☆②─11話 バーサーク・シスター!?
「皆、勧誘はどんな感じ?」
「ぜんぜんダメー! かんとく助けてー!」
次の日。俺は体育館で勧誘の結果を聞いてみた。
だが、さっそく亜子が俺の体にしがみつきながら現時点での結果が芳しくないということを伝えてくる。やっぱりそうか。
ちなみに今、体育館にいるのは俺と白戸、亜子となゆちゃんと牧野の5人。
舞依は日直の幼児……じゃなかった、用事があるみたいでまだ来ていない。宇津木は……今日は休ませてとのこと。
宇津木のことは気になるが……次に練習へ来た時に何があったか聞けばいい。今日も練習はするつもりだったから宇津木抜きでメニューを考えなくてはいけないのが痛いが。なんたってこの部はメンバーがとにかく少ないから1人いないだけで致命的なのだ。
「とりあえず舞依が来てから練習を始めようか。それまで勧誘についてどうするか対策を立てよう」
「はーい」
亜子の言う通り助けてやりたいが、一番苦手そうな俺みたいな奴が的確なアドバイスをやれるわけがない。ここは皆で考えて良い案を出そう。
こういう時こそ宇津木とかが色々な案を出してくれそうなんだけどな……
☆
「舞依、あと頼むな。凪、暇なら手伝ってやってくれ」
「はいっ!」
「えぇ……私クラス違うんだけど……」
舞依のクラスの担任である桜庭遼は戸締りや黒板の掃除などを今日の日直である舞依と、帰ろうとしていた隣のクラスの凪に任せて教室を出ていった。
教室の鍵は日直に渡して帰りに職員室に返しに来させるという形式なので鍵は舞依が持っている。
凪は関係なかったがこうなっては手伝わないと冷たく思われるので残ることにした。
舞依は黒板の掃除を、凪は窓の鍵を閉める担当。2人一緒に同じところをやっていても効率が悪いので必然的にこうなる。
そのせいというわけではないのだが、あまり2人の間で言葉が出なかった。静かな教室の中で鍵が閉まっていく音だけが響いていく。
「……凪さん。考えてくれました? フットサルの件」
舞依はとうとう沈黙に耐えられなかったのか。言葉を発する。きっと相手が凪以外の人物であれば黙ったままでいただろう。
しかし、相手は前に勧誘した桜庭凪だ。
1日経って気が変わったかもしれない。凪に監督をやっていることを隠し続けている楓には悪いが凪にはぜひフットサル部に来てほしいという気持ちの方が強かった。
「あ~、あれね。無理、かな。男子サッカー部のマネージャーやろうかなって思ってて」
「ええ!?」
変わらずパチン、パチンと窓の鍵が閉まっていく音が響く。
舞依は黒板消しを落とし、バフッと白煙が周囲に舞った。そのせいでケホケホと咳き込んだが今はそんな間抜けなことをしている場合ではない。
「なんでですか!?」
「昨日ね。おにぃ……ちゃん、と話し合ってね。フットサルよりサッカー部のマネージャーやった方が良いんじゃないかって言われて」
それを聞いた時、舞依はショックを受けた。
凪の気持ちがフットサル以外に向いたことではない。楓がフットサル以外を推したことだ。
いくら妹にバレたくないからといってまさか他の場所を推奨したりするなんて思わなかった。これにはさすがの舞依も楓のことといえども怒りが出てくる。
凪の手が残っていた最後の窓の鍵に差し掛かった時、たまらず舞依は凪に言葉をぶつける。
「凪さんはそれでいいんですか?」
「……」
凪の手が止まる。鍵に伸ばしていた手を下ろして舞依の方を見た。
「どういう意味?」
「かえ─じゃなくて、お兄さんの言葉で何かを決めて、それでいいんですか!? 凪さんはフットサルやりたくないんですか!? なんだか凪さんとお兄さんどっちも本心で話してない気がしますっ!」
舞依は一気に捲し立てる。凪は全て聞き終わるとギリ……と歯ぎしりをした。
「立花さんにおにぃの何がわかるって言うの! おにぃが私のことちゃんと考えて言ってくれたことだもん!!」
「おにぃ……?」
「お、お兄ちゃん! ちょっと噛んだだけ! そんなとこ気にしなくていいから!」
凪はハッと気づいてすぐに訂正する。
家では楓のことを「おにぃ」と呼んでいるが学校で友達に話す時は「お兄ちゃん」呼びにしている。
凪が決して内弁慶というわけではないが、ただ単に家で楓と接する時のようなブラコン気味な自分を周りに見せるのは恥ずかしいのだ。
「きっと凪さんの心の中で『サッカーやりたい』『フットサルやってみたい』って気持ちがたくさんあるはずですっ! 話だけじゃなくて……実際に見ましょう! フットサルを!」
「え?……ちょっと! 戸締りは!? ええええ!?」
舞依は凪の手を引っ張って教室を出た。窓の鍵は1つだけ閉じられず。
乱暴に開け放たれたままの教室の扉から1人の人物が中に入ってきた。
「おいおい。途中で行っちまうのかよ。しかも黒板消し落ちてるし」
その人物は日直に仕事を任せて職員室に帰っていったはずの桜庭遼だった。
遼は落ちている黒板消しを拾って元の位置に戻してやる。
「悪ぃな楓。モタモタしてるわけにはいかねえんだ。まだ詩織の件も残ってる。昨日の時点でフットサルのことを打ち明けなかったからこうなるんだぜ」
桜庭遼は、舞依が凪をフットサル部に勧誘したことを知っていた。
そして昨日の夜に楓がまだ凪に対してフットサル部の監督をやっていることを黙ったままにしていたことも。
凪に日直の仕事をさせたのも舞依と2人で残すため。舞依なら凪をフットサル部に連れていくだろうと読んでのことだった。
「楓。もう逃げ道を作るな。ただそれだけだ」
遼は窓の鍵をパチン……と閉め、教室の扉を閉めた。
☆
「舞依遅いな。そろそろ練習を始めたいんだが……」
勧誘の話は一旦終了して練習をすることにした。
結局、良い案は出ずで終わってしまった。楓は悩んだことがあると何か気分転換するようにしてるので、練習をしてから話を再開しようかとなったのだ。
(本当は凪のことを皆に話すべきなのかもしれないけど……まぁいいか。その件はこっちでなんとか─)
「すみません! 遅れました!」
舞依は体育館の扉をバーンと勢いよく開いて現れる。
日直の仕事が終わったんだな。ちょうどよかった。これから練習するところだ。
「あ、舞依。今から練習をしようと……」
「………」
なんだろう。え? 舞依、怒ってる?
むむむ……と半眼になってこっちを睨んでいる気がする。
何かあったのかと舞依の方に駆け寄ろうとした時、さらに体育館の扉を開いて中に入ってくる者がいた。
「お邪魔します……。えっと、ここってフットサル部で………………………え、」
「は?」
入ってきた者─「桜庭凪」と、舞依に近づこうとした楓は至近距離で目が合う。
つまり人違いと言い逃れできない距離。その距離で……出会ってしまった!
「お、にぃ……? なんで、ここにいるの?」
「な、ぎ!? なんっ……え? なんで……!」
まさか舞依が連れて来た? 嘘……嘘でしょ!? マジで!? ど、どどどどどうすればばば!
「あ、あ~……なんで俺こんなとこいるんだろな~。高等部にいたはずが、気づいたら初等部の体育館に迷い込んでた。な……何を言っているのかわからねーと思うが俺もなんでこうなってるかわからんなー」
結果、無理やりにも俺がここの関係者ではないとすることにした。この期に及んでまだそんなことを言うのかと思うかもしれないが凪の怒りとは半端なもんじゃねーんだ!
「楓さんっ! 今日も近衛学園初等部女子フットサル部の指導お願いしますっ!!」
ちょおおおい! 舞依バラすなぁ! なんでわざわざ今それ言うの!?
よく見ると舞依はプクーッと頬を膨らませている。
これでわかった。舞依は俺が凪をフットサルから遠ざけていたことを知って怒っているんだ。
「かんとくー! どしたの?」
「にーたん?」
「あれ……桜庭さん?」
「あ、その子が凪ちゃん? へぇ……生で見るとまた一段と可愛いね。芸能人みたい」
うわぁ、皆寄ってきた!
亜子は後ろから抱き着いてくる。なゆちゃんは俺の服の袖をギュッと掴みながら凪の前で「にーたん」呼び。し、死ぬ。これは……絶対死ぬッ!
俺は恐る恐る凪を見る。凪、やっぱりおこっ─ぶえっ!!
表情を見ようとしたがいきなりの鉄拳制裁。右ストレートが腹に突き刺さる。俺は地面に崩れ落ちた。
「おにぃ。ここで何してんの?」
すごい冷たい声。うぅ……ごめんなさいぃ……。
「ちょっと、ちょっとだけ、あの、体育館寄って練習を覗いてただけで……その、関係者とかじゃ全然なくて、そのぅ……」
「おにぃさっき『監督』って呼ばれてなかった?」
「すみません嘘つきましたここの監督やってますごめんなさいぃぃ!!!!」
俺は即座に土下座フォームになり一息で謝る。妹への恐怖が成した技だ。
しかし次の瞬間には土下座してた俺の頭にドカッと凪の足が乗る。痛ぇ!
「なんで黙ってたの?」
「な、なっちゃぁん……」
「うっさい。いつまでその名前で呼んでんの。キモい」
昨日お前ノリノリだっただろ!! メッチャ真っ赤な顔して満更じゃなかったくせに! あと気づいてないのか俺のこと「おにぃ」呼びになってるし!
「お前にバレたら……絶対こうなるってわかってたから……」
「それって自分が後ろめたいことやってる自覚があるってことだよね? なに? 女子小学生の監督やっててウハウハだった? おにぃロリコンだったんだ?」
うっわ。宇津木となんら遜色ないレベルで嵐の罵倒が来るよ。妹から「ロリコンだったんだ?」とか言われるとは。これ想像以上に死にてぇ……
「おにぃが女子小学生とイチャイチャしてたのもムカつくけど、隠されてたってことが一番ムカつく!」
「イチャイチャはしてねえよ!!」
俺は頭を上げてそれだけは抗議する。断じて女子小学生とイチャイチャはしてない! 大事なことだから2回言っといた。
「俺は真面目にこの子たちの監督をやってる! この前だって練習試合をやったんだ。勝つために作戦だって考えた。何より皆本当に頑張ってくれた。そんな選手たちに対して変なことなんてしない!」
「…………本気ってことはわかった」
わ、わかってくれたぁ! さすがはマイシスター。信用はあるわけだ。依然として変態という評価は覆ってなさそうだけど。
「はぁ。せっかく来たし……見てみる」
「はい?」
「練習。見学する」




