↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すぴーどすた~☆ ~近衛学園初等部女子フットサル部~  作者: 四季 雅
第1章 ☆チーム結成編!☆
PR
122/125

☆③─50話 勇気の証明問題



「あっ、なゆさん!」


「……お~、めぐ~」



 扉を開くと、そこには牧野愛実がいた。練習着のままだから、きっとさっきまでチームでの練習があったのだろう。

 もう日も暮れ夜になろうとしている。そんな時に何をしに来たのだろうか。



 とりあえず中に入れ、縁台に2人で座る。



「練習の方は、どうですか?」


「んー。びみょうかも」


「微妙ですか……」


「めぐの方は?」


「順調……なんでしょうか。私達、次負けたら終わりですから、まだやれることがあるんじゃないかとか、でも何をすればいいのか、よくわかってないかもしれません」



 複雑な心中だ。もっともっと練習するべきなのだろうが、体を壊しては意味がないし、今からやって何が身につくかもわからない。

 上手くいっている、と自分を騙しているだけなのかも、しれない。



「なゆさんはどんな練習をしているんですか?」


「……」



 やっているのは基礎練習と兄との1VS1。それを説明していると、愛実は口を開けて驚く。



「お兄さんってサッカーをやってるんですよね? そんな相手に勝てるまでこちらの練習に復帰できないなんて……」


「うん……」



 そう言われると、自分の心が少しばかりズキリと痛む。




 本当は、早く復帰できたかもしれないから。





(なゆは、わざと手を抜いてるよね?)



 兄のあの言葉は、本当だ。



 自分はボールを奪わないようにしている。練習でも、精一杯頑張る時と少しだけ力を抜いている時がある。


 フットサルが嫌いだからじゃない。むしろ大好きだ。皆と一緒にいられるのだから。




 皆と一緒だから、なのだ。




 その気持ちは奥底に隠し、黙っていると、



 愛実は思い詰める奈夕葉の手を握ってきた。



「めぐ……?」


「なゆさん、私達といて楽しいですか?」



 突然にそんなことを聞いてくる。



「うん」



 答えは決まっている。その気持ちに嘘なんてない。



「じゃあフットサルは楽しいですか?」


「うん」






「なゆさんは……本当に楽しいですか?」


「……え?」



 よく意味が分からない。さっき楽しいと答えたはず。実際自分は楽しんでいる。皆とフットサルすることは楽しい。皆が楽しそうにしているだけで自分は満足。



「もしかして、めぐはなゆと一緒だと楽しくない?」


「ううん。そんなことないですよ。皆も、そんなことは思っていません。今もずっと楽しいです」


「それなら何も……」



「だから、もっと楽しくさせてください」



 愛実は自分の前に出て顔を覗き込んでくる。その顔は微笑んでいて、優しく、温かなものだった。



「お兄さんほどじゃないですけど、これでもいつもなゆさんを見ていたんですからわかります。無理をしていたって」


「めぐ……」


「今でもすごく楽しい。けれどもしも、なゆさんの中にまだ何かあるのなら、今よりもっと楽しいことになるってことじゃないですか」


「それは……」


「それを、私達に見せてはくれないんですか?」



 奈夕葉は顔を背ける。まるで問いから逃げるように。

 初めてだ。問題を解こうとせず避けたのは。




 それでも、彼女は諦めない。いくらだって、問題を出す。



「なゆさん、一緒に戦いませんか?」


「なにと?」



「怖いって気持ちと」



 愛実はそれを来栖谷との練習試合で知った。きっとゴレイロというチームのゴールを守る役割にいるからこそ学んだのかもしれない。


 自分のせいで失点する。いくら周りが失点はディフェンスのせいだと言っても、直接的に関係してくるのはどうしたって自分。



 相手が迫ってくるのが怖い。次の瞬間に自分のせいで負けを決めてしまうかもしれない。どれだけ覚悟を決めても、脳裏にはゴールを入れられるシーンがちらつく。




 でも、それが全てではなかった。



 自分だけが戦っているんじゃない。皆で戦っている。この怖い気持ちは自分だけのものじゃない。皆のもの。



 チームでいるなら、皆のもの。



「私達はチームです」


「うん」


「何があっても、見捨てないし、離れたりもしません」


「うん……」



「だから、なゆさんも私達を見捨てたり、私達から離れたりしないでください。なゆさんが大好きな私達を、信じてください」


「う、ん…………」



 ポツ、ポツ、……と、床にシミができる。雨漏りなわけがない。原因はわかっている。

 わかっているのに、その雨は止まらなかった。



 ただただ怖かった。皆が離れていくのが。

 自分の全部を見せて、疎まれるのが怖かった。


 何も知らない相手なら、別に嫌われても耐えられたのに。フットサル部のメンバーに嫌われたら、とても苦しかった。




 嫌われてしまうのなら、皆が大好きな自分を演じようって。




 皆が好きでいてくれたのは、才能があるのにどこか抜けていて誰の邪魔もしない「演じていた自分」じゃなく、いつだって「なゆ」だったのに……!



「…………たい……!」


「?」





「たた、かい……たい……!」





 なゆも、皆と一緒に、



「戦いたい!!!!」


「そうですね。……そうです」



 一緒に立ち上がる。愛実が手を引いて、奈夕葉は足に力を込めて。



「ありがとう。めぐ」


「いいえ。私は皆のお姉さんですから」



 その慈愛のこもった眼差しは、いつも自分を優しく包み込んでくれる。



 そうだ。戦おう。一人じゃなく、自分の除いた皆ではなく、



 全員で。



 そのためには、兄に勝たなくては。証明しなくては。己自身を。



「じゃあ、私はなゆさんを手伝います!」


「え」


「なゆさんがはやく復帰できるように、今、一緒に戦います!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。