……このルールだと凪の「あれ」が見えるかもしれないな。
「それでは……いきますね」
パスの出し手に志願してくれた牧野がボールを蹴ろうと足を振り上げる。
ちなみにパスの出し方は攻撃側が選べるので、「浮いたパスがほしい」「自分が相手を振り切った時にパスを出してほしい」「ドリブルで抜きたいから相手との十分な距離を取れる場所に出してほしい」等々、色んな注文ができる。
その瞬間、凪がアクションを取った。
凪は牧野からパスを受け取るため、奪わせはしないと舞依の体を腕や背で抑える。
これは舞依が自分と牧野の間に入ろうとしてパスカットをさせないために動きを制限しようとするもの。手で引っ張ったりするとファウルなので上手く腕や体を使って自分の背後へと押さえつけるのだ。
あからさまな進路妨害もファウルになるのだが……凪は上手く体を動かして自然に舞依の動きを制限させている。さすがだ。
おかげで舞依は凪の前に出ることができない。
牧野から放たれたボールは床を弾みながら凪の足元へと進む。
このまま凪がパスを受け取る……と誰もが思っていたが、
「え!?」
凪は、パスを受け取る前にクルリと舞依の方へ体を向かせた。
つまり……転がってくるボールに対して背を向けたということだ。
パスを受け取った後にこれならわかる。
ボールを持った状態でゴールから背を向けていても攻めることはできない。相手にドリブルを仕掛けたりするために、ゴールの方へ向くのだ。
だが、まだ凪はパスを受け取っていない。それなのに向かってくるボールには目を向けず、もうゴールへ顔を向けている。
これではボールがいつ自分の足元に来るのかわからない。そうなれば上手くパスを受け取ることも難しいはずだ。サッカーやフットサルにおいて最も重要な「止める」「蹴る」の一要素をまるでバカにしているような行動である。
舞依はビックリして声をあげてしまうが……
次の瞬間、さらに驚くことになる。
ガッ!
なんと。
凪は転がってきたボールに目を向けないまま……それを踵で蹴り上げた!
ボールはポーン、と空へと上がる。舞依の視点からは凪の背から突然ボールが飛び出してきたように見えた。
そしてその宙に浮いたボールはそのまま……舞依を飛び越えていった。
これは「ヒールリフト」。
足の内側側面や踵を使い……相手の頭上にボールを蹴り上げて真後ろに落とし、それを取る。そんな形で相手を抜き去るまさに曲芸のような技だ。
呆然と自分の上を走るボールを見る舞依の背後に凪は移動。そして、落ちてきたボールをキャッチ。
舞依の背後……それはつまり、凪が舞依とゴールの間の位置にいることを意味する。阻む壁は存在しない。
そのまま凪はシュート。これには舞依もどうすることもできない。
勝負はあっさりと凪の勝ち。
しかし、これは仕方のないことだ。
さっきの、ボールを見ずに正面ではなく背面で受けながらのヒールリフトでわかるが……凪は「空間認識能力」が異常なレベルで人より何百倍も高い。
どのタイミングで自分の足元にボールが来るのかを見なくてもわかる。
だからさっき、パスから背を向けた状態でも正確に踵でボールを蹴り上げることができたのだ。
聞くところによると飛んできたボールの落ちる位置やタイミングも一瞬でわかるからパスも見ずに受けられるんだと。ほんとに小学生かよ……。
「……!」
舞依はもうビックリしすぎて言葉が出ていなかった。そりゃそうだ。こんなの初見なら誰だってビビる。
当時の中学生の俺でもビビりまくってたし、その空間認識能力のおかげでリフティングだって俺の何倍も続く。
……しかも何が恐ろしいってこいつ、「蹴った強さと当たったところでどこに落ちてくるかある程度わかるからスマホ触りながらリフティングできる」らしいからな。化け物かよ。
「凪さん……ありがとうございましたっ!」
「うん。こっちこそ」
舞依は凪と握手を交わす。ピヴォ同士の絆も深まったようだ。
勝負は一瞬で決着がついたが……これは舞依としては学ぶことがたくさんあると思う。
しかし、どうか負けたことよりもこのことから守備に関してどんどん煮詰めていってほしい。
守備はよっぽどのハイレベルなものを目指さない限りはとにかく反復練習とガッツみたいなところがあるからな。
だが……この時の舞依の胸中には別のことがあった。
(あの時に見えた『星の線』……今回は見えなかったな……)
前回の練習試合終盤。『ゾーン』が時間切れで解除されてどうしようもなくなったあの時。
突如、自分の視界に光り輝く星のような線が現れたのだ。
それは亜子のところへ伸びていき……「この線の通りにボールを蹴ると絶対に勝てるよ」と教えてくれているように感じた。
そして、それに従うと実際にその通りとなった。
あの時の全能感はすごくて、その瞬間だけは自分は誰にも負けないという気分だったのだ。
だから、あれがもしもう一度見えるのなら……と思ったのだが。
(気のせいだったのかな……)
舞依は少しだけしょんぼりしながらも……気持ちを切り替えて自由練習に集中することにした。
選手名鑑②「桜庭 凪」ポジション:ピヴォ
シュート:3 ドリブル:3 ディフェンス:3
スタミナ:3 スピード3
かつて「神に愛された少年」とまで呼ばれた選手「桜庭楓」の妹。運動能力は平均的だが空間認識能力が異常なほど秀でており、「パスを受けること」に関しては右に出るものはいない。また、容姿も目を引くものがあり、歩くだけで注目を集めたりすることもあるが本人は基本的に兄のことしか興味がないほどの残念なブラコン……。




