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すぴーどすた~☆ ~近衛学園初等部女子フットサル部~  作者: 四季 雅
第1章 ☆チーム結成編!☆
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☆③─49話 舐めてるよ



 舞依たちが公園で練習している間、奈夕葉は自宅で練習していた。


 近衛学園初等部というそれなりにお金持ちの小学生が通う学校に所属している以上、四井家もなかなかに裕福な家庭である。

 自宅の庭(庭といっても体育館の半面並みに広い)には慧と奈夕葉のためのフットサル用のゴール。さらには小規模ながら人工芝も完備。普通の家庭ならドン引きものだ。



 そこに四井兄妹は立っていた。




「……」


「なゆ。いつまで膨れてるの。今日の分、やるよ」



 兄である四井慧は自分の足元にボールを転がす。


 そんな兄など知らぬと彼女が頬を膨らまして不満そうにしているのを慧は不思議そうに見つめる。



「だって。にーに。練習いかせてくれない」



「それは最初に説明したよ」



 奈夕葉はここのところフットサル部の練習に参加できていない。というのも表向きは兄との個人練習をするとなっているが、この兄こそが参加させないようにしているのだ。


 一度放課後に隠れて参加しようとしたが、見つかって引っ張って帰らされたこともある。



「全力をわざと出そうとしない今のなゆはチーム練習に混ざるべきじゃない。むしろチームの連携を悪化させることになる」



「全力、出してるもん」



「それを証明するまでは、ね」




 慧は足元のボールをドリブルすると奈夕葉に向かって加速する!



 彼ら練習はシンプルなもの。準備運動や軽いランニングなんかをこなした後はずっと1VS1だ。



 奈夕葉が慧からボールを奪えればチームに復帰。奪えなければ継続。



 未だにチームの練習に入れていない時点で、これまでの結果は言うまでもないだろう。




 慧は一気に間合いを詰め、単純なドリブル進行による速度で抜きにかかろうとする。


 だが当然、そんな簡単に行くはずもなく、奈夕葉は行く手を阻むが……



(ここだ!)



 奈夕葉の重心が自分の進行方向に傾いたのを確認すると、そこから緩急をつけぐるりと急回転。

 体を転回させることで相手ディフェンスの逆をつく、慧が得意とするオフェンス技術──「ルーレット」だ。



 見る側からすれば少々派手さもある抜き方だが、ボールにばかり注視していると引っかかってしまうフェイント技術である。舞依なんかはめちゃくちゃ引っかかる。



 慧は眼前に奈夕葉がいないことを確認すると完全に抜いたことを確信するが、




 ズッ…………!!


(なっ……!)



 自分の視界横から、人影が近づくのが見える。今ここにいるのは自分と妹だけ。つまり、奈夕葉は自身が仕掛けたルーレットに反応しているのだ。


 普通、何の警戒もなく引っかかってしまった相手というのは動けずただ呆然と敵を見送るしかなくなる。この「ルーレット」でもそれは同じで対策しなければ一瞬で相手が自分の背後に回ってしまう技だ。



 そうならないってことは……



(奈夕葉は僕がフェイントをかけて逆側に抜くことに気づいてた……)



 慧はこう予想しているが、実際のところは異なる。




 奈夕葉は慧が接近する瞬間に、行く手を阻むために自身の体の重心を傾けた。





 「わざと」だ。




 重心が傾けば、相手はその逆側をつく。これはあらゆるスポーツでの攻撃の基本だ。

 そのためにフェイント技術を使う。重心が傾いた状態こそが最も抜きやすい状態なのだから、惑わす動きで相手のリズムを外し、無理やり重心を傾けさせる。



 だからこそ、あえてこちらからわざと傾けた。それに気づいて自分の逆側に進ませるために。そして、相手が抜いたと思い油断する次の瞬間を刈り取るために。





 そう。つまり奈夕葉は引っかかったのではない。わずかな動作で慧がフェイントをかけて逆側に抜くよう誘導したのだ。




 次に待つのはボールをカットされるシーンだ。完全に抜ききれなかった以上、不利なのはむしろ慧の方。相手と向き合っているならいざ知らず、抜いたと錯覚し体が前へ前へと流れている体勢でディフェンスを対応するのは難しい。




 慧は、やられたと確信した……




 が、




 ピタッ……




 この必勝の好機に止まるはずのない、自分の足元に伸びる妹の足が、一瞬だけ止まった。




 それを見て慧はギリッと歯ぎしりする。



 そのまま構わず足を振りぬき、シュートを放つ。無人のゴールネットに深くボールは突き刺さった。



 これは、




「また、なゆの、負け」



「ふざけるなよ!!」




 慧は地面に叫ぶ。まるでさっきのシーンに唾棄するように。



 ずっとこれなんだ。




 僕だって小学生からサッカーを続けてきた。普通にやればなゆに何度も勝つ。


 でも、時折何回かはこうやって不自然になゆの動きが止まる時がある。しかもそれは決まってボールが奪える決定機だ。




 これは、完全な舐めプだ……!




「そういうところじゃないの……? 手を抜いてるってのは……」



「! な、なゆは、ふつうにやってる。にぃにの方が上手いもん」



「嘘だ。さっきだってボールを奪えたはずじゃないか。なんで取ろうとしなかったの?」



「とろうとしたもん。でもにぃにが、はやかった、から……」



 なゆはあからさまにしどろもどろになる。こんなみっともない問答なんてない。自分が負けたのに、相手にそれを認めさせるなんて屈辱的すぎる。



「チームの練習の時だってそうだった。今も。どうして、そんなことするんだよ……」


「…………」


「どうして!!」








「だって、そしたらにぃにが──」





 そうボソリと呟いた時、奈夕葉はハッとして口をつぐむ。

 まるで、必死に抑えていたものが漏れ出てしまったかのように。



「今、僕が、なんて……」



「…………」



「なゆ!」




 今の言葉こそがこの終わりのない迷路の出口であり、活路だと思った。なゆの抱えているものを吐き出させようと。



 けど、



 ピンポーン!



 家のインターホンが鳴る。誰かが来たようだ。今、両親はまだ仕事で家を留守にしていて自分たちしかいない。どちらかが出ないといけないのだ。



「…………一旦休憩、しよっか」


「うん……」



 正直。空気も重くなってきて問い詰めようにも心苦しくなったところだ。一刻も早くこの悪癖を治さないといけない時ではあるが、変な話インターホンで助かったと思ってしまう自分がいた。



 ここから少しだけ奈夕葉と慧のお話になります。桜庭兄妹の過去については、実は楓のトラウマの話がまだ終わっていないので今のところは楽しく面白くをモットーに書いていますが、四井兄妹の方はどうでしょうかね。こっちの兄妹のお話は個人的には好きですが、なんとも兄の慧くんの心情が辛いお話になります……

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