☆②─17話 俺がサッカーを始めた理由
少しして落ち着き泣き止んだ凪と、楓は2人で寄り添うようにして公園のベンチに座る。
「凪……フットサル部、入ってくれるのか?」
「うん。もう一度やってみる。おにぃはプレーヤーじゃないけど監督なんでしょ? 妹のこと……ちゃんと見ててね」
「おう」
「ブランクとかあるかもだから、個人練習もいっぱい付き合ってね」
「おう」
「こんな可愛い妹がいておにぃは幸せだね」
「…………」
「なんで返事しないの」
……今あからさまな誘導尋問がありましたよね? おにぃこんな卑怯な妹がいてまさに震えたよ、恐怖で。
楓は空を見上げて一つ息を吐く。頭の中で自分の過去をなぞっていく。
「…………なぁ、俺がサッカー始めた理由知ってるか?」
「? 知らない」
「お前が俺と一緒にサッカーやりたいから始めたように、実は俺がサッカー始めた理由もお前が関係してるんだ」
「え……?」
☆
それは5年前くらいだったか。
凪は昔から容姿が綺麗で、男子にちょっかいをかけられることが多かった。
おそらくそれはイジメなんかじゃなく男子が好きな子にイジワルするような、そんな可愛いものだ。
けれど凪は毎日泣いて帰ってきた。
お兄ちゃんとしてその男子に何か言ってやりたかったが、相手は4、5歳も下の子だ。泣いている小さな凪を見ていると相手もこんな風になってしまいそうで気が引けた。
それに乱暴の化身こと父さんを見て育ったので絶対にあんな風になるもんかと誓っていたことも一つの理由だったと思える。
だから、相手に何かするんじゃなくて自分が何かをして凪を笑顔にしようと考えた。
そこで見つけたのが父さんの部屋に置いてあった「サッカーボール」だった。
その時はサッカーにあんまり興味もなかった。けど、ボールを見た時に「これだ!」って思ったんだ。運命のように。
『ほら! 見ろよなっちゃん!』
『おにー?』
泣いている凪の前でポーンとボールを蹴ってみる。
すると凪は不思議な物を見るように目を丸くしてそのボールを目で追っていた。
『へへっ……うわっ!!』
が、あの頃の俺はすっげぇド下手でリフティングも1,2回が限界。この時も2回目にはボールがあらぬ方向に飛んでいった。
しかもそのボールが凪にぶつかって「おにーもいじわるするー!」とさらに泣かせてしまう始末。
今のままじゃダメだと練習したが、全然上手くならなかった。
そんな時、近所に二つ年上ですごくサッカーが上手い人がいるという話を父さんから聞いて、その人に弟子入りした。
弟子入りといっても……家の前で「サッカー教えてください!」ってお願いしただけだが。
相手は中学生の女の人。しかもとっても美人だった。
そんな相手によく恥ずかしがらず弟子入りなんて考えたな……と思うが、それだけ必死だったのだろう。
そこでも色々あったのだが……俺は何度も何度も教わり、練習して上手くなっていったのだ。
リフティングが何十回もできるようになった頃、凪はそれを見る度に笑顔で喜んで、一緒にボールを追いかけまわしたりしたもんだ。
☆
「へぇ……そ、そうだったんだ……」
俺が昔話をしてやると凪は驚いたような、嬉しいような、そんな表情をする。
「だから。凪……お前は俺のサッカーを始めた理由でもある。お前と一緒にサッカーをすることは、俺にとっても嬉しいことなんだ」
そこまで言葉にした時、凪は感極まったような顔をする。
今の俺たち……兄妹2人の絆は昔と同じように強固なものに戻った。そんな確信があった。
もう、元通りの仲良し兄妹だ。
凪は楓の顔を見てギュッと腕に抱き着く。赤らめた頬も押し付けながら。
「おにぃ……私たち、ずっと一緒にいようね」
温かな、そんな言葉を口にして……楓は、
「…………え? い、いや、ずっと一緒っていうのはさすがにちょっと……」
「……」
「妹とベッタリして学校で変な噂が立つの嫌だし……って、あ、ちょっと待って……くしゃみ出そう……はっ……はっ~……」
「ふんっ!」
「はぶおおおぉぉぉぉ!!」
くしゃみが出る……と同時に、凪は楓の腹に右ストレートをぶちこんだ。傍から見れば彼は急に奇声を上げて地面に倒れこむ変人に映ったことだろう。
「お、おまっ……なにすんだよ……!」
「うるさい。早く立たないと置いて行くけど」
さっきまでベタベタしてきたくせにこれだよ。だからずっと一緒は嫌なんだよ……
「ほらっ早く!」
「……へいへい」
でも、お互い大人になるまでは……たまにはこうやって仲良くするのも悪くないかもな。




