☆②─3話 ぼっちの会話シミュレーション
そして休み時間。
「白戸お前なぁ!」
「メンゴメンゴ。寝ちゃってた(笑)」
と、容疑者はこんなことを言っている。100%わざとだ。じゃなきゃ休み時間終了からの数分で寝るようなこと普通しない。しかもなんだよそのやる気のない謝罪は。
「それよりもどうすれば……俺、初対面の女子と同じ委員会になっちゃったんだが」
「友達になればいいじゃん。それで仲良くなってワンチャンって? きっも無理」
「お前とうとう現在だけじゃなく未来の俺にまで罵倒するようになったか」
完全に面白がっている。こいつには一回痛い目を見せた方がいいと思うのだが今はこいつの方が上手。いつかは言い負かしてやりたいところだ。
「俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて。最近の女子とはどんなことを話せばいい? お、俺サッカーのことぐらいしか話すことないぞ」
「いるよね~。自分の知ってることを延々と一方的に早口で語って満足するオタク男子」
「素直にサッカーの話題はダメって言え! でも、そうか。どうすれば……」
俺は情けなくあたふた困っていると机で肘をつきながらゴミを見るような目で俺を見ていた白戸が溜息をつく。
「あんた本……は読まなそうだから、ゲームとかの話題は? 女子でも案外やる子はやったりしてるんじゃない?」
「それだ!……ウイイレとかか?」
「………」
「頼むから無言にならないでくれ……!」
サッカーやフットサルが大人気なこんな時代なんだから女子だってサッカー好きな子とかいるでしょ? ウイイレとかやってる子実はいるんじゃないの……?
「あ、ポケモン! ポケモンはどうだ?」
「あー、まぁ……う~ん。もうそれでいいんじゃない?」
白戸はかなり適当な返事だが女子とゲームの話題というとポケモンがちょうどいいかもしれない。そもそも俺、ゲームもそこまで得意な方じゃないから多くは知らないけど。
「白戸。好きなポケモンのタイプとかあるか?」
「は? 急に何」
「会話のシミュレーションだよ。頼む、付き合ってくれ」
白戸は激しく嫌そうな顔をする。それどころかさっさとあっちいけよみたいな顔もしてる。俺って虫か何かなの?
何度も何度もお願いしてなんとか付き合ってくれることになった。
白戸を相手に会話のシミュレーションなんて死んでもしたくないがこいつも一応女子なんだ。使えるものは使っておかないと。友達を作るために利用させてもらうぞ白戸。
シミュレーション、スタート!
「好きなポケモンのタイプとかあるか?」
「くさタイプ」
「へー、それはまたなんで?」
「フシギダネ好きだから」
こいつ……! 意外と普通に可愛い返しをしてて驚いたぞ。どこか調子悪いのか? 本当に白戸なのかお前は。
「なんでフシギダネなんだ?」
「可愛いじゃん?」
「ダネダネ♪って鳴くんだよな?」
「うっわ今のすっごいキモいウケる」
「忘れろ……!」
いらんとこツッコまんでいい。それより……会話できてるんじゃないか? 白戸の罵倒とかそういうのは置いといて。
「あんたは?」
「俺は……ほのおタイプかな」
「……」
「………おい、なんでか理由を聞けよ」
「あ、ゴメン。もう終わったのかと思った」
会話広げる気0かよ! 俺はそんなに無愛想な女子と仲良くなろうとしてる設定なのか!?
ちなみに俺がほのおタイプ好きなのはリザードンカッコイイなって子供の頃思ってたからだ。子供は単純だからドラゴンっぽいやつが好きなんだよな。
「ま、適当になんでも自分から話振ってたら付き合ってくれるでしょ。アドリブで頑張って。困ったらもうサッカーの話をオタクみたいに早口で語ってれば?」
白戸はそう言って勝手に眠ってしまった。
さっきの時間も寝てたくせにまだ寝るのかよって言いたかったが、それよりもシミュレーションが十分ではないことに焦りを覚える。このまま友達なんてできるのか?
(友達ってどうやって作ってたのかなー)
歳を重ねる度にわからなくなってくることだ。小学生の頃は無邪気に話しかけたりしてたのかな。今ではそんな勇気あるわけない。他人を気にして行動を起こさなくなるのは成長することの欠点だな。
「なるように、なるか……」
女子と会話したり友達1つ作ろうとしたりで一々こんな対策とか取ってたらそれこそ疲れる。こんなことしてる奴に友達なんかできないよな。何事も前向きに……だ。
俺は覚悟を決めて、自分の席に着いた。
☆
~初等部~
今は給食の時間。初等部では5人で構成される「班」が決められていて、その班同士の子と机をくっつけて食べることと決まっている。ちなみに舞依たち5人は同じ班だ。これも担任の桜庭遼が気を利かせていた。
今日の献立はコッペパン、アスパラサラダ、ワンタンスープにパック牛乳。デザートにはミカンのゼリーだ。
「しおりー。スープとサラダ交換しよー!」
「あんたがサラダ嫌いなだけでしょーが! 食いなさいほら! 食え!」
「もががががが!!」
亜子が勝手に自分のサラダと詩織のスープを取り換えようとするとそれに気づいた詩織はそのサラダを取って無理やり亜子の口にねじ込ませた。
「愛実。私デザートいらないから食べる?」
「え? いいんですか舞依さん」
舞依はコソッと愛実にゼリーを渡そうとする。
「舞依。ゼリーきらいだった?」
それを見た奈夕葉は舞依がゼリー嫌いなのかと思ったが……
「ううん、そうじゃないんだけどっ! ちょっと食べる量を減らそうかなって」
実は舞依は女の子にしては結構食べる方だ。家での晩御飯もおかわりするほどにいっぱい食べている。かといって決して太ってるだとかそんなことはない。平均的な体型と言える。むしろ他の女子より華奢な方だ
「えー、なんで?」
「あれでしょ? ぶ……監督に良く見られたいからでしょ?」
亜子は不思議そうに聞くがすぐに詩織が答えを出した。それに舞依の顔は真っ赤に染まる。
「もう詩織! そんなんじゃないもんっ!」
「はいはい。そういうことにしとくわ」
詩織は別の意味でお腹いっぱいだと言いたげな顔をする。
舞依が楓のことを意識しているのは誰の目でも明らか。正直こんなに否定せずにもう楽になってしまえば良いのにと思っていた。
「愛実にあげるんじゃなくて前の教卓に出しに行けばいいのに。どうせ男子が争奪するでしょ。ほら」
詩織が教壇の方を指し示すと、そこに「おーい! 今日の余ったゼリーいるやつー!」と教室中に伝わる声を発した男子がいた。
これは欠席や苦手といった理由でデザートが余った時に行われる恒例的なもの。デザート争奪戦だ。
主に男子がこれに参加する。ジャンケンを行って勝者がデザートを1個持っていくというシンプルなもの。敗者はただ去るのみ。勝者だけが甘い汁を吸えるのである。
だが、ことこのクラス6-1組においてはおよそ他の教室では見ないであろう光景がそこにはあった。
「……ちぇっ、今日もせんせー参加すんのかよ!」
「大人はちょっとくらいえんりょしろよなー!」
「うっせぇ! 俺もデザート欲しいんだよ!」
なんとそこに担任教師の桜庭遼も参加していた。
普通、給食のデザートは子供の楽しみの1つ。それが余れば欲しいと願う生徒が少ないわけがない。それを大人が奪おうなどという悪魔の所業が許されていいのか。
しかし、桜庭遼は悪魔だ。
こんな非道を何食わぬ顔で、それどころかほくそ笑みながら行う通称「ゲスの極みクズ」。
ジャンケンに勝てばなんの慈悲もなくこいつがデザートを奪っていくと男子たちは知っている。昨日余っていた1つだけのクレープを奪われたのは記憶に新しい。
「はいジャーンケーンポォーン!!」
「あ、なんだよそれ!」
「おまえなに出したんだ!」
集まった男子4人+桜庭遼はジャンケンを開始した。
だが勢いよく叫びながら出した桜庭遼の手は他の男子たちとはまったく違う手─パーでもグーでもチョキでもない─を出していた。
その手は親指、人差し指、中指だけをピンと伸ばし、薬指と小指は閉じているチョキの亜種のような形をしている。
「ふっふっふ。無知なガキどもに教えてやろうか? これこそが禁断の奥義にして桜庭家究極の必殺技……その名も『無敵』だ! 見てみろ……この手、パー、グー、チョキ全ての形を有しているだろう。つまりこれはどの手にも勝てるってことなんだよ! ざまーみろバーカ! 今日もデザートは俺のもんだ!!」
そう言って勝手に教壇の上に置いてあったゼリーを手に取る。……が、そんな暴挙を生徒が許すはずもない。
「いみわかんねーんだよ!」
「なーにが『無敵』だ!」
「りんちだー! ぶっこ〇せー!」
突如生徒は変貌。30cmものさしやリコーダーを手に取って遼を取り囲んで殴りかかった。
「いてっ! おい、お前ら……! いた、いたたた! ちょ、すと、ストップ! ちょっと待って、誰か算数で使ってる先生用のデカイ三角定規使ってる奴いねーか? 痛い痛い! あぁ、血出た! 血出たって! いたたたたた!! 誰かたすけてくれー! 死ぬー!」
今や遼は地面に倒れ伏しそれでも小学生の男子生徒にボコられまくっていた。しかもその隙に自分の分のデザートやスープまで生徒たちに強奪されている始末である。
結果、給食の全てをはぎ取られて力尽き地面に倒れた遼の姿があった。
自業自得である。そもそもいい歳した大人が小学生とデザートを争奪するなよという話だ。
「アホね」
その姿を見てフットサル部メンバーは苦笑だったが詩織だけはドン引きしていた。
知ってる人は知ってると思いますが親子が担任と教え子の関係になることはおそらく私学でもないと思います。当初それを完全に忘れていたせいで「舞依たちと凪が同じクラスである」という設定を急遽変更しています。フィクションの中だからいいかな……とも思ったんですが自分が気になりすぎてダメでした。申し訳ございません……。




