☆②─13話 兄妹接近大作戦?
「ただいま」
家に帰ると当たり前だが凪はもう帰っていた。
さっきの今でちょっと気まずいけど……まだ逃げるわけにはいかない。ここはもう1つ話し合いだ。
「凪。入っていいか?」
「おにぃ? あ、私がそっち行っていい?」
ん? 凪が俺の部屋に? なんでそんな面倒くさいことを。やっぱり女の子だから部屋見ないでとかあるのか。
「いいぞ」
「ありがと」
凪が出てきた。そしてそのまま俺の部屋へ一緒に入る。俺は椅子に座り、凪は俺のベッドに腰かけた。なぜまたベッドの方に行くんだ我が妹は。
凪はベッドに腰かけたまま何も言わないのでこっちから話すことにする。
「今日はごめんな。ずっと黙ってたなんて最低だよな。お兄ちゃんが悪かった」
今日のことを凪にもう1回謝っておいた。さっき舞依にも謝ったから今日はいっぱい謝ってる気がする。それだけ悪いことをしているわけだが。
「ううん。そのことはもういいよ。私も言い過ぎた。おにぃがサッカーのことで邪なこと考えてるなんてありえないよね。私の方こそごめん」
いや~、それがけっこう彼女たちとも色んなことがあってね? 邪な気持ちはないんだけどスキンシップ過多になっちゃうハプニングはあったと言いますか。
なんて言ったらまたボコ殴りだ。俺にそんな気持ちがないことだけは神に誓えるので大丈夫。ノットギルティだ。
「俺たち、たくさん話してるようで本心は隠しあってたんだな」
「私は別に何も……」
「凪だってサッカーやりたいんだろ? そのことはもうわかってる」
凪はうぐっ……と口をつぐんだ。
正解か。当然だ。「好き」って気持ちがそんな簡単に抑えられるわけない。
俺だってあんな過去の出来事があってもサッカーをまたやりたいと思うんだから。「好き」は、最強なんだ。
「また昔みたいに仲良くなれたらいいのにな。無邪気に笑ってサッカーしてたっけ? はは……」
これは嘘じゃなくて本当。
今回のことでお互いのことが何も見えていなかったとわかってしまった。当然のように隠し事をしたり、相手に従って自分の気持ちを押し殺したり。
「仲良く、なる?」
「はい?」
急に凪さんは「仲良くなる?」とかいうよく分からない言葉を発した。仲良くなるってそんな宣言してなるものだっけ?
「前におにぃ、私が友達の家に泊まる代わりに何でも言うこと1つ聞くって言ったよね?」
「………え。あ、」
うわぁ……メッチャ覚えてるぞそれ。逆に凪よどうか忘れていてくれと願っていたことだ。覚えてやがったのかぁ……! なんかこのタイミングでそれ出してくるの怖すぎるぞ。
「言ったかなー。記憶にあるような、ないような……ある、ない、ある、ない……」
「……あるの、ないの、どっち?」
「ありましたー! 記憶にあるある! あります! 何なりとー!」
背中に冷ややかな視線とイラついている声が突き刺さりギブアップ。
しかも机に置いてある開いたままのノートパソコンの真っ暗な画面に反射して凪の顔が映って見えたので超怖かった。
「どんなことをやらなきゃいけないんでしょうか? 『サンドバッグになれ』とかですか? それとも『三日間断食してみろ』とかですか……?」
「おにぃは私のことなんだと思ってるの!?」
普段は舞依たちと同じく、天使のように可愛い妹だと思ってるよ。ただ怒ってる時は暴君だと思ってるけど。
「明日土曜日でしょ?………一緒に、お出かけしない?」
「え!? そんなことでいいのか? 行く行く!」
思っているのより遥かに軽いお願い事が出てきた。そんなことならお安い御用だ。どこにでも行こう。『逝く』より何倍もマシだ。
「いっ、言ったからね! 私と出かけるって!」
「おう。言った言った。男に二言はない」
どうしてそこでそうなるのか分からんが凪はいつものように真っ赤な顔。もうこれ何回見ただろうか。真っ赤な顔の時の方が長いんじゃないかお前。
「明日11時! わかった!?」
「11時に一緒に家を出るんだな? わかったわかった」
情報が不足しまくっている言葉をこっちで補足。
なにやら凪は興奮しまくっている。俺と一緒に遊ぶことは久しぶりだからな。無理もない。
俺だって凪と出かけるなんて楽しみだ。こんなことをするようになるのも、昨日の夜にやった距離を近づける作戦のおかげなのかね。
「じゃ、じゃあまた明日!」
また明日、って。晩御飯ですぐ会うだろ。もう凪の頭は明日のことに切り替わっているということなのか。
「明日何するんだろ」
女の子だから新しい服とか買いたいのかな?
それなら俺がお金を出してあげようかな。妹のために使えるのならそれは有効活用だ。理想的な兄……いや、理想的なおにぃ、ここにありだな。
と、気を付けていてもまたシスコンのようなことを考えているアホな俺はパソコンで最近流行りの服などを検索していた。
「そういえば宇津木の奴、今日どうしたんだろうな」
☆
「ふぅ……」
宇津木詩織は自宅の父の部屋の前で息を整える。
別に今から重要なことを告げるわけではない。ただ「明日の土曜日に出かけたい」ということだけだった。
けれど、ここではそれを父に報告しなければいけない。
詩織は父の部屋の襖を開ける。
この家は和風なこともあって少しの例外はあれど、ほぼ全部屋和室だ。父の部屋も例外ではなく和室。
例外とは詩織の部屋と妹の伊織の部屋である。女の子にはさすがに洋室を与えているのだ。
ただ父、源十郎の部屋には豪華な家具がいくつもある。
しかも何が恐ろしいというと、部屋の奥には刀が二振り置かれていた。模造刀……と思いたい。
「パパ。明日出かけるから」
「そうか。わかった」
源十郎は二つ返事で了承する。ここで終わればどこにでもある家庭の一般的な答え。しかし、宇津木家はこれだけではない。
「……おい、喜一!」
「はい!……ここに」
源十郎が一声かけると詩織の後ろに20代前半の好青年が現れる。
その喜一と呼ばれた男はモデルみたいに顔が整っている。100人に聞けばまず間違いなく9割がイケメンと答えるほどに。
喜一は宇津木詩織の兄………などではない。
なのにも関わらずこの家に住んでいる。そこが、それこそがこの宇津木家が他の家とは明らかに違うところだった。先に言っておくが彼は執事でもない。
「喜一。詩織が明日出かけるみたいだ。一緒に行け」
「はい。わかりました」
詩織はやっぱりか、と顔を歪ませる。これだから嫌だったのだというように。
「私1人でも大丈夫よ。別にちょっと息抜きに街に出るだけ」
「それでも1人はダメだ。……詩織、わかっているだろ?」
「……はいはい」
詩織は抗議を試みるがすぐに撃沈。
そもそも1人で行くことなんて無理なことだと最初からわかっていた。絶対に「誰か」がついてくることはわかっていたのだ。
「お嬢。それでは明日」
「よろしく」
詩織のことを「お嬢」と呼んだ喜一は用が済んだと去っていく。
全然よろしくするつもりはなかったが父の言うことに私は逆らえない。あの喜一という男も源十郎には逆らえない。ここでは父が一番だ。
「結局、息は詰まりそうね……」
詩織はそう吐き捨て、自室に戻っていった。




